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作戦開始

「……どうやって、ここから出すのかな?」


私がそう考えていると、


──シュンッ


目にも止まらぬ速さで、兄上のナイフが鉄格子に振り下ろされた。


ギィィィィィ……ン!!


……え?


一瞬、何が起こったのか理解できなかった。


だって、牢屋の鉄格子って、普通の剣でも斬れないように作られてるはずでしょ!?


それなのに、兄上はまるで紙を裂くようにそれを両断してしまった。


「………………」


「いや、なんでこんなことが可能なの!?!?」


「ていうか、今までどうやってこのナイフで戦ってたの!?!?!?」


獣人たちも目を丸くしていたが、兄上は当然だと言わんばかりに肩をすくめた。


「……なんだ、その呆けた顔は」


「俺がこんなもんも切れないとでも思ったか?」


いやいやいや、普通思うでしょ!?!?!?!?


っていうか、そんなナイフ持ってるなら、最初から牢屋に閉じ込められた時点で脱出できたんじゃないの!?!?!?!?!?


「……兄上?」


「最初からこれ使えばよかったんじゃない?」


「……」


兄上の目が泳ぐ。


「……侍従を呼んでいいと分かってたら、俺だって説得できたからな!!!」


「お前に負けたわけじゃない!!!」


めっちゃガキンチョ丸出しで言ってくる。


「……はいはい、そうですね」


もう適当にあしらっておこう。


こいつのプライドを傷つけると面倒くさそうだし。


「はい、兄上は悪くないです。私がすごかったわけでもないです。これでいいですか?」


「……チッ」


「舌打ちされた!?!?!?」


まあいい。


そんなことより、獣人たちは全員解放された。


ここからが、本番だ。



鉄格子が斬られ、全員が外に出ると、自然と戦いの準備に入った。


「作戦会議だ」


兄上が腕を組みながら言い、獣人たちも緊張した面持ちで集まる。


「全員で暴れまくる」


──開口一番、兄上が言った。


「いや、待て!!!」


「さすがに全員で暴れるのは無理だから!!! いくら獣人が強くても、そんな目立つことしたら、流石に全滅する未来しか見えないんですけど!!??」


「はぁ?」


「戦いなら俺の方が詳しいだろうが」


「いやいや、戦いの問題じゃなくて、脱出の話だから!!!」


「暴れるだけなら確かに強いのかもしれないけど、今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!?」


「なら、どうするんだ?」


兄上が挑発するようにニヤリと笑う。


いいだろう、そこまで言うなら、私が提案してやる。


「今こそ、“目立たずに目立つ”方法を使うべきです!!」


周囲がざわめいた。


「……どういう意味だ?」


「“目立たずに目立つ”? そんなことができるのか?」


私は深く頷き、説明を始めた。


「まず、私と兄上をここの従業員ということにします。」


「そして、獣人たちを“私たちを探すための人員”として外へ連れ出すことにする。」


「もし従業員が脱走したとなれば、大騒ぎになる。でも、獣人なら逃げたとしても外で殺されるだけ。だから、一時的なら“捜索に使う”という名目で外に連れ出すことはできるはずです」


「今、この状態だからこそ使える作戦です!!!」


獣人たちが、一斉に顔を見合わせる。


「……なるほど……」


「たしかに、この場では合理的だ……」


「でも、問題がある」


そう言ったのは、リーダーだった。


「お前たちの身長だ」


「従業員にしては、どう見ても小さすぎる」


「……!!」


そうだった……!!


「たしかに、いくらそれっぽい服を着せても、私も兄上も明らかに従業員にしては子供すぎる。」


「これは、さすがに誤魔化しようがない……!!」


「じゃあ、この作戦も無理……?」


悩んでいると、ふいに、獣人の一人が前に出てきた。


狼の耳を持つ、しなやかな女性だった。


「私が変身の魔法を使えるわ。」


「……!!?」


「変身の魔法!?」


「そんなの、あるの!!??」


突然の申し出に、場が再びざわめく。


「……マジで、そんな都合のいい能力あるの!?!?」


「でも、もしそれが本当なら、この作戦……いける!!」


私は彼女を見つめながら、確信した。


「……この計画、成功させてみせる!!!」


変身魔法が発動すると、まず髪色が茶色から灰色へと変わった。


次に、体がじわじわと伸びていく。


「おぉ……すご……」


思わず声が漏れた。


違和感なく、本当に“それっぽい”大人の姿になっている。


「この魔法、めちゃくちゃ便利なんですけど!?!?」


「もうこのまま背を伸ばして生きていけない!?!?」


……なんて思いかけたが、今はそんなことを考えている場合じゃない。


これはあくまで一時的な変装。


一歩間違えれば、すぐに見破られる危険もある。


「よし、行くぞ」


兄上──いや、今は従業員に扮した“私たち”が、堂々と歩き出した。


後ろには、捕らえた獣人たちを連れ、外へ向かう道を進んでいく。


獣人たちは、まるで本当に“捜索のために動員された者たち”のように振る舞ってくれていた。


「これは……意外と上手くいくかも……?」


そんな考えが浮かんだのも束の間。


「おい、そこのお前たち!!!」


「うわぁぁぁぁ!!!」


心臓が飛び跳ねる。


従業員らしき男が、こちらに向かって手を振っていた。


「お前たち、どこに行く!!?」


兄上が即座に対応した。


「人員の補充だ!! 逃げた従業員のせいで、獣人の管理が手薄になってる!!!」


短く、威圧的に言い放つ。


すると、相手は「あぁ、そうか……」と納得した様子で頷いた。


「くっ、さすが兄上……この堂々とした態度……!!!」


「私が同じこと言ってたら絶対疑われてた……!!!」


「……だが、まだ終わりじゃない」


こうして、道中で何度か声をかけられながらも、緊迫した態度で誤魔化しつつ、私たちは堂々と外への道を進んでいく。


「頼む……このまま、無事に抜けさせて……!!!」



「……やった、もう少しで外に出られる……!!!」


そう思ったその瞬間だった。


──視界が、急に開ける。


出口の先、そこには……


「……待ち構えてた、だと……!?」


黒い鎧に身を包んだ兵士たち。


その数、50人以上。


そして、中央に立つのは──


「……くくっ……お前ら、ようやく見つけたぜ」


護衛長。


傷一つない完璧な姿で、ニヤリと笑っていた。


「お前たちがよ、いなくなってからずっと探してたんだよ」


「だが、見つからねぇ。どこにもな。おかしいと思ったぜ」


「そこで、出口を塞ぐことにした。 こうすりゃ、どこかで必ず引っかかるからな」


護衛長は、ゆっくりと剣を肩に担ぎながら、静かに告げる。


「──図らずも、俺の場所が当たりだったってわけだ。」


……バレてたんだ。


完全に、策を読まれていた。


「まずい……!!」


「どうする!? どうやってここを突破する!?」


焦りで思考が止まりかける。


だが、そんな私の隣で──


「……」


兄上は、一瞬の迷いもなかった。


護衛長の言葉が言い終わるよりも速く。


──シュッ!!


「ッ!?」


兄上が、迷わず切りかかった。


「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」


「いや、もうちょっと作戦とか考えようよ!!!」


しかし、その一閃は護衛長に弾かれる。


「始めやがった……!!!」


だが、それを皮切りに、


「うぉぉぉぉぉ!!!」


「殺せ!!!」


戦いが始まった。


──乱闘が。



こちらの戦力は、私と兄上、そして解放した獣人たち。


……が、数にして30人ほど。


相手は50人以上。


普通に考えれば、どう考えても不利。


「やばい……このままだと……!!!」


焦りながらも、私はすぐに動いた。


「──雷の魔法を使える人、いませんか!?」


この問いかけに、すぐさま一人の獣人が駆け寄ってきた。


「俺が使える!」


雷を操る獣人。


──これなら、いける!!


私は、すぐに次の指示を出した。


「わかりました! 今から、私が敵が固まっている方向に水を流します!!」


「そこに、あなたの雷を流してください!!!」


獣人は目を見開いた。


「……なるほど、やるな!」


「ウォーター!!!」


私は、魔力を振り絞り、敵の足元に向かって水を流す。


広がる水流。


戦っている敵たちが気づかぬまま、それはじわじわと広がっていく。


そして──


「行ってください!!!」


「──雷撃!!!」


バチバチバチバチバチバチ!!!!


次の瞬間、凄まじい雷光が走った。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「な、なんだ……!?!?」


敵の半数以上が、一瞬にして感電し、痙攣しながら崩れ落ちた。



「よっしゃああああああああ!!!!!」


形勢逆転。


「……これは、勝てる!!!」


護衛長の表情が、わずかに険しくなった。


兄上は、そんな護衛長を見て──


「ククッ……」


「これで、ようやく遊べるな……!!!」


狂ったように笑いながら、再びナイフを構えた。


戦いは、ここからが本番だった。


雷撃の余波で戦場は混乱していたが、それでも護衛長は崩れなかった。


むしろ、雷に打たれた仲間をものともせず、兄上との戦いに没頭していた。


「チッ……やっぱり、こいつは強い」


私は戦況を見守りながら、そう確信する。


兄上のナイフ捌きは尋常ではなく、護衛長もそれを正面から受けきっていた。


まるで、殺し合いを楽しんでいるかのように。


だが──


兄上が、徐々に押され始める。


「……マズい!!」


護衛長は、攻撃を受け流すたびに、一撃一撃を確実に兄上へと叩き込んでいく。


兄上の動きが鈍る。


ナイフが弾かれ、手のひらから血が滴る。


──そして、ついに。


「……終わりだ、小僧」


護衛長が剣を振り上げた。


兄上の首を落とすために。


「やばい……やばい!!!」


私は思わず駆け出しそうになったが、その瞬間。


シュッ!!


「……ッ!?」


鋭い音とともに、護衛長の頭にナイフが突き刺さった。


背後から飛んできた、一閃。


「なっ……!?」


護衛長の目が驚愕に見開かれる。


「今の……誰が……!?」


「卑怯な……!」


そう吐き捨てようとした、その瞬間──


「卑怯? そうでもねぇんだが?」


──ズブッ!!!


「ッ……!?」


兄上が、にやりと笑いながら護衛長の頭に次々とナイフを突き刺していく。


「な……っ、やめっ……!!!」


護衛長はもがき、抵抗しようとするが、すでに遅い。


ズブッ、ズブッ、ズブッ──!!!!


「ははははははは!!!」


「お前、さっきみたいに回復してみろよ!!!」


「……できねぇよなぁ!? だって、頭を滅多刺しにされたらどうしようもねぇもんなぁ!?!?」


「お得意の回復も、これじゃ使えねぇだろ!!!」


兄上は、狂ったように笑いながら、何度も何度もナイフを突き刺し続けた。


護衛長の体が、痙攣する。


その光景を見た護衛たちは──


「……ひっ」


「お、おい、これ……!」


「う、嘘だろ……!?」


完全に怯えていた。


「──今だ!!!」


獣人たちは、この隙を逃さなかった。


士気を失った護衛たちを、一気に攻め立てる。


「う、うわあああ!!!」


「もう駄目だ!! 逃げろ!!!」


護衛たちは、蜘蛛の子を散らすように四方へ逃げ出した。


──こうして、戦いは決着した。


「……勝った……?」


そう思って振り返ると、


兄上は、まだ笑いながら護衛長の死体を刺し続けていた。


「……え、もう死んでるよね?」


「……ねぇ、まだやるの!?」


「あー……これ、止めたほうがいいやつ?」


私は、兄上の背を見つめながら、うっすらと冷や汗をかいた。

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