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汚されなかった花を、僕はまだ知らない  作者: Aro Aiura


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親友の帰還を待ちながら

※このストーリーは、ノアの視線からお送りいたします。

午後の陽だまりが差し込むテラス席で、僕とキースは向かい合って紅茶を飲んでいた。

湯気の向こうで、キースがふっとカップを置く。


「なぁノア。あの二人……うまくいくと思うか?」


唐突な問いに、僕は迷いなく笑った。


「もちろん。絶対にうまくいくさ。」


「即答だね。ずいぶん自信満々じゃないか。」


キースは肩をすくめる。

心配だったのか、僕の言葉を聞いて内心ほっとしたのかもしれない。


「なんで断言できるのさ?」


「だってさ。」


僕はスプーンをくるりと回しながら言った。


「あの二人、両想いなんだ。」


「……えぇ?」


「本人たちが気づいてないだけでね。」


キースは半信半疑の顔をしている。


僕は自然と昔のことを思い出し、笑みがこぼれる。


僕らはレオンを介して知り合ったが、最初から仲が良かったわけじゃない。


僕は剣術ばかりの活発な少年だった。

一方のレオンとキースは、どちらかと言えばインドア派。

特にレオンはいつも分厚い本を抱えていて、剣の稽古場にもほとんど姿を見せなかった。


「勉強ばっかりの変わり者だよなー。」


周囲からはそんなことを言われていた。

そのせいか、当時の僕にとっても似たような印象しかなかった。


「昔は、ほとんど接点なかったよね。」


僕がそう言うと、キースがうなずく。


「なんだよ、突然。

まぁ確かに。タイプが真逆だからね。」


「だろ?だから、まさかこんなに話す日がくるなんて思ってもみなかった。」


転機は、あの事故だった。


模擬試合で、僕が力加減を誤って剣を弾いてしまった。

飛んでいった剣が、観覧していた僕の婚約者の方へ向かって飛んでいった。


「キャー!!!!」


その光景に、思わず息を飲む。


「だっ、大丈夫か?」

「ご令嬢、しっかり!!」


周囲の観覧客も大騒ぎで、僕の婚約者の周りに人だかりができる。

僕もあわてて駆け付け、彼女の姿を目にする。


「嘘…だろ……?」


彼女はぐったりと横たわり、顔面蒼白でみただけでただ事じゃないことがわかった。

僕はただ訳も分からず、動くこともできなかった。


「力強すぎなんだよ。」

「おっ、お前が悪いんだぞ、ノア…。」


そんな僕に責任を押し付けたいのか、投げかけられる言葉も相まって、ただ泣くことしかできなかった。

彼女が死んだら、どうしたらいいのかと不安と恐怖にかられた。


「すみません!通してください!」


そのとき、駆けつけてきたのがレオンだった。


「医者を呼んでください!すぐにです!」


「はっ、はい!」


冷静に指示を出しながら、倒れた彼女の状態を確認し、応急処置を始めた。

僕は放心状態でそれをじっと見ていたが、しばらくして彼女の意識が戻ると、嬉しくて嬉しくて、また違う涙があふれて止まらなかった。


「正直、あんなに落ち着いた対応ができる人間がいるなんて思わなかった。」


「レオンらしいな。」


キースが小さく笑う。


「おかげで彼女は駆け付けた医者に掛かって、大事にはならなかった。」


あのときの安堵感は、今でも忘れられない。


「……本当に、死んでしまうかもしれないって思ってた。」


声が少し震える。


「だからさ、涙が止まらなくて。」


僕はレオンに頭を下げた。


「ありがとう。どうなるかと思った。」


するとレオンは、いつもの穏やかな笑みでこう言った。


「僕は医者になる人間だから。当然のことをしただけだよ。」


思わず苦笑する。


「その時思ったんだ。こいつ、すごい人間だなって。」


「へぇ…。それで話しかけるようになったんだ。」


キースは感心したように言う。


「うん。今でも頻繁に会えるわけじゃないけどね。」


「忙しいよね、僕もなかなか会えないからね。」


「いいさ、仕方ないだろ。」


カップを持ち上げる。


僕らに会えない間も、どこかで誰かの命を救ってるんだろう。

そう思えば、そんな親友を応援したくもなる。


「で?

どうしてあの二人が両想いだってわかるんだい。」


キースは、その理由を知りたいのか自然と声に力が入る。


「実は、さっきアリア嬢と会ったんだ……。」


レオンに会う少し前、ヴァルツァー侯爵家の扉をたたいてすぐのことだった。


廊下で偶然出会ったのが、アリア嬢だった。


「……あ。」


彼女は僕を見るなり、少し驚いた顔をしたあと、すぐに丁寧に頭を下げた。


「王城でお会いして以来ですね。お久しぶりです、リーヴェル小侯爵様。」


「あ、やっぱりアリア嬢だ。」


「え?」


「いや、姿だけじゃ妹の方かと見分けがつかなくて……。」


僕は頭を抱えながら、アリア嬢に近づいた。

これをきっかけに、親友の恋が実るように、何か手助けができればとも考えていた。


「お久しぶりです。花嫁修業頑張っているそうですね。

医学は難しいと思いますが、実際大変ですか?」


「はい……ですが、とてもやりがいがあります。」


そういう彼女は、とても意欲的に見えて、安心した。


「レオンとはどうです?

うまくやっていますか?」


すると、彼女は一瞬言葉に詰まり、視線を落とした。


「大変良くしていただいています。

ですが……婚約者には妹が選ばれると思います。

私など、分不相応ですから。」


「分不相応?」


理由を尋ねると、アリア嬢は妹の良いところを、次々と挙げ始めた。


「妹の方が社交も得意で、人当たりも良くて……私なんかより、ずっと……。」


なるほど、と内心で思った。


(自分に自信がないんだな。)


僕は角度を変えて聞いてみることにした。


「レオンが相手じゃ、不足かな?」


「そ、そんなことありません!」


勢いよく否定したと思ったら、自分の顔を隠し、真っ赤になる。


「もっ、申し訳ありません。

で、ですが、そうではなくて……私のほうに問題が……。」


彼女は自分を卑下しているが、レオンの印象はかなりいいのかもしれないと思った。

僕は、そのあたりを聞いてみることにした。


「普段のあいつって、どう?」


そう聞くと、アリア嬢の表情がふわっと柔らいだ。


「レオンハルト様は、本当にすごい方です。」

「数々の症例をあっという間に解答してしまいますし、私とはそもそも知識の量が違います。」

「領地の運営に関しても、聞くところが多くて、毎日助けられてばかりです。」


その語り口は、完全に恋する人のそれだった。

僕が何かするまでもない。

アリア嬢は、きっとレオンのことを――。


「だよね。」


思わず笑ってしまう。


僕は幼いころのレオンの話をして、二人でレオン談義に花を咲かせた。


これは、僕の勘違いなんかじゃない。


(アリア嬢は、ちゃんとレオンの良さを分かってる。)


その確信は、揺るがなかった。


そこまで話すと、キースは納得したように頷いた。


「なるほどね。」


不敵な笑みを浮かべるキース。

その様子につられて、僕も思わずニヤついてしまう。


「視察から帰ってきたら、すぐに紹介してくれるはずだよ。」


「確かに。自分の婚約者だーって言いそうだね。」


僕らは帰ってきたら、レオンがどんな行動をするのかを予想しあった。


「僕、初めてアリアさんに会ったときさ。」


キースが王城で、アリア嬢に会った時のことを笑いながら話す。


「“この子、絶対レオンの好みだ”って思ったんだよね。」


「あっ、それ俺も思った。」


「やっぱり?」


肩をすくめる。


「両片思いって、ほんとこじれるよね。」


「はは、違いない。」


キースが空を見上げた。


「あー、早く視察から帰ってこないかな。」


「うん。」


僕も同じ方向を見る。


「次にあいつの顔を見るのが楽しみだよ。」


二人で笑い合いながら、これまで以上に親友の帰還が待ち遠しくなる。


思えば、三人で画策して、何かに取り組んだのはこれが初めてだ。

その結末が、ハッピーエンドなら、こんなにやりがいがあることはないだろう。


もうすぐ、答えは出る。

きっと、あの二人は、もう――。


最高の笑顔で、僕たちの前に現れるはずだから。

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