Ep6-3 ボーナス・レイド
次のレイドの内容がスクリーンに映し出される。果たしてどのような試練が英太を待ち構えているのか――
【案件コード】 :No.9068-unspecified
【依頼主】 :枢密統制機構運営本部
【報酬】 :現物(ただし一部の指定品を除く)
【参加フィー】 :500GEM
【制限時間】 :百八十分
【依頼ランク】 :C
【ターゲット】 :旧財閥の隠し資産
【ミッション】 :フリー争奪型
【ロケーション】:東京駅周辺(有楽省・丸の内・大手町、八重洲・日本橋エリア)
【情報概要】 :大正期の財閥が埋蔵した隠し資産に複数のロスト・アセットが含まれることが判明。当該区画の再開発計画に合わせて深夜時間帯の地下街への一般人入場を規制し、レイドを実施する。報酬は各チームで回収したアイテム。レイド終了時点で保有していたチームに所有権があるものとする。ただし一部指定のロスト・アセットについては別途開催されるオークションへの出品を義務付ける。
ミーティングルームのプロジェクターがレイドの概要を映し出す。テキストウインドウの後ろのには今回の対象エリアの地図が表示されていて、お宝が埋まっているとされる主要ポイントがピンで示されている。一、二、三……十か所以上ある。
「へえ、もう新しいレイドの案内が来たんだ」
片梨さんが器用にバランスを取りながらパイプ椅子にもたれて画面を眺めている。口元にはプラスチックのストローを咥えて頭の後ろで手を組んでいる。
「よく知らないんですけど、レイドってこんなに高頻度に開催するものなんですか?」
疑問に思ったことは何でも質問するように言われているので思い切って発言する。
「そうだな。運営が主催するレイドはもっと数が多い。様々なランクのミッションがあって自分の実入りに合ったレイドを選択して参加する。大きなレイドは東京に集中しているが、全国規模で見ればほぼ毎週どこかで開催されているはずだ」
玖条さんが丁寧に教えてくれる。
「ま、ウチは多いほうだな。普通は年四、五回も参加すれば十分だ。そのうち一回でも勝てればやっていける」
「でも、この三か月でもう四回は参加してますよね」
俺は部外者だったころの目撃情報も含めて数えあげた。
「レイドチームによっては訓練や調整のために低ランクのレイドに参加することもある。今年は新メンバーも加入したしな」
じろり、と視線を向けられ、肩をすぼめて恐縮する。
「すみません」
「まったく、あんたのせいで今年は大忙しよ」
片梨さんが両手を広げ肩をすくめる大げさなボディランゲージでやれやれといった感情を表現する。
「はっはっはっ、全部桔花のわがままを聞いたせいだけどな」
「なっ、ちょっ、そんなわけないでしょ」
バランスを崩しかけてガタンと立ち上がり会議卓に手をついて抗議する。心なしか耳が赤い。
「今回のレイド参加も石守の訓練が目的だ。ノクターナルが手掛けるレイドは高ランクのものが多い。その分リスクも高くなっている。チームについてこれるように、当面は石守の速成教育に適したミッションを選別して積極的に参加する方針で行く」
玖条さんのアイコンタクトを受けてユナさんがミッション詳細の説明を引き継ぐ。
「つい最近、今まで知られていなかったロスト・アセットのリストが発見されたの。大正時代の富豪、山下久兵衛のコレクションよ。彼はいわゆる成金で、第一次世界大戦の好景気を背景に一代で財閥を成すほどの成功を上げ、そして一代でその帝国は没落した。関東大震災で屋敷は焼失。山下の没年もその年になっているわね。ただし、本人の遺体は発見されていないわ。ほとんどの資産とリーダーを失った山下財閥は事実上解散、細々と経営を続けた傘下企業も1930年の世界恐慌で命運を絶たれ、彼の足跡は日本の財界から消えた。典型的な成金実業家の生涯ね」
スクリーンにはピンボケで粒子の荒い白黒写真といくつかの古い記録映像が表示されて切り替わっていく。
「彼の業績を記録した書類はほとんど残っていないわ。本人が秘密主義だったこともあるけれど、まあ、ありていに言ってあまり人に好かれるタイプの人物ではなかったようね。現存する資料は山下財閥の番頭格だった男が残した手記と、彼の愛用の万年筆だけよ」
古びた和装の帳面と舶来物の万年筆の写真が表示される。こちらはカラーなので現存するものを最近撮影したとわかる。万年筆のキャップの先端に奇妙な幾何学模様が金象嵌で描かれているのが特徴的だ。
「彼は曰くのある人物でね。表の歴史にはほとんど名を残していないのだけれど、こちら側の当時の記録には何度か名前が出てくるの」
「こちら側、というと?」
「山下久兵衛は有名な失われた資産の蒐集家だったのよ」
「!」
「彼の蒐集品は関東大震災の火災で焼失したとされているわ。だけど彼ほどの秘密主義者が貴重な資産を屋敷の中にただ並べて保管したとは思えない。きっとどこかに彼の隠し資産が眠っている。この業界では有名な都市伝説よ」
そこでユナさんがキーボードを、たんっと叩いた。スクリーンいっぱいに次々とアイテムの写真と解説文が表示される。写真といってもほとんどが手書きの線画を写したもので、たまに白黒写真が混じっていてもやはり粒子が荒くて細部が確認できない。総勢十五点に及ぶリストはまさにお宝の山と呼ぶにふさわしい雰囲気があった。
「文字通り、『失われた資産』というわけだ。連中が飛びつきそうな話だな」
「連中って?」
興味なさげに聞いていた片梨さんがショーさんの台詞に反応する。
「山師どもさ。レイダーにもいろいろなタイプがいることは知っているだろう?」
片梨さんではなく、俺に向けて解説してくれる。
「はい。バロック・ドッグスやラグナロクのような戦闘重視タイプ、OZのようなハイテク・サイバー攻撃タイプ、それからレイダーじゃないですけど灰羽派みたいな術式とかオカルト方面に特化したタイプ……」
俺は今までレイドで出会ったライバルチームや敵のことを思い出して指を折りながら挙げていく。レムナンツ・ハンズはどのカテゴリーだろうか。
「そうだな。でもそれら以外で一番数が多いのが、ロスト・アセットで一獲千金を狙う山師タイプだ。まあちょっと攻撃力的な分類とは違うが、こいつらは純粋にお宝狙いの連中でルールぎりぎりを攻めてくる何でもありのタイプだな。ほとんどがソロで活動している連中だから脅威になることは滅多にないが……」
「CROWSだけにはご用心、でしょ」
〔つづく〕




