Ep6-8 美術館巡り
籩豆堂美術館——ここは旧財閥の中でもトップに数えられる三矩財閥コレクションの中核を成す美術館だ。英太たちの眼前には国宝級の重要文化財がごろろごろと並んでいた――
「さ、気を取り直して美術館に入ろうぜ」
「そうだな。今日はたくさん回らないといけないからあんまり時間を無駄にできないんだった」
「え?そんなにたくさん回るの?」
「フィールドワークだって言ったろ?宿題なんだから美術鑑賞よりもデータ収集が重要なの。数を稼がにゃ」
「えー、めんどいな」
「別について来いなんて言ってないからな。おまえが参考にしたいって言ったんだろ?」
「またまたぁ。英太はツンデレさんだなぁ」
ぐぬぬ。もうバカは放っておこう。時間がないのは事実だし。
「とりあえず近場から順に回るぞ」
「ちゃんとエスコートしなさいよね。暑い中来てあげたんだから」
へいへい。まったく、どいつもこいつも。
ひとまず最初の目的地、待ち合わせ場所にしたアトリウムから石造りの建物に入る。ここは日本を代表する旧財閥の流れを汲む美術館で、国宝を多く所蔵することで有名な美術館だ。
入り口を入るとすでに別世界のような上品な空気に圧倒される。静かにしなきゃと考えていたがとんでもない。こんな場所で騒げるヤツは心臓が鋼でできているか、頭がどうかしている奴だろう。
「……すごいわね」
「ああ。シロウトにも本物の凄みっていうのが伝わってくるよ」
展示品だけじゃなく、内装からもただの飾りじゃない存在感がにじみ出る。
「こんなとこ、どうやって攻略するのよ」
「うーん、難しいな。警備システムも凄そうだけど、走ったり蹴ったり飛び跳ねたりし辛いよね」
「そうね。少なくとも炎は厳禁だわ」
教科書で見たことがあるような水墨画や屏風が並ぶ展示室をゆっくりと移動しながら小声で片梨さんとやり取りする。
「炎系以外の術式も使えるのか?」
「あんた、馬鹿にしてるの?使えるに決まってるでしょ。ただ、ちょっと精度と発動速度が落ちるだけよ」
うーん。
「身体強化系なら炎系統でもそれほど熱は出ないんだよね?」
「そうね。火傷するような温度にはならないわ。そっち中心でいいかしら?」
「それでいこう」
「あんたがついてこれないと意味ないんだからね。身体強化系の術式、ちゃんと練習しておきなさいよ」
「イエッサー」
「……もう」
俺たちが色気もへったくれもない会話をしている間、前を行くカトウと藤代さんの二人は楽し気に会話していた。
「おー、かっけー」
「わあ、これ包永じゃん。ホンモノだ~」
「藤代さん、日本刀詳しいの?以外ー」
「え?そんな詳しいとかないし。ちょっとアプリゲームで触ったことがあるだけだし」
「ああ、女子に人気のヤツ?」
「なんか、ハマってる友達が薦めるからちょっと試しにー、みたいな?あー、このお茶碗、キラキラしていてキレイ~」
ひと通りみて回った感じではここの展示は古くから伝わる日本の文化財的なものが多い印象だ。さすがに日本最大の旧財閥のコレクションだけはある。展示していないものにも相当なお宝が含まれているのだろう。正直自分の手には余ると感じる。本当に俺と片梨さんだけで大丈夫なんだろうか?
いかんいかん、下見の段階で気圧されてどうする。
気分を変えて、次、行ってみよう。
俺はみんなを先導して地下のエスカレーターに乗る。
「あれ?隣のビルじゃないの?」
片梨さん、一応ちゃんと目的地を調べてきてるみたいだ。
「そうなんだけど、地下でつながってるんだ。暑いからこっちから行こうよ」
「さんせー」
「英太、気が利くじゃん」
「あたしも分かってたわよ。ちょっと試しただけだし」
レイドでは建物内と地下道は移動自由だ。外は一般の通行があるから深夜とはいえ出来るだけ避けたい。
「それにしてもまるでアリの巣だよな、ここらへんて」
「ほとんどがオフィスビルだからあながち間違いじゃないな」
今日は土曜日だから遊びに来ている人がほとんどだけど、平日になれば夏でも黒っぽいスーツに身を包んでせかせかと歩き回る働きアリで一杯になるエリアだ。
「それ、失礼じゃない?」
「カトウが言い出しっぺだろうが」
「オレはそこまで言ってないよ。明日は我が身なんだし」
「こんな一等地の会社勤めなんて勝ち組だろ。果たして夏休みの宿題もおぼつかないカトウが将来丸の内に勤めるなんてできるのかなぁ」
「そうだった。宿題ぃ。急ぐぞ英太。ほれ早く」
地下街の案内表示に従って美術館を目指す。
すぐにエスカレーターが見えてきて、地上階にでた。
「へぇ、素敵なところね」
高層ビルに囲まれた小ぢんまりとした遊歩道のような中庭に出る。緑の向こうに赤レンガの洋館が見える。瀟洒だが威風堂々とした三階建ての建物だ。
「あれが三矩一号館美術館だよ」
「あっぢぃよ、英太。早くエアコンの効いているところに入ろう」
外に出て一分も経ってないのにカトウが音を上げる。
「こっちみたいよ」
藤代さんが美術館の入り口を見つけて指差した。
〔つづく〕




