1話
はじめまして、「白昼夢」といいます。
大学1年となり、初めて作品を出してみることにしました。高校の頃から作品自体は書いていたのですが、1度もネットに出したことはなかったので、心機一転、ネットに上げることにしました。
5話くらいで終わる予定なのでゆったりと見て欲しいです。
不安はたくさんありますが、優しい目で見てくれると嬉しいです。
私はここにくるべきじゃなかった。
でも、もう戻れない。
今更どうやって戻るのかもわからない。
病院の入り口を振り返っても、そこには扉のようなものはどこにもなかった。
ただ真っ白な壁が立ちはだかっている。風の吹かない静けさ。空気の湿っぽい匂い。それら全てが私の不安を掻き立てる。
この病院は何かがおかしい。
ふと急に思い出した。
私の病気。クリスタル症候群を発症した夜のことだ。最初は腕に少し違和感があっただけだった。チクチクとする感じ。でも数日後には体がガラスのように透き通り、肌がクリスタルのように硬くなった。
そして、私は外に出ることができなくなった。夜という夜を耐え、私は今もなおその状態でいるが、正直もう限界だった。
「梓」と声がした。私の名前である。振り向くと、受付カウンターの奥から、白衣の男がじっとこちらを見ている。いつからそこにいたのだろうか。わからない。ただ、彼の顔には表情がないのに、目だけはまるで私の中を覗き込んでるようだった。
「待合室へと行こうか。他の部屋の子たちも来るよ。」
待合室?どういうことだろう。
待合室は広かったが、決して快適ではない。古びた椅子が並び、電気はカチカチと不規則に点滅点滅している。部屋の全ての角に置かれた植物は、手入れが行われていないのだろうか。生きているか枯れているか判別がつかない程に奇妙な形をしている。
しばらくすると、他にも男に連れてこられた女の子たちが入ってきた。私を含めて6人の子が揃うと、受付の男が口を開いた。
「これから君たちは、自分に向き合う時間を過ごすことになる。この病院には出口がない。だが、克服したものには光が差すだろう。」
「どういう意味よ!」誰かがすかさず叫んだ。短髪の若い女の子だ。彼女の目は血走り、言葉には怒りが込められている。しかし、男は顔をこちらに向けることすらなく、この場を立ち去ってしまった。
6人のうち、私の隣に座った少女が小声で話しかけてきた。
「ここは本当に病院なのかな?」
と言いながら彼女は怯えたようにあたりを見回す。私は小さく首を横に振るしかなかった。
「わからない。でも、ここだと病気が治ると信じるしか私にはできない。」
少女の名前は渚といった。彼女は、話すたびに何かに怯えているようで、目を泳がせていた。
彼女の病名は影纏症といい、自分の影に別人格が宿っているらしい。最初私には理解ができなかったが、目を凝らすと、彼女の影が動いているために、簡単に彼女の影が彼女と別存在だということが確認することができた。
その時、待合室のライトが一斉に消えて、真っ暗になった。
暗闇の中で、私は息が荒くなるのを感じた。肌がチクチクとし始める。また発作が来る、、こんなところで、みんなの前で、いやだ、嫌だ、嫌だーー。
誰もいないはずの部屋の隅から、声が聞こえる。かすかな息遣い。いや、低い笑い声なのかもしれない。
暗闇の中、私はそっと目を閉じた。見てはいけない。見れば何かが壊れてしまう気がした。
「梓、しっかりして。」
誰かの手が私の肩を揺する。その声は優しく、どこか懐かしい響きがあった。
目を開けると、私の顔を覗きこむ渚の姿があった。
「ごめん……」と呟くと、彼女はかすかに笑った。
「大丈夫。ここに来た人はみんな仲間。謝る必要なんてないよ。」
その言葉に私は救われた。ここにいるみんなは仲間。きっとこの先も大丈夫。