旅路の果てのその先で
目を開けるとそこには、宝石箱をひっくり返したような星空が広がっていた。
男は身体を起こし周りを見渡す。
東の方角の地平線が薄っすらと明るくなり、太陽が昇る気配を見せている。
包まっていた毛布にもう一度身体を横たえ、東の空がもう少し明るくなるまで満天に広がる星空を眺め続ける事にした。
夜空に瞬く星々を見上げながらおかしな事だなと思っている。
140光年先の星に向かい、帰ってくるまでの282年間宇宙船に乗っていながら、星を見たのは目的地の星の地表にいた2年間だけだったのだから。
東の方角から段々と星が消えていき、空が明るくなって行く。
起き上がり枕にしていたリュックサックからビスケットを2枚取り出し、水で流し込む。
身体を横たえていた毛布を畳みリュックサックに括り付けると男は立ち上がり、北の方角に向けて歩き出す。
地球時間で約2000年の間14人の仲間たちと旅を続け、やっと故郷の地球に帰り着いたというのに減速に失敗して乗っていた宇宙船は地表に激突。
男を除いた仲間たち全員が亡くなった。
仲間たちを埋葬してから男は、墜落途中のデータに残されていた都市と思われる場所に向けて歩む。
宇宙船が減速に失敗し墜落した場所は荒野、見渡す限りに赤茶色の荒野が広がりポツンポツンと生えている木が、その赤茶色の大地に色を添えていた。
荒野を歩き続け見晴らしの良い場所に出る度に、男は双眼鏡で人工物を探す。
否、人工物だけで無く動く物は無いかと注意しながら周囲を見渡した。
だが人の姿どころか獣の姿も空を飛ぶ鳥の姿さえ見えない。
「人は、人は……何処にいるんだ?」
独り言を呟き、力なく首を振ると男はまた北に向けて歩き始める。
男は墜落のショックで自分自身に関する記憶を無くしていた、自分がアンドロイドである事を含めて。
男の任務は正に人間の乗組員が全て死亡した後も任務を続行し、旅先で得たデータを持ち帰る事が宇宙船に乗せられていた理由だった。
男は歩き続ける。
仲間の死を無駄にしない為に、貴重なデータを無駄にしない為に、北に向けて延々と歩き続けるのであった。




