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心を読んだかのようなタイミングで発せられた言葉に、ローレンは驚きビクリッと身体を大きく震わせた。
「いるのだろう、ローレン・アシュベル」
魔女はしっかりと扉の方を見つめている。その言葉に他の三人も一斉に振り返った。
真っ蒼な顔色で俯きながら、ローレンは覚悟を決めたように扉から姿を現す。
「ローレン…」
「申し訳ございません、団長。任務のことで相談したいことがありまして、盗み聞くつもりでは…」
尻すぼみに言葉は消えていく。今の話を一刻も早く問いただしたいが、部屋の中にいるのは皆ローレンより身分も立場も上のものたちだ。
言葉をつづけられず黙りこくったローレンに、魔女が近づいた。
「そなたがいることは、最初から気が付いていた。我々はわざと聞かせたのだ」
「な!?なぜ、そんなこと…」
動揺するローレンに、魔女はフードで隠れていない口元をニヤリと歪め笑った。
「知りたいのだろう?真実を。我々はそなたを利用してしまったから、知る権利もあると思っている。どうする?」
聞いてはならない。
とっさにそう感じたが、実際には否定することも耳を塞ぐことも出来ず、ただ茫然と立ち尽くしていた。
パタン、と扉が閉まる音がした。
「無言は肯定とみなそうか」
「本当によろしいのですか?魔女様」
まだ多少の戸惑いを滲ませながら士長が問う。
「この者も鈍くはない。不審に思っていることもある。もっとも、まだ無意識だったかもしれないが。だがそれはいずれ大きな歪みになる。今のうちに手を打っておくべきだ」
「そう、ですね…。わかりました」
自らについて交わされる会話だったが、ローレンには何一つ理解できないままだ。思わず団長の方を見るが、視線がぶつかるとすぐに団長は避けるように顔を背けた。
一瞬だけ見えた団長の瞳にあった感情は何だったのだろうか…確かめることは出来なかった。
「エミリア・グニエ。それが我々を繋ぐ者の名です、アシュベル副団長殿」
士長がゆっくりと語り始める。
「エミリア…グニエ…?」
覚えのない名に、ローレンは首を傾げる。
「ご存じありませんか。まあ、無理もありません。一介の侍女の名などいちいち覚えてはおられないでしょう」
確かに城で働く百を優に超えるメイドの名を、全員覚えることは難しい。ローレンの反応は仕方のないことなのだが、ふっと寂しげに笑う士長を見て、ローレンの胸に罪悪感がわき上がる。
「エミリアは、私の娘です」
士長が静かに告げた。




