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300年後も鐘の音を  作者: 琥珀 のえる
第1部:氷晶の宿と泥だらけの太陽

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Record: 42『不揃いな歩幅』

 結局、二人は連れ立ってミストラルの街へと繰り出した。  先頭を歩くのは、愛刀を腰に、周囲への警戒を怠らないノクス。そしてその三歩後ろを、ピピを抱えた地味なマントのドラクロワが、どこか落ち着かない様子で続いている。


「……歩幅が広いわよ、ノクス。ピピが外の景色を眺める余裕もありませんわ」  ドラクロワが不満げに声を上げると、ノクスは足を止めず、首だけを僅かに後ろへ向けた。


「……散歩は移動だ。移動の基本は、最短距離と最適速度にある。……機能的でない歩行は、無駄な疲労を招くだけだ」  冷淡な声。だが、ノクスが選ぶ道は、石畳の凹凸が少なく、朝の冷たい風が建物で遮られる「温かな日だまり」をなぞっていた。


 不意に、マントの中からピピが「ピィ!」と高く鳴き、道端に咲く小さな花へと飛び出した。  ピピはドラクロワのくれた「温もり」を謳歌するように、地べたを跳ね回る。


「……あ、こら! ピピ、そっちは泥が……あぁっ、もう!」  慌てて駆け寄るドラクロワ。しかし、ピピが転びそうになった瞬間、ノクスの鞘が音もなく差し込まれ、雛の小さな体をふわりと支えた。


「……足元の警戒が甘い。……小娘ならば、重心を崩す前に気付いている」  呆れたような、けれどどこか教えを説くような師匠の口調。ノクスは、泥のついた鞘を無造作に拭うと、再び前を向いた。


「……嫌な人。……でも、……見て。ノクス。……この子が、あんなに楽しそうに土を蹴っていますわ」


 ドラクロワが微笑むと、ノクスは小さく「……ふん」と鼻を鳴らした。白い吐息が朝日に溶けていく。


 道ゆく人々は、地味な身なりの姉妹が、奇妙な生き物を連れて歩く姿を微笑ましく眺めている。交わらないはずの二つの美学が、ピピの足跡を追いかけるように、霧の晴れた街道に並んで刻まれていった。

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