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第12話 行動開始




 セラに支えられながら自分の宮に戻ったロザリンデは、すぐに国王である弟アルベルトに謁見許可を求めたが、返答は来なかった。しかし一時間待ったことで冷静さを取り戻し、ソファに深く身を沈めながら次の手を考える。


 昨日のコンラートとの面会時の様子を思い出しても、特におかしいところはなかった。



(絶対にどこかに理由があるはずだ、それを必ず見つけ出す……)



「エルナ」


 ロザリンデは護衛騎士の名を呼んだ。


「悪いが、昨日から今日まで、コンラートと関わった人物を洗い出してもらえるか?」


 エルナはきょとんとした顔をしたが、すぐに目元に力が入った。ロザリンデの言わんとするところを理解したのだろう。二つ返事で部屋を飛び出して行く。


 そしてロザリンデは、次にセラフィーナに使いを頼んだ。


「王妃陛下にお会いしたい」


 と。



・・・*・・・*・・・*・・・*・・・


「急に呼び出して済まないな、王妃陛下。そして、ヴァルトハイム貴賓宮主席女官」


 人払いがされたロザリンデの私室で、来客用のソファにアルベルトの妻であるルミナス王国王妃エグランティーヌ・ド・ルミナスが優雅に座り、その斜め後ろに、背筋を伸ばして灰色の豊かな髪をきっちりと結い上げた貴賓宮主席女官、ユイカ・フォン・ヴァルトハイムが立っている。エグランティーヌとユイカは互いに長年の親友同士であり、ロザリンデにとっては二人とも素の自分を見せられる、王宮内での数少ない心許せる友でもある。


「王妃陛下だなんて、お義姉様。いつも通りエラ、と呼んでくださいませ。それよりも――何かございましたか?」


 閉じた扇を口元にあて、エグランティーヌは紅い瞳をロザリンデに向けた。


「実は、コンラートに結婚を申し込んだんだが」


「えぇっ!? ついに、ですか!?」


 叫んだのは、ユイカである。


 『女官たるものいつ如何なる時であっても周りから自身に向けられる目を意識すべし。自身の立ち居振る舞いが宮の主の在り方そのものに直結することを忘るべからず』


 王宮女官が耳にタコができるほどに繰り返し言わされ、覚えさせられる文言である。他国に対する王国の顔とも言うべき、国内外からの賓客が宿泊する宮である貴賓宮の主席女官ともあろう者が、こんな反応をして良いわけがないのだが、ロザリンデはユイカのこの裏表のないびっくり箱みたいな反応を気に入っている。


 エグランティーヌはすでに知っているのだろう、特に反応を寄越さないが、ユイカには初耳だったらしく、目をきらきらさせてロザリンデを見つめていた。


「そんなに期待させて悪いが、断られたんだ」


「はぁぁぁっ!? あの団長様が? ロザリンデ様の申し出を? あの、くたび……いえ、哀愁漂うアイゼンベルク団長が? この宝石のごとき美しき姫君御自らの申し出を!?」


「ユイカ、落ち着きなさいな。貴女がそんなに興奮していてはお義姉様の話が進まないではないの」


 エグランティーヌの言葉に我を取り戻したらしいユイカは、力を込めて胸元で握りしめていた両手を、しおしおと降ろした。


「申し訳ありません」


「いいんだ、ユイカ。驚かせて済まないな。それよりも、コンラートの話に戻るが、私が奴を追い回していることを知ったグライフェンベルク辺境伯が、コンラートに何らかの関わりを持ったらしい。その後、コンラートの様子がおかしくなり、私の前から姿を消した」


「……」


 黙っているエグランティーヌの後ろからユイカが口を開いた。


「殿下、アイゼンベルク団長の様子がおかしくなったのは、グライフェンベルク辺境伯との面会後で間違いないのですか?」


「あぁ。私の護衛騎士と騎士団詰所門番騎士が確認している」


「グライフェンベルク領と言えば……」


 エグランティーヌが呟き、ロザリンデは頷いた。


「オルティエとの国境付近を治めているが、最近恐ろしいほどに平和だ。あれほど頻発していた小競り合いがここ一年ほどぱったりと止んでいる」


「グライフェンベルク領の隣は確か……オルティエ王国のサラン領」


 ユイカが言葉をサラン領の名を出し言葉を継ぐ。


「……色々お金の出入りの激しい領という噂を聞き及んでおります」


 そうか、とロザリンデは呟いてから二人を見た。


「コンラートは辺境伯と話をしてから様子がおかしくなり、今朝私に今生の別れのような言葉を置いて消えた。どうやらアルのところに行ったのではないか、と副団長のクラウスが言っている」


「つまり……アイゼンベルク団長は陛下に何らかの話をすることで、ロザリンデ殿下から離れなければならない覚悟をした、ということですね」


 ユイカの言葉にロザリンデは頷いた。


「二人を呼び出させてもらった理由はこれだ。悪いが、二人にはこのことについて集められるだけの情報を集めてもらいたいんだ。無理を言っているのは重々承知している。でも、どうしても私は……」


「お義姉様……。大丈夫ですわ。私たちがついております。今度は、陛下と私たちがお義姉様をお助けする番です。お任せを」


 エグランティーヌはそう言って立ち上がる。ユイカも柔らかく頷いてくれた。


「心強い言葉に、感謝する」


 ロザリンデはそう言って、頼もしい友人たちに心から頭を下げた。




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