閑話 第二録 動的平衡について
樹蟲たちは、世界樹を単なる森の呼称としているが、ぼくは少し異なって具体的な定義を示したい。
一般的な森林をなす生態系の構成子は、植物、虫、鳥、獣、土壌、その他もろもろと多種多様だ。だが、それらは生物と環境の互恵関係によって形成、維持され、一体物として存在しているのだ。
そして世界樹においては、外界と区別され動的な平衡を維持する一個体――――つまりは「生命」をなしている、とぼくは考える。
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生命は、その基本原理である生存本能によって、他の生命と競争を行い、栄枯盛衰を繰り返すなかで、一時的な均衡状態である「生態系」を形成する。
自然摂理に現れる一時的な平衡の集積は、生命定義に相似して、その差異は「ホメオスターシス」が機能し持続的であるか、によるのだ。
ホメオスターシスとは、生物の体内環境を平衡に維持する機構――――いわゆる「恒常性」のことである。つまり勘案すべきは、世界樹という閉鎖系において、恒常性維持は果たして存在するのか、そしてそれはなんによってなされているのか、なのだ。
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植物は菌と共生している。そしてその植生は、相互に利得をもたらし合う感染状態――――「相利共生」によって維持されている。もちろん、この森にも共生菌は存在して、多様な植生を形成、維持している。
植物の根に共生して「菌根」を形成。菌根は根外へ菌糸を伸ばし、土壌の栄養分を吸収、植物が生成した栄養分と交換することで、みずからに必要な栄養分を得ているのだ。さらに、それだけではない。
菌根を形成する菌「菌根菌」は、土中に伸ばされた他の植物の菌根菌糸と結合して連絡する。植物種を問わず、菌根同士が回路を形成し、交信しているのだ。
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菌根は土中の菌糸を用いて、植物の特性に合わせ、「実生」の成長を操作する。
実生とは、発芽して間もない植物のことであるが、ある菌根菌は、実生の成長を阻害することで多種を共存させる。また別の菌根菌は、実生の成長を促進し同種を密生させる。それらを多様な植物種の菌根が併存させて、複雑で広大な森林を形成するのだ。
いわば植物に適した生育環境を、菌根菌が整備するのだな…………で、本題はここからだ。