12
「だ、大丈夫なのでしょうか…バーデナー公爵様」
「案ずるな。呪いを行ったのは実際には奴なのだ」
そうは言いつつも、バーデナー公爵は苛立たしげに部屋の中を歩く。
ここは公爵の私室だった。
先ほど謁見の間から解放され、そのまま二人は足早にこの部屋へと向かった。
「しかし、殿下は助かったと…だとすればあの者たちは…」
「ふん、奴らはプロだ。失敗したとすれば、死を選ぶのが奴らの掟。その口から我々の名が漏れることはない」
しかし、不安が完全に消え去ることはない。故に焦燥と苛立ちに駈られるのだ。
(確かに、失敗すれば死を選ぶ一段だと聞いたが…。しかし、城でも街でも不審な死体が見つかったという知らせはいっこうに上がってこない。それにそもそも、何故殿下は助かったのだ…そんなこと、あり得るはずが…)
――――おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――――――――――………
その時、遠くの方から唸り声のようなものが聞こえてきた。
「なんだ?」
鳥か、動物だろうかと思ったが、この城の内部にあのような不気味な生き物がいるとは聞いたことがなかった。
するとすぐさま慌ただしく廊下を走る音と、荒々しく指示を飛ばす声が近づいてくる。
「何事だ」
「す、すぐに確認してまいりますッ」
部下である男が部屋の外へ飛び出す。バーデナ―公爵は片手で額を押さえながらはぁ、と大きなため息をつき、椅子に深く座り込む。
だがすぐにどたどたと耳障りな音が聞こえてきた。
「公爵様…ッ、バーデナー公爵様ッ!!」
「騒々しい。何事だ」
駈け込んで来た部下は、しかし戻ってくるなりへたり込み、ぜぇぜぇと激しく呼吸を乱していた。
よく見れば身体は震え、瞳にもはっきりと怯えの色が浮かんでいる。
「落ちつけ、何があったのだ」
「あ、あ、あの…あれは…」
だが部下からの話は一向に要領を得ない。一体何だというのかと、公爵は次第にいら立つ。思わず舌打ちが出そうになった時、新たな足音が駈け込んで来た。
「失礼いたします!バーデナ―公爵様!!」
「どうした、騒々しいが何事だ」
騎士だ。まだ若い騎士が慌てた様子で公爵の部屋へとやって来た。
「は、はい…あの、陛下が…」
騎士の声が震えていた。彼は言葉を途切れさせ、ごくりと唾を飲み込んだ。
「陛下がどうしたというのだッ!」
とうとうバーデナ―公爵が声を荒げて騎士を問い詰めると、ようやく言葉を紡ぎ始めた。
「先ほどの声が、聞こえましたか?あれは…陛下のものです…。突然苦しみだされたかと思うと、あのような声を上げて叫びだし、暴れだされて…。な、何とかお止しようとしたのですが考えられないような力で…大臣方の手には負えず、我々も応援を呼んだところなのです」
騎士は王の間の護衛騎士の一人だった。扉の前に立ち見張りを行っていたが、突然中から悲鳴と叫び声が聞こえてきたらしい。
悲鳴は中に通されていた大臣のものだったようだ。
「陛下が?一体どうなされたというのだ…。わかった、私も行こう」
「そんな!危険ですッ、公爵様!」
騎士は公爵に事態を説明し、ここから離れるよう誘導するつもりであった。
しかし、バーデナ―公爵は王の元へ向かうと言った。
騎士は慌てて止める。
「陛下の御身にもしものことがあれば…、この混乱を鎮めるのは私の役目だ」
バーデナ―公爵は強い瞳で言い放つ。その毅然とした姿に、騎士は胸を震わせた。
「…わかりました、公爵様。陛下をお止出来るのは公爵様しかいらっしゃらないかもしれません…。しかし、決してご無理をなさらないで下さいませ」
「ああ。私の言葉も届かぬ時は、そなたらの力も借りよう。行くぞッ!!」
「はい!」
公爵と騎士は王の間へと急いだ。




