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汚されなかった花を、僕はまだ知らない  作者: Aro Aiura


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芽生える期待

視察は、驚くほど順調に進んでいた。


「……やはり、水源ではないでしょうか。

上流の家畜小屋から菌が流れ込んでいる可能性が高いです。」


「なるほど。この位置関係なら、井戸に直接混入してもおかしくない。」


「はい。感染者の発症時刻とも一致します。」


仕事になると、彼女との会話は驚くほど増えていき、自然と距離が近くなった。

二人で地図を挟んで視線を交わす。


「じゃあ、まずはこの井戸を封鎖しましょう。

代替水の確保も急ぎます。」


「すでに村長に伝えてあります。

消毒薬の配布も手配済みです。」


彼女は初めての視察にしては手際がよく、二手も三手も先に行く。

僕の方がいいところを見せたかったが、彼女の優秀さが単純に嬉しい。


僕には、彼女を無理やり医師の道へ引き入れてしまった自覚がある。

もし、彼女がこの視察を不服そうにしたり、仕事を嫌がったりしたら、プロポーズをすることなんてできない。


でも、僕の予想は簡単に覆った。

彼女は感染対策を抜かりなく準備し、率先して患者の手を握った。

生き生きとした彼女の姿を見て、僕はふっと胸の内を撫でおろす。


「完璧ですね、アリア。」


素直な気持ちを伝えた。


「い、いえ……たまたまです。」


「たまたまで、ここまで正確に当てられませんよ。

あなたはもっと自分を褒めるべきだ。」


「そんなこと……。」


頬を少し赤らめて視線を逸らす彼女に、思わず笑みがこぼれた。


「皆さん、不安でしょうが、正しい処置をすれば必ず収まります。」


集まった領民たちに、彼女は丁寧に説明を続ける。


「手洗いを徹底してください。井戸の水は、必ず煮沸を。」

「体調に異変を感じたら、すぐに申し出てください。無理は禁物です。」


その隣で、僕も声をかける。


「必要な薬や食料は、こちらで手配します。遠慮はいりません。」


「小侯爵様、本当に助かります……。」

「レオンハルト様がいてくださると心強いです。」


次々と頭を下げられ、彼女は少し驚いたように僕を見る。


「……本当に、お慕いされているだわ。」


ぼそっと彼女の声が耳に入った。

彼女は僕と目が合うと照れたように顔を赤くしたが、ふとした瞬間首を横に振り、またその表情に影を落としていく。

その原因を知る必要がありそうだが、これは仕事の一環だ。

苦しむ領民を前に、自分の欲望にだけ目を向けることはできない。


「体調はどうですか?」

「薬草の配給は足りていますか?」


感染は治まっているものの、症状が重い患者もまだまだいた。

僕は夢中で診察をして、薬の処方を行っていく。

傍らで彼女が僕の処置をみて、カルテをつくり、補助してくれている。


少し間を置いて、ぽつりと彼女は言った。


「王子様みたい……」

その言葉は、思わず零れ落ちた本音のようにも感じた。


(――え?)


今までの彼女からは、決して想像もできなかった言葉に一瞬固まってしまう。

彼女は僕に聞こえていないと思たのか、また赤くなったと思ったら、次の瞬間視線を伏せてしまった。


「どうしたんですか?

そんなに照れて――」


「はぃ。てっ、照れてなんて……」


何が彼女を曇らせてしまうんだろう。

その原因が妹にあるのか、家族にあるのか気になった。


ひと段落終え、木陰のあるベンチで並んで休憩をとる。


「アリア、日差しが強いですね。」


「え?」


ハンカチでそっと彼女の額の汗を拭う。


「あ……そんな自分で……」


「水も飲んでください。はい。」


まだ遠慮がちな彼女に、僕はどんどん距離を詰めていく。

されるがまま、戸惑う彼女はやっぱり可愛い。


「あ、ありがとうございます……。」


そんな彼女に笑顔を向けていると、子供たちから声がかかっていく。


「レオンハルト様、恋人とイチャイチャしてる。」

「俺らの前で大胆だな。」


「……っ」


通りすがりの子供たちが、くすくす笑う。

アリアはぱっと顔を両手で覆い、耳まで真っ赤に染めた。


「こらこら、大人をからかうんじゃないの。」


そう言いながらも、僕は子供たちがひやかしてくるのを内心喜んでいた。

両親やノア、キースからされるのとはえらい違いだ。


「えー、お似合い。いつ結婚するの?」

「優しい恋人ができてよかったね。」

「もうちょっと遠慮しろよ。」


ひやかされたことに慣れている僕、慣れていないアリア。

手際よく対処しながらも、彼女が僕の横でずっと固まっているのを単純に喜んだ。


彼女は居たたまれない雰囲気から逃げ出そうとするも、僕は手を握り離さなかったため、ずっと動けずにいたのだ。


「れ、レオンハルト様……!」


「んっ?どうしたの?」


僕はとぼけたように笑う。


「あっ……あの……」


彼女は握られた手に視線を向けるも、けして手を放してほしいなどと言わなかった。

この状況が恥ずかしいには違いないが、少なくとも僕のことが嫌いなわけではないと思う。


むしろ――


その手は握り返しこそしないものの、何の抵抗もされない。

彼女の表情が蕩けて、色香が増しているようにも感じられる。

恋人だという子供たちの言葉も否定はされなかった。


(これは、期待してもいいのかもしれない――)


そのやり取りに、子供だけでなく、大人たちからも温かい笑い声が起こった。


「素敵な奥さまですな、レオンハルト様。」

「領地も安定ですわい。」


僕は終始笑顔が絶えなかった。


もっと、言ってくれ。

僕と彼女がお似合いだと――そしていつか、彼女自身の口から「婚約者」と呼ばれる日が来ることを。

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