Ep6-4 写楽という男(2)
レムナンツ・ハンズのアジトに連れられてきた写楽を見たリーダーの第一声は――
「だから、隠れ家に部外者を連れてくるなと言ってるだろう、このバカちんがっ」
「いてっ。でもようぉ」
「デモも座り込みもあるか。もとの場所に捨ててこい」
カサギがケイタの頭を小言をいうたびにポカスカ叩く。
「ボク、捨て猫みたいに思われているのかなぁ」
苦笑する倣介の横でニヤついた顔で状況を楽しんでいるトオノが答える。手元ではくるくると三本の指を使って器用にペンを回している。くつろいでいるときのトオノの癖だ。
「いつものじゃれ合いだよ。放っておけばいいさ」
くすくす笑う倣介は十五歳よりも少し幼く見える。
「僕はトオノ。このチームのメカ担当。あと、発明家ね。あっちがメイ。情報と調達担当。逃げ足は天下一品だよ」
「よろしく、メイさん」
メイに向けるにこやかな笑顔はどこか愛想笑いのように空虚だ。
「……フン」
メイはちらりと横目で倣介を見る。胡散臭いものを見る目つきでそのままそっぽを向いて自分の作業に没頭する。
「あらら、今日は機嫌が悪い日だったかな。まあ、メイの機嫌がいいところなんて滅多に見られないけどね」
無愛想な仲間をフォローしないところがトオノらしいい。
「だからリーダー、倣介はシロウトの英太と違って即戦力なんだって。ソロでそこそこ鳴らしてるっていうからぜってーお買い得だって」
「なおさら悪いわ。身元も分からない実力者を隠れ家に入れるな!」
「んなこといってたらいつまでたってもメンバー増えないじゃんか」
「そこは俺がちゃんとした筋からスカウトしてだな……」
「カサギさん、見る目ねーじゃん。前にこっぴどい目に遭ったって自分で言ってたじゃないか」
「うぐっ。だからこそ慎重にだな」
「あのぉ、ちょっといいですか?」
「なんだ。いま取り込み中だ」
「ボクのことチームに入れるかどうかは、一度お試しでやってみません?ボクも自分に合うチームか確かめたいし」
倣介がにこにこと笑いながら提案する。堂々巡りの怒鳴り合いをしている二人に比べたらよほど大人の対応だ。しかし、よくよく考えると倣介のほうがチームを下に見ているニュアンスの提案だった。端正な笑顔の裏にはレイダーなら相応の毒をふくんでいるようだ。
「そうだぜ。英太のときも試用期間を設けただろ?倣介も試させてやんないと不公平だ」
「不公平っておまえ……。まあいい。ちょうど次のレイドは軽めのヤツだ。息が合うか試してみるか」
「ぃやったーい!」
ケイタが片手をあげ、ワンテンポ遅れて差し上げられた倣介の手のひらをパシンと大きく鳴らしハイタッチを交わす。
カサギはやれやれと頭を抱えてながら、ソファにどさりと腰を下ろす。そのままこめかみをぐりぐりと揉みながら、倣介に向かいの席を勧めた。
「で、名前は?」
「写楽倣介です」
ぴくりとカサギの手が止まり、また大きくため息をつく。
「偽名か」
「えーと、どちらかというとビジネスネームですね。いまの時代、どこで炎上するか分かったものじゃないですから」
「それにしてもふざけた名前だな」
「某有名漫画家の主人公キャラと同じですからね。でも一応、少しは由来があるんですよ?」
カサギさんは声を出さずに肩眉を上げて続きを促す。
「ボク、モノマネが得意なんです。目で見たものはたいてい模倣できるんですよ。こんなふうに」
倣介はトオノからペンを借りると、先ほどまでトオノが繰り出していたいくつもの複雑なペン回しの技をそっくりそのままトレースして見せた。
「おー、凄いな。僕のオリジナル技まで再現できてる」
「写し取って倣うから写楽倣介か。なるほど」
「おーし、リーダーのOKが出たからさっそく次のレイドの作戦を練ろうぜ」
「ったく。まあいい。それじゃあ、次のレイドはチームメイトというより共闘って感じでやってみるか。おまえもソロでやってたんならいきなり命令を出されてもやりづらいだろう」
「そうですね。そのほうがボクも動きやすいです」
「じゃあ、決まりだな」
ケイタはレイドができれば何でもいいのだろう、あまり深く考えていない顔で言った。
「ね、倣介君。術式適性はどのくらい?」
わくわくと言った表情でトオノが問いかける。
「乙種です。ただ、派手な術式はあまり持ってません。正式に習ったことがないってのもありますけど、ソロなんで応用力重視なんです。基礎をまんべんなく幅広くって感じですね」
「ほぉ、それだと術師っていうわけじゃないんだ」
「はい。普段のスタイルは斥候ですね」
「じゃあ、じゃあ、ガジェットは使うよね?ちょっと高めの術式適性が必要なんだけど、面白い効果があるガジェットをいくつか開発中でね」
「気ぃ付けろよ。下手に触るとボンッてなるやつもあるからな」
ケイタが茶々を入れる。
「失礼な。乙種適性の範囲ならそんなミスはほとんどないよ。英太のときは、どこまで行けるか試したくてちょっと無茶しただけさ」
「あのときは大変だった……」
普段会話に参加しないメイまでがつぶやくほど大変だったらしい。
「あのー、さっきからよく出てくる英太っていう人は誰なんですか?」
「ん?ああ、ちょっと前にウチにお試しで入った新人でね。まあ事情があってすぐに移籍しちまったんだけど」
「ケイタの想い人……」
「は?それを言うならライバルだろ?早く英太とレイドで真剣勝負したいぜ」
目を輝かせて拳を打ち合わせる。きっと今頃、英太は背筋に冷たいものを感じているに違いない。
「チームを移籍したのにわだかまりはないんですか?」
「まあ、ずぶのシロウトだったからね。ほんの短期間だったし」
「英太は別のチームに行ってもマブダチさ。後輩でマブダチでライバルってこった。くーっ、楽しみだぜ」
ふーん、仲の良いチームのようだね。倣介は笑顔の下で会話を分析しつつレムナンツ・ハンズの評価をメモした。
写楽とレムナンツ・ハンズはひとまず共闘という形でチームを組むことになった。ボーナス・レイドでの活躍や如何に。




