第28章:逃げ道なし
カレンは地面に転がって、か弱いお姫様みたいにじたばた暴れてやがる……情けねぇったらありゃしねぇ。
襟首を掴んで持ち上げた。全身が震えまくり、目ん玉は飛び出さんばかり。まるで目の前に悪魔でもいるような面だ。
「お坊ちゃま、あんたには二つ選択肢がある。口答えせずにあたしについてくるか、死にたくなるほど後悔するか。どっちかだ」
あたしはもう我慢の限界で、低く唸った。
「なんでこんなことするんだよ!? 僕の母さんを殺したんだろ!!」
カレンが絶望的に叫ぶ。
「あたしに責任押し付けんじゃねぇ、このバカ。あたしが来た時にはもう手遅れだったんだよ」
鼻を鳴らした。
そいつはただあたしを見てた……この目、前にも見たことある……憎しみだ。
不意を突かれて、腹を蹴りやがった。傷のせいで、マジでクソ痛ぇ!!思わず手を離してしまった。
尻餅をついたそいつは、それから立ち上がった。戦う気満々のポーズを取りやがって……足はガクガク震えて、今にもバラバラになりそうだ。
「おい、このクソエルフ。あたしはもうこんな茶番に付き合う気力ゼロなんだよ。最悪な日だし、だからあたしを試すなよ」
ゆっくりと剣を抜きながら言った。
そいつは背を向けて、助けを求めて叫びながら走り出した。幸いここは人気のない場所だったが……石につまずいて、顔から地面に突っ込んだ。
「家に帰りたいよ……僕が誰だか知ってるのか!?」
カレンは顔を手で覆いながら泣き言を零した。
ゆっくりと近づき、そいつの首を掴んだ。
「あんたはエラリオンだろ。その一族がどれだけ偉いかなんて知ったこっちゃねぇよ。あたしはエルフどもが人間同士の殺し合いを面白がって見るアリーナで、見世物にされてたからな」
首を強く掴んだ。もう脈が手に伝わってくる。
「あと少し力を入れりゃ、この泣き声も終わりだ。でもあんたは運がいい。知り合いに生かして連れてこいって頼まれてるからな。そうじゃなきゃ、あんたは棺桶行きだったぜ」
「誰のために働いてるんだ?」
「そのうち分かるさ」
腹に一発叩き込んだ。カレンは即座に気を失った。
それからベルトを外して足を縛り、そいつの体をリュックみたいに背負い上げた。
あたしはそいつを背負った。結構な距離だ。
休んだら二日かかる道のりなのに、早く着きたかったから、夜通し歩くことにした。
道は静かだった。あの街から遠く離れて、草と風と、あとは背中のこの役立たずだけ。マジ最悪。
足はガクガクで、傷口もパックリ開いてきた。ヤバい。
カレンは夜通し一度も目を覚まさなかった。
朝方、やっとルカンの家に着いた。
肩でドアを開けると、ルカンはソファでタバコを吸いながら本を読んでいた。
あたしを見て、本を閉じて立ち上がり、こっちに向かってくる。
でも、あたしが何か言う前に——
視界が真っ暗になった。
最後に覚えてるのは、頭が床に叩きつけられた衝撃だけ。
顔に何か冷たいものが触れて、牢の中で目を覚ました。
あの場所だ。
闘技場の牢屋だった。
横を見ると、薫様がいた。
「薫様?本当に薫様?」信じられなくて、そう聞いた。
「わしは無駄死にだった。お前、あいつに復讐すると言ったのに、できなかったじゃないか」薫様は、あたしに失望を込めて言った。
「あたし……こんなこと、望んでなかった。分かってる、あたしのせいだって……強いつもりだったのに……」
「弱いな」聞き覚えのある声が、言葉を遮った。
振り返ると、父と母がいた。失望と嫌悪の眼差しを向けて。
そして三人は口々に繰り返した。
「弱い……弱い……」
飛び起きた。
冷や汗が止まらなかった。
ただの悪夢だ。
腕を見ると、体中が包帯だらけだった。
「やっと起きたね、お嬢ちゃん」 ルカンは本を閉じて、あたしの方に近づいてきた。
「どれくらい気を失ってた? カレンはどこ?」 あたしは額に手を当てた。頭がガンガンする。
「四日くらいかな。あんた、ボロボロだよ」 「カレンが着いたとき、顔にアザがいくつかあったけど。説明してくれる?」 ルカンはあたしをじっと見つめた。
「あたしの手が、彼の顔に滑っちゃっただけ。だから旅は平和だったの」
「そうなると思ってたよ」
「あれ、何だったわけ!?」 あたしは遮った。
「何のことだい?」
「あんた、知ってたんでしょ? 人間どもの襲撃のこと、魔王が現れるかもしれないって。それとも全部、ただの偶然だったってわけ?」
ルカンは高笑いを始めた……。
やがて、その笑い声は収まり、歪んだ笑みに変わった。
「まあね……魔王が現れるかもしれないとは思ってたよ。エラリオンが街にいたし、人間どもは攻撃の準備を整えてた。俺はただ、その交戦を利用しただけさ」
「なんで何も言ってくれなかったのよ!?」
「魔王のことを知ってたら、あんたは俺の望むようには動かなかっただろうからね。沈黙は、時に言葉よりも強力なんだよ」
「ベッドから飛び起きざま、そいつに飛びかかり首を掴み上げた。 手近な花瓶をつかみ、叩き割ってその破片を腹に突きつける。
「このクソ野郎! あんた、あたしを死地に送りやがったな! 人生最悪のボコボコにされたんだぞ…奇跡的に生きてるけどよ。死なねえクソ、どうやって殺せばいいんだ!? あの訓練、全っっったく無意味じゃねえか! チャンスあった時に、あたしの世界に戻ってりゃよかったんだ!」
「諦めるのが早いな…この世に殺せぬものなどないさ」ルカンがさらりとほざくもんだから、さらに頭に血が上った。
「今ここであんたを殺さねえ理由、一つ挙げてみろ」
ルカンはニヤリと笑ってあたしを見た。
「ふむ…いい理由か。俺はそいつの殺し方を知っている」
その言葉に一瞬ひるんだものの、ガラスの破片をさらに強く押し込む。
「嘘だったら、本当にぶっ殺すからな」
「神話か真実かはわからんが、魔王を殺す方法は二つある。だがその前に、そいつが何なのかを知らねばならん」
「で、そいつは何なんだよ?」
「不死者だ」
「ああ、なるほど…仮面外したら骨だったもんな。じゃあ、首引っこ抜けばいいのか?」
「は?」
「不死者って、そういうもんじゃねえの? ドラマとかで見た感じだと、頭に一発とか、そんな感じだったろ」
ルカンは頭を振って笑い、答えた。
「違うよ。不死者ってのは、一度死んじゃったのに現世に未練が残って、魂が体に絡みついている存在だ。現世に未練がある限り、そいつを殺せないんだ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ…あんた、そいつを殺すにはあたしが未練を解決してやらないといけないってこと?」
「一つの方法としてはね。だが、お前はそんなことしたくないだろうな。」
「絶対にやりたくないよ!てか、何がそいつをこの世に縛り付けてるんだよ?」
「人間への憎しみだ。そいつは大封印の時代、人間と異種族の戦争で死んだんだ。詳しいことは知らないが、何かあったに違いない…そいつの願いは、全ての人間を滅ぼすこと。一人でも生きてる限り、現世を去ることはない。」
あたしはルカンを突き飛ばし、尻餅をついた。
「じゃあ、そいつはあたしの世界を滅ぼしてからじゃないと消えないってこと?マジでかよ!」
「そうさ。その通りだ。」
あたしは怒りに任せて瓶を窓に投げつけ、大声で叫び散らし、罵声を浴びせた。
あたしはルカンを見た。
「クソッ!どうせ魔王の勝ちじゃんか!」
「忘れたのか?そいつを殺す方法は二つあるって言っただろう?」
「で、もう一つは?」
「そいつを蘇らせることだ。」
その瞬間、あたしは固まった。
あたしの顔が歪む。
「はぁ……?」
「そうだよ…お前が魔王を蘇らせるんだ。」
こいつの考えることなんて分からんけどさ…でも、それがあたしを助けるっていうのか?
あたしが馬鹿みたいなことをしなくちゃならないのかよ。




