10
夜の闇の中を駆ける者たちがいた。
彼らは一直線にある場所を目指している。
――――――
城の端に位置する塔のひとつ。
静かなその部屋の中に四人の人間がいた。
白い衣を纏っている二人は魔術士長と副士長。そして黒い衣を纏うのは、小さな魔女。彼女の足元には、王子が寝かされている。
幾分か落ち着いてはいるが、まだ苦しそうな呼吸で横たわっていた。
部屋の床に複雑な陣を描き終え、魔女は王子の前に佇んでいる。
士長たちは魔女の指示に従い、 それぞれの位置にいた。
(―――始める)
魔女の声が、士長の頭の中に響いた。
――――――
塔の壁を人影はするすると登り、すぐに目的の部屋の窓に到達する。
(楽な仕事だ)
人影は依頼内容を思いだし、思わずニヤリと唇を
歪める。
何せ失敗など絶対にないのだから。
(行くぞ!)
人影は後続の者たちに合図をし、勢いよく分厚い カーテンの閉まった窓を蹴破った。
雪崩れ込むように部屋へと押し入った侵入者たちは、すぐさま武器をかまえ、対象を探す。
だが、おかしい。
(どういうことだ…?)
先頭の侵入者は、部屋の中の状況に戸惑った。
おかしい…何故…?どういうことだ…?
だって、ここには―――…
「王子は、何処だ…」
もぬけの殻の部屋の中で、侵入者は呆然と呟く。そしてその戸惑いは、他の者たちにも伝染していった。
その時、部屋の空気が揺れた。
「――ッ!?」
気付いた時には囲まれ、端にいた幾人かが斬り倒されていた。
「残念だったな。お前たちの目的の部屋は、ここじゃない」
男の声が聞こえ、ひとり、またひとりと倒れていく。
(なんだッ、何が起こっているんだ!?)
動揺のため、反応が遅れた。
そしてとうとう、自分以外に立っている侵入者は、誰もいなくなった。
「クソッ!!」
とにかく今は逃げなくては、と前か後ろかと逃走経路を探る。だが―――。
(なんだ!?体が動かない!?)
「お前を逃がすわけにも、死なすわけにもいかない。証言が必要だからな」
先ほどと同じ男の声。その男が合図をすると、部屋の隅にいた白いローブの人間が何かを唱え始めた。
おそらく魔術師だ。何かの術をかけようとしている。
侵入者の意識が急速に薄れていく。
「眠る前に教えておいてやる」
何だ?と侵入者はまだ微かに動く視線を必死に男に向ける。
「お前たちの目的の、殿下がいらっしゃる部屋は、この隣の部屋だ」
馬鹿な…そう思ったが、もう口を開くことも出来ず、侵入者の意識は闇に落ちていった。
――――――
「彼らの計画通りだったな、ローレン」
「はい…団長」
団長とローレンは複雑な思いで倒れた侵入者を見下ろした。




