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第13話 辺境伯領の真実




 ロザリンデがアルベルトに出した謁見願いが承諾されたのは、提出してから三日後のことだった。


 ルミナス国王アルベルトからの謁見了承の返事と共に、王姉ロザリンデに向けて国王執務室に来て欲しい、との言が添えられていた。


 エグランティーヌとユイカに頼んだ情報収集の結果はまだ届いていない。手がかりがほぼ無い状態でアルベルトの元に向かうのは心もとないことこの上ないけれど、とにかく今はコンラートについての情報が、何かひとつでも切実に欲しかった。 


(あんな挨拶ひとつで逃げるなど許さないからな、コンラート)


 ロザリンデは、覚悟を決めて自室を後にした。



・・・*・・・*・・・*・・・*・・・


「お待たせして申し訳なかった、姉上」


 国王アルベルトが疲労の色が残る目元を緩めながら、ソファに座るロザリンデにお茶を勧めてくれた。執務室には、アルベルトと、アルベルトの専属護衛騎士カイ・フォン・ヴァルトハイムと、ロザリンデ、エルナの4人しかいない。


「アル、コンラートは……」


 あれから三日間、ロザリンデが何度騎士団に行っても誰も何も教えてくれなかった。クラウスもライナーも姿すら見えなかった。ロザリンデは焦る心を宥め続けて、今この場に座っているのだ。


「コンラートは、騎士団長を辞したい、と言っている」


 やはりそうなったか。とロザリンデは固く瞼を閉じた。理由は分からないが、あそこまで憔悴するほどの何かがあったのだ。誠実な男だ、それくらいはするだろうと予想はしていた。


「そして、自分は罪を犯したから捕縛して欲しいとも言っている」


「!?」


 思わずティーカップを落としそうになったのをすんでのところで留め、カタカタと音を立てながらソーサーに戻し、弟の顔を見た。


「罪って……何のことだ?」


「グライフェンベルク辺境伯に、爵位と引き換えに息子を騎士団の上位ポストにつけることを約束して欲しい、と話を向けられたらしい」


「話を向けられただけじゃ罪には……ならないだろう?」


 アルベルトは頷く。


「私もそう言った。しかもこうして報告してくれている。罪にはならない。辞職する理由にならないと伝えたよ。けれど、コンラートは首を横に振り続けるんだ。私は罪を犯しました、と」


 辺境伯の申し出に、心が揺れたのだ、と。


 どう考えてもおかしいと思いながらも、自分が養子に入って辺境伯位を賜ることを夢見てしまった。その場できっぱりと断り、騎士団を侮辱したことに対して断固として抗議すべき立場に在りながら、何も言えなかった。これを罪と言わずしてなんとするのか。


 コンラートはアルベルトの目を真っ直ぐに見つめて、そう言ったのだという。


 『自分が養子に入って辺境伯位を賜ることを夢見てしまった』


 コンラートは、ただ単に自分を大きく見せたくて爵位に手を伸ばそうとしたのではない。辺境伯という爵位を得た上でロザリンデの隣に立ちたいと願ってくれたのだ。


(私の想いが……コンラートを惑わせた……)


 ロザリンデは、膝に置いた手を固く、固く握りしめる。指先が白くなる。


「コンラートは、自主的に謹慎に入っている。自宅に鍵をかけて誰も入れない状態だそうだ」


「そうか……」


 ロザリンデの声は掠れていた。何と言っていいのか、何をすればいいのか、何をしなければならないのか、何も分からない。何も……考えられない。


 その時。


「お話し中、失礼いたします」


 扉が開かれる音がして、ロザリンデがのろのろと視線を向けると、そこにはエグランティーヌとユイカが立っていた。そして二人はロザリンデの顔を見るなり駆け寄ってきた。


「陛下と殿下にお伝えしたいことがございます。お時間をいただけますでしょうか?」


 ユイカが、はきはきとよく通る声でアルベルトとロザリンデに言った。




・・・*・・・*・・・*・・・*・・・



「グライフェンベルク辺境伯は先ほど捕縛されました」


「え?」


 ユイカの報告にアルベルトが驚きの声を上げる。


「捕縛された……だと?」


 エグランティーヌが苦笑する。


「陛下は何とか辺境伯のしっぽを掴みたいって、ここ三日ずっと夜も眠れぬほどに焦ってらっしゃいましたものね」


 そう言ってユイカに向けて目配せをした。


「では、順を追って説明させていただきます。まず、ロザリンデ殿下からお聞きしたグライフェンベルク領の妙な落ち着きに関して、王妃陛下の伝手で商人たちに話を聞きました。あの辺りは隣国オルティエとの小競り合いが多いために、商人たちは商用ルートとして利用することを避けていたらしいのですが、ここ一年ほどは平和そのもので、小規模商隊のルートになりつつあるんだそうです」


「しかし、グライフェンベルク領からは例年よりも多くの軍備費の要求がありましたわ。情勢が芳しくない、とかで」


 エグランティーヌが忌々しそうに扇を握りしめながら続けた。


「国家を相手に詐欺を行おうなど、言語同断ですわ」


「そして、私は貴賓宮にお泊まりになるオルティエ王国のお客様たちから様々なお話を聞くことが出来ました。この話は一年ほど前から少しずつ集めていたものだったのですが、こんなに役に立つとは思いませんでしたけれど」


 そう笑ってユイカは爆弾級の話を投下した。


 辺境伯の息子が自領の隣、オルティエ王国の地でもあるサラン領でカード賭博にハマり、借金が膨れ上がっているということ。そしていつからか、借金の際のサインが『次期グライフェンベルク辺境伯』に変わっていたこと。そして……。


「数年のうちに代替わりして辺境伯の爵位を遠縁の男に継がせるから、その男に借金を背負わせて、その男の妻をオルティエ王国に売るのだと、酒の席で笑っていた、と」


 ロザリンデの全身が総毛立つ気がした。


「……コンラートに借金ごと辺境伯領を継がせて潰し、私を売る算段だった、ということか?」


 ユイカはその言葉を肯定するように、小さく頷いた。





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