『宝石血液の記憶・霧』
(……霧の向こう、遠く教会の鐘が鳴り止む。静かな一室で、サファイア色のインクが、闇をなぞるように滑っていく)
……日記、……○月○日。 ……黄金は、……灰に変わった。……ひだまりは、……漆黒に塗り潰された。 ……物語は、……いつも……残酷な欠損から始まる。 ……何かを失わなければ、……人は……隣にいる人の……体温に気づけない。
……記録によれば、……世界はまた……少しだけ……重くなった。 ……失われた命の数だけ、……ページは……黒く染まっていく。 ……けれど。 ……見える。 ……その灰の下で、……まだ赤く……小さな火種。
……泥を蹴る、……スピネルの輝き。 ……孤独を背負う、……紅玉の輝き。 ……二つの宝石は、……今、……霧の街で……交わろうとしている。
……消えてしまったものを、……私はもう……思い出せないけれど。 ……今、……この闇を……必死に泳いでくる……二つの熱を、 ……私は、……『家族』という……不確かな名前で……呼びたくなっている。
……思い出せない温もりを、……あの子たちが……見つけ出すのを…… ……私は、……記録者の席で……ただ、……待っていることにしましょう。
……さあ、……筆を置きましょう。 ……夜の向こう側から、……誰かが……私の宿の扉を……叩く音がするわ……
(……氷の粒が弾ける音が小さく響き、白い吐息と共に、そっと窓の外を見つめた)




