御伽話
初めまして!
本作は、「歪の図書館」という、ある大陸に存在する時空などが歪んだ場所を舞台に、日常や戦闘を交えながら物語を描いていこうと思います。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです!
現在の時刻は昼だったはずだ。
俺の名前はヴァイリス・グレイ=アード元唯一のSランク冒険者だ。
俺は様々な場所を旅する冒険者だったが、そんな俺も全くと言っていいほど見覚えのない、知らない場所にいる。いや、知らないだと嘘になってしまうな、正しくは、御伽話で知っている場所だ。
なら何故御伽話で語られるようなふわふわした場所にいるかだって?俺も知ってたらすぐに帰ってるよ。
今、俺がいる場所はおそらく、時空が歪んでいる。昼が一瞬で夜になったり、かなりの長時間夜が続いたりする。
【歪の図書館】
という場所だと思う。
歪の図書館というのは、さっき言った通り、御伽話で語られている。本当にあるかが分からない所謂、一種の都市伝説みたいなものだ、御伽話の主な内容は以下の通りだ、
ある大陸にある、この世の全てが記される本が集結する大図書館ー歪の図書館ー(正式な名前は記されていなかった)にはー綴り人ーと呼ばれる歪の図書館の管理人が一人とその使い魔が一匹。歪の図書館の管理人は禁忌の本に手を出そうとした所で、ガーディアンに不老という罰を与えられた。
「!?しまっ…」
【⚫︎#☆よ…その飽くなき探究心…代償は老いる事なき死】
そして、歪の図書館に封印のような形で幽閉されたのだった。
まぁ…うん…主な内容だけだし…別に記憶に無いとかじゃなく、興味なかっただけだし?
ゴホンッ…という事で、俺はそんなところに迷い込んでしまったわけで、今、目の前にどっかの大貴族の別荘なんじゃ無いかと思うほどの大図書館が立ち塞がっている。
俺がここに迷い込んでしまった訳は少し時を遡る必要がある。
俺は、かつて最強と呼ばれていた。
圧倒的な実力と結果、そして孤高のあり方。そんな俺に、周囲の人間は妬み、蔑み、陰口を叩き、心からの敬意と信頼を向ける者など一人も居なかった。
くだらない。
くだらない。
……くだらない。
何もかもがなんの感情を向けられない程に、呆れてしまう程に、くだらなかった。
俺の周りの人間は誰も俺に追いつくことすら出来なかった。
だから、ギルドマスターは、俺の為に新たな階級を設けてくれた。(今思えば此れはただの差別の象徴だったのかもしれない。)
Aの上にSという称号を。
それでもダメだった。
その期待に思いにーー俺は応える事が出来なかった。
ある日、ギルドに緊急依頼が入った。正体不明、危険度不明の未知の魔物。
勿論、Sランク冒険者である俺も駆り出された。
だが、勝てなかった。
戦場で、助けを求める声が聞こえたような気がした。
咄嗟に、目の前の強敵から目を離してしまった。
刹那、魔物の鋭い爪が俺の腹を貫いていた。
一瞬だった。
他の冒険者達は、そんな俺の姿を見て皆、俺を見捨てて逃げていた。
そんな姿を見ても不思議と、怒りも、恨みも…呪いの言葉すら出てこなかった。
ただ代わりに湧いてきたのは、妙な安堵だった。
ーーもう、戦えぬ者はいないーー
ただ、それだけだった。
人からどんなに差別されようと、蔑まれようと、俺は結局、誰も憎む事など出来なかった。自分自身驚いた、少なくともアイツに対しては恨み言を吐くと思っていた。
そんな事を考えているうちに、魔物の牙が体の肉を引き裂き、意識がなくなる頃には言葉を紡ぐ事などもう叶わなかった。
暗闇の中で、彷徨い、時間の感覚すらあやふやになってゆく。ただひたすら先の見えぬ、その場から動いているのかすら分からない暗闇を進んでいた時、ふと、光が見えた。
ーーーそして目が覚めるとこの場所歪の図書館にいた…という事だ。
…自分で思い返してみても意味が分からない。
とりあえず、俺は辺りを探索してみる事にした。
世界から何もかもを切り離されたようなこの場所では、俺の知ってる気候などの常識は通用しない。
囁くかの如く吹く風も普段なら心地よく思うものなのに、ここでは不気味なほどに嫌な汗の存在を自分に教えてくる。
辺りを見回してみるが、深く霧を被った森と、先程あげたように、貴族の別荘のような大きな図書館がただ静かに佇んでいるだけだった。
取り敢えず、森の方へ真っ直ぐ突き抜けるように進んでみる。
…おかしい。俺は確かに真っ直ぐに森を進んだ筈だ…なのに何故、目の前に大きな図書館が佇んでいるんだ?
混乱した俺は、様々な方向から走って森を抜けようと突き進むが、どんな方向に向かっても、戻ってくるのはどんよりとした曇りにより、更に不気味に思えてくるほど静かに佇むだけの、大図書館のみ。
「ハァ、ハァ…どういう事だ…」
深呼吸をして息を整えながら倒木した木に座り込む。
今重要なのは出られないと分かった以上、新たに分かった事を改めて整理するしか無い。
今わかったことは取り敢えず三つ。
まず一つ目。
この森ではコンパスも狂ってしまっていること。
これがわかったのは、森から抜け出そうと走り始めて三回目の時、コンパスを持っていたのを思い出して確認したのだ。しかし、コンパスは狂って使い物にならないとわかっただけであった。
そして、二つ目。
この森には、かなり昔につけられた戦闘した痕跡が見つかったことだ。
此れは、図書館を一周したりしていた時に、木や図書館の壁に劣化した戦闘の痕跡があったからだ。それに、この辺り一体に人の気配も魔物の気配すらも無いのだ。
最後に三つ目。
俺が恐らく死んだ時の防具や、身体などに傷が全くついていなかったのだ。いや…正確には多少はついていたのだが、最後に戦った魔物との戦いがなかったかのように、最初に貫かれた腹も、防具にも傷一つなかったのだ。
以上の三つが、今俺が確認した情報だ。
「眩しッッ」
突如、俺の顔に何かが反射して俺の目に届いた。その光に顔を顰めて空を見る。
ついさっきまで、曇りだったはずの空は、辺りを照らす太陽に変わっていた。
光を反射する方に改めて目を向け、警戒しながらゆっくりと近づくとそれは宝石のようだった。
「…宝石か…?」
ゆっくりと手に取り光に当ててみてみると素人の俺でも分かるほどの純度の高い大きな宝石だった。
「きれい…」
それは、飲み込まれてしまいそうなほど美しい輝きで少し…いや…かなりの時間見入ってしまった。
『ッッおんッッどりゃぁぁぁぁぁぁぁあ』
聞こえた…いや"脳に届いた"瞬間背筋に寒気が走った。急いで振り返ろうとしたが、間に合わなかった。
「グッッッァァァァァアアアッッッッ」
刹那、背中を叩かれたようなでも鋭い痛みを感じ、飛ばされたと理解した時には、既に壁に激突していた。
「ッッグ…イッテェ…」
突然襲った痛みに悶えていると、脳に声が届いた。
『お前ッッこのボクのトクベツな宝石を勝手に許可なく触ってんだッッ!!!』
『吹っ飛ばすぞッッ!!!!!』
もう既に吹っ飛ばしてるだろ!!!と、ツッコミを入れたい所だったが、痛みでそれどころではなかった俺は、声すら出せなかった。
『オイッ!なにこのボクを無視してんだよ!!!』
…というか…なんだこれ…頭に直接響いて…?
「ルっルフィーゼ〜〜!」
そのとき、高くも低くもない、中性的な声が響く。そちらに目を向けると、肩まである銀の髪をなびかせ、青いマントを翻した人物が、こちらに走ってくるのが見えた。そして、目の前には、白い…いや白銀の身体を持ち、宝石を纏った龍がいた。
『なんだよエルヴィ!』
龍は、白い身体を少し捻ってエルヴィと呼ばれた人物を見た。エルヴィと呼ばれた人物は、肩で息をしながらこう言った。
『ルフィーゼ…おきゃく、お客さんを…蹴っちゃだめだよ…』
蹴る…蹴る?待て待て!そういう問題じゃないだろ!注意するなら威力の方に文句言え!
…と言うか、蹴るというより弾き飛ばされたの方が正しい。
そう頭の中でエルヴィと呼ばれた人物の言葉に異議申し立てでいると、龍が口を開く。
『だってだって!こいつが悪いだろ、ボクの宝石を勝手にベタベタと触ったんだぞ!!』
いや、何であんな所に宝石があるんだよ。
「ルフィーゼ…君は散歩中に造った宝石をそのまま放置しているからじゃないの?」
そう言って半目で白蛇…じゃなかった、龍を見つめる。
『ウグッし、仕方ないだろォ…だって、いちいち片付けるの面倒なんだもん。』
そう言って吐息をつく。
「お前…よくそれで、俺に威張れたな…」
呆れながらも、一人と一匹の会話の間に割り込む。
「あぁ!すいません忘れてました。大丈夫ですか?僕の名前はエルヴィ。そしてこっちは僕の使い魔のルフィーゼです。」
そう元気に人懐っこそうな微笑みで自己紹介をされた。
いや待て、忘れてた?今こいつ忘れてたって言ったか?
嘘だろ…と頭を抱えそうになるのを我慢し、取り敢えずこちらも自己紹介をする。
「…俺の名前はヴァイリス・グレイ=アードだ。」
さて…この歪の図書館からは出られるのか。
…それに、何故、俺はここに迷い込んだのか。
そもそも、本当に俺は生きているのか。
疑問が絶えず溢れてくる。
己のいる場所も、時間もあやふやなこの場所では、分かることはないだろうと諦めながらも
今、己が呼吸をして、心臓が鼓動を打っているのを確認してどこか安堵する気持ちは何故なのだろうかと、
いつのまにか深夜になってしまった空を見上げ、溜息をつく。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
第二話では、エルヴィやルフィーゼについて少し掘り下げていこうと思います。
よければ、次回も作品を読んで頂ければ幸いです!




