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汚されなかった花を、僕はまだ知らない  作者: Aro Aiura


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静かに張り巡らされる包囲網

侯爵家の応接間。


「――改めて紹介するよ。

こちらが、ノア・フェリクス・リーヴェル。

それから、キース・アドリアン・アークレイン。」


「初めまして、エリシア・フォン・グレインフィールですわ!」


その瞬間だった。


エリシアの瞳が、きらりと輝いた。


(……あ、これは。)


ノアとキースを見た瞬間の反応が、あまりにも分かりやすい。


「まぁ……! お二人とも、とても素敵ですのね……!」


「そう?」とノアが軽く笑う。

「ありがとう。褒められるの、慣れてなくてさ。」とキース。


(嘘つけ。)

(毎日のように言われてるだろ。)


ノアも僕も、心の中で即座にツッコミをいれる。


「やだなぁ、謙遜だよ?」


エリシア嬢はそのやり取りに、ころころと笑った。


「お二人とも、社交界ではとても人気だと伺いましたわ。

レオン様のご友人でいらっしゃるなんて……本当に光栄です。」


(……もう、完全にロックオンだな。)


僕は内心、そっとため息をついた。


キースが、さりげなく切り出す。


「実はね、近々、僕たち主催のお茶会があるんだ。」

「よかったら、エリシア嬢もいかがかな。」


「まぁ! 本当ですの!?」


ぱっと花が咲いたような笑顔。


「申し訳ありません。

僕は仕事があるので参加できませんが、よかったら代わりに楽しんでください。」


「ぜひ、ぜひ参加させてください!」


「もちろん。」


ノアも、にこやかに頷いた。


「いろんな人が来るから、退屈しないと思うよ。」


――こうして、導火線に火はついた。


数日後。


キースとノアが主催するお茶会は、いつもどおり盛況だった。


しかし。


「……え?」


会場に足を踏み入れたエリシア嬢の表情が、わずかに曇る。


ノアとキースの隣には、それぞれ婚約者がいたのだ。


「今日は、二人ともご一緒なのね。」とエリシア嬢。

声は笑顔だが、明らかに期待外れだった。


「ごめんね。」とノアが肩をすくめる。

「主催側だから、形式上どうしても一緒なんだ。」


「でも、ちゃんとエリシア嬢のお席は用意してあるよ。」とキース。


案内された席には、

身分はやや控えめながらも、興味津々な若い貴族たちが集まっていた。


「は、初めまして……。」

「ぜひ、お話を――」


最初は不満そうだったエリシア嬢も、

次第に頬を緩めていく。


(……なんて、ちょろいんだ。)


久しぶりの自由な社交。

勉強から解放され、褒め言葉を浴びる時間。


「エリシア様は、本当に華やかですね。」

「まるで、花のようだ。」


「まぁ……ふふ。」


エリシア嬢は、次第に調子を取り戻していった。

ノア、キースはその光景を見送り、互いに目を合わせて小さく頷き合った。


一方、僕はというと――

父の執務室で、静かに向かい合っていた。


「……父上、母上。」

「少し、お時間をいただけますか。」


「改まって、どうしたの?」と母。


「僕の婚約者のことです。」


二人の視線が、こちらに向く。


「それで、お前はどちらにするか決めたのか?」


「やっぱりエリシア嬢なの?」


両親もこの時を待ってましたとばかりに聞いてくる。


「いえ……。」


僕は緊張するも、二人と向き合い、きちんとお願いする。


「二人ともっと接点を持ってもらえませんか。

とくにアリアと。」


「でも、彼女はこの婚約に前向きじゃないでしょう?」と母。


二人は、僕からの意外だっただろう提案をじっと聞いてくれる。


「彼女は、とても真面目で、課題にも常に全力で取り組んでいます。

ただ……社交界での出来事が原因で、自信を失っているだけだと思うんです……。」


「ふむ……。」と父。


「この花嫁修業で……実際に侯爵家の人間として接してほしいんです。

どうか、彼女たちの人となりをお確かめください。」


母が、少し困った顔をする。


「まぁ……あなたがそういうなら……」


「ありがとうございます。母上。」


沈黙ののち、父がゆっくりと頷いた。


「……分かった。

では、彼女たちに私の仕事を手伝ってもらおう。」


「あなた、いい案ね。」と母も微笑む。

「私も、お茶の時間に誘ってみるわ。」


二人は戸惑いつつも、僕の真意を確かめるために、結局提案に乗ってくれた。

これで、後は二人の歴然とした差が、物をいうだろうと。


それから、数日。


アリアは父の執務補助を、驚くほど丁寧にこなした。


「……この分類、よく気づいたな。」


「ありがとうございます。」


母とも、穏やかにお茶を楽しんでいる。


「アリア、医学の勉強は難しいでしょ?」


「はい……率直なところ、私にできるのか不安もありました。」


少しためて、彼女が続ける。


「でも、今は両親を救ってくれたお二人のように、私も少しでもお役にたてればと思っています。」


「まぁ、とても謙虚なのね。

あなたのように呑み込みが早い子は珍しいのよ。」


「本当ですか?」


「ふふふっ……本当よ。」


父も母も彼女の能力に、人となりに関心を持って行った。

それまでとはうって変わって、今ではお茶飲み友達のように会話が弾んでいく。


そして。

彼女の笑顔は、少しずつ増えていった。


(よかった……。)


だが。


そんな思惑通り作戦が進んでいるのに、一つだけなかなか突破できない壁があった。

僕との距離だけは、相変わらずなのだ。


必要な会話はする。

だが、それ以上、踏み込んでこない。


その微妙な距離感は、両親にも伝わっていた。


「……二人、思ったより距離があるな。」と父。

「そうね……。」と母。


ある夜。


父がぽつりと切り出した。


「レオン。

お前が結婚したいのは、アリアで間違いないか?」


僕の真意を見抜いて、はっきりと答えを求める父。

僕は臆することなく、それに答える。


「はい。」


「やっぱりそうなのね。」


父も母も嬉しそうだ。


(また、二人でニヤニヤと……。)


みんな僕で遊ぶのをやめてほしい。

その暖かな目線を早くどうにかしたいものだ。


「だが、アリアとの距離が全然縮まらないな。」

「私たちの方が先に打ち解けるなんてね。」


二人は羨ましいでしょと言わんばかりの顔をする。

腹立たしい限りだ。


「僕だって頑張っているんですよ。」


そして、困っている僕に父が助け舟をだす。


「ふむ。少々手荒になるが…

今アリアに領地でまん延しつつある病原菌について取りまとめてもらっている。」


そうして、彼女が作成している資料に目を落としていく。


「この案件はすぐに解決できるだろう。

二人で領地の視察に行ってはどうだ。」


「え……?」


「彼女も仕事ならば断わるまい。

一度二人きりで過ごせば、嫌でも会話は増えだろう。」


母も、少し考えてから頷いた。


「確かに……きっかけがあれば、あなたとの距離も縮まるかもしれないわ。」


僕は、藁をもつかむ気持ちでこの提案にのることにした。


「……分かりました。

その提案、受けます。」


始めて彼女と過ごす公式の場(デート)だ。

僕は少し浮かれてしまう。


何にせよ、両親の彼女の評価が変わったことは喜ばしい。


もちろん――

僕は一人を差別してはいない。


「彼女たちの人となりをみてほしい。」と僕は伝えた。

その言葉のとおり、同じ提案は、エリシア嬢にも向けられた。


「エリシア嬢、領地の仕事を一緒にやってみないか。」と父。


すると、エリシア嬢は露骨に顔を曇らせた。


「えぇ……?

最近、お茶会続きで、少しお疲れですの。」


「書類仕事は、ちょっと……。」


「勉強も大変ですし……。」


言い訳が、次々と重なる。


母が、ふと眉をひそめた。


「……随分と、社交が優先なのね。」


父も、静かに腕を組む。


「友達が多いのはいいことなんだが……」


エリシア嬢は慣れてきてしまったのか、伯爵家でわがままに育ったせいか――

社交を優先し、勉学をおろそかにし始めた。


アリアがその差を埋めようと、ますますのめり込んだために、

彼女たちの差は決定的なものになっていった。


侯爵家との交流はありつつも、肝心な花嫁修業はそっちのけなのは誰の目にも明らかだった。


――疑念は、確実に積み上がっていく。


エリシア嬢の社交界での評判も、父と母からの評価も下がりつつ、

アリアはどんどん侯爵家の人間として育てられていく。


そして、両親が提案してくれたチャンス――

二人きりの領地視察が、動き出そうとしていた。


戦いにいくかのように、入念に準備を整えていく。


そんな最中、僕は遠くから、父と母と楽しく話す彼女に気づいた。


(僕の婚約者なのに、なんでこんなに遠いんだ……)


あの場に飛び込みたい気持ちを押し込む。

そんなことをしたら、せっかくの彼女の笑顔が失われてしまうかもしれない。


僕も、彼女と話せるようになりたい――


その願いを叶えるためにも、この領地視察で、彼女の心をつかみたい。

みんなの期待に応えるためにも、ここが正念場だ。


これまでの苦労を思い返しながら、壁にもたれ、そっと目を閉じる。

家族や親友たちが、僕のために画策してくれた数々の出来事が、次々とよみがえった。


――すべてが、この瞬間へとつながっている。


これは、僕の婚約を懸けた集大成だ。

ここで無様に終わるわけにはいかない。


今度こそ、彼女に気持ちを打ち明け、この婚約を本当の意味で成立させる。

その覚悟が、静かに、しかし確かに固まった――

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