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Ep6-7 待ち合わせ

レイドの下見にきた英太。成り行きでカトウたちと一緒にフィールドワーク回ることになったが――

 夏の高校野球が始まって最初の土曜日、第一回戦が最終日を迎えて全国に悲喜こもごもの感情をふりまいている、そんな夏休みど真ん中の週末。宿題のためのフィールドワークと称してレイドの下見に東京・丸の内エリアにやってきた。

 美術館は朝十時にオープンするようなので、集合時刻は十時半に設定した。俺は十時には待ち合わせ場所に着いて、真新しいガラス張りのオフィスビルと重厚な石造りの重要文化財建築が融合する開放的なアトリウム空間を見渡していた。

 巨大建築は見ているだけで楽しい。ガラスの向こうは蝉時雨せみしぐれが否応もなく汗を噴き出させる炎天下だが、アトリウムの中は空調が効いて快適な空間が広がっている。ここなら多少の待ち時間も苦にならない。俺は現代的なガラスの大空間を支える繊細な梁の構造や、それと融合した古い石造建築の狭い縦長の窓部分のディティールや入り口部分にあるガス灯のような照明が伝える建築当時の空気を想い描いて楽しんだ。待ち合わせの目じるしは石造りの外壁の角石コーナー・ストーンを切り出したようなモニュメントだ。唐突に床から生えているからとても目につくし、すぐにわかるだろう。

 十時十五分になって、急ぎ足で近づく軽やかな靴音が聞こえてきた。片梨さんである。

 少し息を切らしている。遠くから俺を見つけて急ぎ足でやってきたのだろうか。数メートル手前で息を整えるように歩調を落とす。

「おはよう」

 片梨さんは美術館というTPOに配慮した、シックなモノトーンのジャンパースカートに生成りのタートルネックを合わせていて、透け感のないマットな黒タイツとともに落ち着いたフォーマルな印象を与えている。いつものツインテールも上品な光沢感のある黒いサテンのリボンで結んでおり、ウエストの細めのベルトと足下のストラップ止めされたエナメルのパンプスがほどよくよそ行き感を出している。つまり、なんというか……かわいい。対する俺は何も考えていないボロシャツにベージュのチノパン、白のスニーカーだ。

 少し上気した顔で照れ隠しのように睨みつけられる。

「ちょっと。なんでもういんのよ。来るのが早すぎるでしょ!」

 えーっ、だって前回、私より先に来なさいって言ったじゃん。

「いや、ちょっと先に建物の外観を見ておきたくて。俺、こういう巨大建築物って好きなんだよね、あはは」

「ふーん、確かに天井が高くていい感じね。あの壁なら素手で登れそう」

 いや、あのね、桔花さん。そういう直截的な感想じゃなくてもっとこう情緒的というか感傷的な感じのこう……。

「で、今日は誰が来るの?」

「カトウが何人かに声をかけるっていっていたけど、結果は聞いてないな」

「まったく、レイドの下見だっていうのになんで一般人も呼んじゃうのかしら」

 いえ、それを言うなら片梨さんだって誘ったわけじゃないんだけどね。訓練のときに、ついうっかりカトウとの会話を漏らしてしまったワケで。

「よ、よう、早いな英太は」

「おー、カトウ。来たか。今日って誰が来くんの?」

 久しぶりに会った親友はいい感じに日焼けして夏休みを堪能している様子だった。

「それがみんな都合つかなくってな。これで全部だ」

 カトウの少し後ろから藤代美咲が現れる。

「桔花、おひさー。石守君も」

「あー、ども」

「ミサキ、元気してた?ふうん、気合入ってるじゃない」

 藤代さんはいつものギャルっぽい言動とはガラッと雰囲気を変えて、清楚系サマー・ガールといった装いだ。白地に小さなブルーの小花柄をあしらったワンピースにウエストを青系統のリボンで絞っている。足下は白いソックスに真っ白なキャンバススニーカーを履いている。ウェイブのかかった肩までの髪を小さなパールの並んだ髪飾りで押さえている。

「ちがっ、これはせっかく買ったのに着る機会がなかったからたまたま……美術館行くんだし、周りから浮いたら嫌じゃない」

「だよね。あたしもー」

 くるりとその場で一回転する。

「かわいー。ちょっと大人かわいい」

「でしょー。リボンも靴とかに合わせたんだー」

 ほうほう。片梨さんもガールズ・トークできるんだな。日頃の鬼軍曹モードだけじゃないんだ。

「莉緒とルカは?来ないの?」

「う、うん、なんかあんまり大人数っていうのもなんだしー。男はカトウ一人だっていうから三人相手だと可哀そうだしぃ、数合わせようってことになって……そ、それであたしジャンケンに負けただけだから。それだけだから」

「?」

 片梨さんの顔にはてなマークが浮かぶ。

「英太もいるんだし、荷物持ちなら二人いれば十分じゃん」

「せ、せっかくの美術館だしやっぱり女子が内輪ノリで盛り上がってたら周りに迷惑じゃん?桔花にも悪いし。それで、ダブルデートみたいな?」

「「は?」」

 思わず片梨さんとハモってしまう。

「いやいや、ないから。こいつとデートとかありえないから」

「そうだよ、片梨さんとそんなわけないじゃないか。今日は夏休みの課題のために来たんだから」

 レイドの下見だとか別の目的があるなんて思われたらまずい。俺は強めに否定した。

 ピキッと空気が断裂するような気配が隣から発せられる。

 強い殺気にフッと体を沈めると、頭上を革製のハンドバッグがすごい勢いで通過する。

 日頃の特訓の成果が出て不意打ちを避けることができた。やった、と片梨さんのほうを見上げると、ハンドバッグの革紐を握り締めて真っ赤な顔でプルプルと震えている。まずい。

「ちょっと、英太。こっちに来なさい」

「イエス、マム」

 カトウたちに聞こえないように小声でやり取りする。少し離れた壁の隅に呼ばれて、片梨さんが囁く。

「動かないで、そこにじっと立って」

「イエス、マム」

 バシン。

 避けないように指示を受け、こわごわと目をつぶったところに、軽く肩にぶつけるようにハンドバッグが当たる。ほっ、怒りに任せた鉄拳が飛んでこなくて良かったぁ。


 一部始終を見ていたカトウと藤代さんが小声で囁き合っていた。

「ああいう愛情表現もあるんだな」

「あたしはノーマルよ?」

「オレも、それでお願いします」


とりあえずダブルデートの形になってフィールドワークを開始する英太たち。果たしてロスト・アセットは展示物の中に見つかるのか――

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