表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
汚されなかった花を、僕はまだ知らない  作者: Aro Aiura


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/16

譲られたくない婚約

この物語は、「運命だと思っていた相手は、妹の婚約者でした 」よりレオンハルト視点でお送りします。

王城の大広間は、まるで宝石箱の中に迷い込んだかのようだった。


無数のシャンデリアが天井から光を降らせ、絹のドレスと宝飾品が、その光を反射してきらめく。

甘い香水と花の香りが混ざり合い、耳には弦楽器の柔らかな音色が流れていた。


――今日が、社交界デビュー。


貴族として正式に名を連ねる初めての夜であり、同時に、僕の“未来の婚約者”と再会する日でもある。


幼いころ、双子の赤子に触れた記憶は、正直ほとんど残っていない。

覚えているのは、母が楽しそうに「どちらがお嫁さんになるのかしらね」と微笑んでいたことくらいだ。


それでも、不思議と胸は落ち着かなかった。


期待と、不安と、ほんのわずかな好奇心。


「どんな女性に育ったのだろう。」


医師の家に生まれ、遊びよりも学びに時間を費やしてきた僕にとって、同年代の女性と向き合う経験はほとんどなかった。

だからこそ、会場を歩きながら、無意識のうちに双子の姿を探していた。


――ほどなくして、見つけた。

いや、視線が自然と吸い寄せられていったという方が正しい。


淡い色合いのドレスに身を包んだ少女が、控えめにグラスを持ち、周囲に静かな微笑を向けている。

誰かと話せば、きちんと目を見て頷き、相手の言葉を遮らない。


派手さはない。

けれど、所作一つひとつが、丁寧で、美しかった。


――こんなことがあるのだろうか。


彼女は僕の描いた淑女そのままだった。

胸の奥で、静かに何かがほどけた。


(あの子だ。)


理由は分からない。

けれど、本能に近い感覚でそう思った。


――――だが、その想いは、あまりにもあっさりと否定された。


「侯爵家の婚約者として相応しいのは、妹の方だと、私は考えております。」


後日顔合わせの場であった時、彼女はこの婚約に前向きではなかった。


あの社交界デビューの日、彼女は何一つ恥じるようなことはしていなかった。

それなのに、家族や周囲の人間たちは、彼女を一方的に貶めていた――その光景を、僕はこの目で見ている。


よほどのことがあったのか、あの日見た時より暗い表情をしている。

その姿が、胸を締めつけた。


なぜ、彼女は何も言わないのか。

なぜ、自分を守らないのか。


――あなたは、突然のアクシデントにも気品を失わず、周囲への配慮もできる、素晴らしい女性だ。


だが、彼女は妹の方が優れていると、予想外の言葉を放った。

この縁談を“妹に譲るつもり”だという。


胸の奥に、静かな違和感が生まれた。


なぜだ。

どうして、自分をそんなふうに扱うのか。


その理由が知りたい――


「今この場で、どちらが婚約者に相応しいかを決めるのは、あまりにも早計かと存じます。」


僕は、あえて婚約者の決断を先延ばしにすることにした。


「お互いを知るための、機会をいただけないでしょうか。」


そして、もし可能ならば――

彼女自身の意思で、僕の隣に立つことを選んでほしかった。


そのためなら、どれだけ時間がかかっても構わない。


静かに、だが確かに。


僕の恋は、あの日、王城で出会った時から始まっているのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ