表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
300年後も鐘の音を  作者: 琥珀 のえる
第1部:氷晶の宿と泥だらけの太陽

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/51

Record: 35 『命を刻む鼓動』

 ギルドの規定では、汚染された害獣の卵は即座に処分される決まりだ。

 「そんなの絶対ダメだよ!」

 サーヤの叫びに、ルナリスが事務的に「効率を考えなさい」と口を開こうとした時、それを遮ったのはドラクロワの凛とした声だった。


 「……その卵、私が買い取りますわ。文句はありませんわね?」


 帰り道、夜の冷気が泥に濡れた体に突き刺さる。ルルナは白くなった指先で、必死に体温を卵へ分け与えようとしていた。震えながら自分の薄いマントを被せようとする彼女を見て、ドラクロワは鼻で笑うように、けれどどこか苦しげに言い放った。


「勘違いしないでくださいませ、ルルナ。……ただ、これ以上貴女に泣かれると、私の耳に障るだけですわ」

 

 そう毒づきながら、ドラクロワは深い溜息と共に自身のマントを大きく広げた。震えるルルナと彼女が抱く卵を、抗う間もなく自分の腕の中へと引き寄せ、その背中から丸ごと包み込む。 

 ドラクロワが意識を集中させると、肌がじわりと熱を帯び始めた。  『三連の刻印』。普段は彼女の血管を焼き、命を削る忌まわしき呪いの熱。それを魔法として解き放つのではなく、内側に留め、皮膚を通して「温もり」として伝えていく。


 「……熱い、ですわ。私の体は。……嫌ではないのですか、ルルナ」


 「いいえ。……とっても、お日様みたいで……安心します」


 その言葉に、ドラクロワの腕に力がこもった。  やがて、二人の間に挟まれた翠玉の斑点を持つ卵の中から、コン、と小さな、けれど確かな衝撃がドラクロワの腹部に伝わった。 「! ……今、動きましたわ」


 「ふふ、挨拶したんですよ。お母様、温めてくれてありがとうって」


「ま、またお母様などと……! 私はただ、寒さに耐えかねて、効率的な暖の取り方を模索しているだけですわ!」


 顔を真っ赤にして言い返すドラクロワ。けれど、内側から自分を焼く「死の熱」が、今、卵の殻の向こう側にいる「生の鼓動」と共鳴している。

 (……この熱にも、意味がありましたのね)


 宿に辿り着き、重い扉を開けると、そこには白い吐息を漏らす店主がいた。 「……あら。……賑やかな……命が……増えるのね……。……忘れないように、……ラベルを……作っておかなくては……(ふぅ……)」


 ラピスは、記憶が薄れないうちに『孵化予定:命の重み』と書いた付箋を、カウンターの端にそっと貼り付けた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ