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そういえば、私も魔法使えたわ

兄上と護衛長の戦いは、次第に一方的になりつつあった。


最初こそ互角だったが、護衛長の戦い方は明らかに兄上の“殺しのスタイル”を見切っていた。


兄上は、戦いを楽しんでいる。


でも、それはつまり、相手に付き合っているということでもある。


対する護衛長は、そんな余裕は一切見せない。


何度も間合いを詰め、剣圧で兄上を押し込む。


兄上は避け続けているが、確実に動きが鈍ってきている。


脇腹の傷は、止血すらできていない。


そして、兄上が片膝をついた瞬間──


「よし、そのまま殺せ!!」


「とっとと首を落とせ!!!」


観客席から、歓喜の野次が飛び交った。


「うわ、もう完全に見世物扱い……!!」


「いやいや、兄上ここで死んだら、私も普通に競売にかけられる流れでしょ!? それだけはマズい!!!」


私は頭をフル回転させた。


何か方法はないか。


何か、何か……!!


──その時。


「あれ……そういえば、私も魔法使えるじゃん!?」


「地獄の訓練がきつすぎて、完全に忘れてた!!!」


「バカバカバカ!! なんで今まで気づかなかったの!?!? 使うべきタイミング、完全に今でしょ!!!?」



兄上がさらに追い詰められ、護衛長の剣が振り下ろされる。


もう、時間がない。


考えるより先に、私は両手を前に突き出した。


「もう、とにかくやるしかない!!!」


脳内でイメージする。


この会場全体が、光で包まれる──!!


「──ライト!!!!!!」



その瞬間、世界が白に染まった。


ピカァァァァァァァァァァァッッ!!!!


目が焼けるような、純粋な閃光。


光がすべてを覆い尽くし、視界は真っ白に染まる。


「な、なんだ!?」


「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」


「目がァァァァァァ!!!」


会場中から悲鳴と怒号が響いた。


「よし、やった!!!」


──でも、問題はここからだった。


私も、普通に目が見えない。


「いや、これ自分にも効くんかい!!!」


完全に想定外だった。


目の前が何も見えず、頭の中が混乱する。


でも、今はそんなことを言っている場合じゃない。


「とにかく、兄上を連れて逃げないと!!!」



私は、残りの魔力を振り絞り、全身に力を巡らせる。


「身体強化……!!!」


ぎゅん、と体が熱くなる。


筋肉が膨張し、血液が巡る感覚。


魔力を体に染み渡らせ、一気に駆け出す。


「うおおおおおおお!!!」


舞台へと突進し、目を押さえて悶えている兄上を探す。


いた。


「兄上……もとい、ガキンチョ!!!」


「うおっ!? お前か!!」


兄上は驚いた様子だったが、今は説明している場合じゃない。


「ちょっとごめん!!!」


私は、兄上を思いっきり担いだ。


「おい!? 俺を抱えるな!!」


「黙れ!! これは緊急事態!!!」


「クソ!! せめて優しくしろ!!!」


「この状況でそんな要求されても無理!!!」


叫びながら、私は舞台の裏側へと走り出した。


観客たちは、まだ閃光の影響で動けない。


護衛たちも、何が起こったのか理解できていない。


──今しかない!!!


私は、兄上を担いだまま、全速力で逃げ出した。


「お願いだから、このまま逃げ切らせて!!!!!」


兄上を担ぎながら、私はただひたすら走った。


魔力が切れるまで、全力で。


足音を後ろに置き去りにするように、

影に紛れるように、

生き延びるために。


背中から聞こえてくる怒声と足音が、焦りを煽る。


「追っ手が来る……!!」


逃げ道を探しながら、さらに入り組んだ通路へと身を潜める。


この建物の構造なんて知るわけもないけれど、今は本能に従うしかなかった。


そして──


魔力が尽きた。


全身の力が、一気に抜ける。


「はぁ……っ、はぁ……っ……!!!」


息が続かない。


足が鉛のように重い。


体中が悲鳴を上げる。


「やばい……もう……限界……」


その場に崩れ落ちそうになった、その時。


「……チッ」


兄上が、自分の足で立ち上がった。


「……は?」


さっきまで瀕死で血まみれだった人間が、普通に立ってるんですけど!?


「いやいやいや、お前さっきまで刺されてたよね!?!?」


兄上は、脇腹を押さえながらも、足音を殺して歩き始める。


……え、なんで歩けるの?


震える足で、私はなんとか兄上について行く。


「ちょ、ちょっと待って……なんで普通に歩けるの?」


小声で尋ねると、兄上は淡々とした声で答えた。


「このくらい時間が経てば、だんだん痛みは消えてくる」


いや、それ死にかけのやつのセリフやん!!!!!


「痛覚が麻痺する=ヤバい状態ってことでしょ!?!? 普通、そんなこと言わないから!!!」


そうツッコミたくても、息が上がって言葉が続かない。


兄上はそんな私を気にも留めず、ずんずんと先へ進んでいく。


「ちょ、待って待って!! ついてくの大変なんだけど!!!」


それでも、私は訓練の記憶を頼りに、できる限り足音を殺して追いかけた。


兄上の足音は、信じられないほど静かだった。


スピードは確実に上がっているのに、まったく足音が聞こえない。


「……すごい」


「いやいや、感心してる場合じゃない!! ちゃんとついていかないと!!!」


必死に兄上の背を追いかけながら、私は小声で尋ねた。


「これからどうするの……?」


兄上は迷いなく答えた。


「この先にあるはずだ」


そう言い残すと、さらにスピードを上げる。


何が「ある」んだ……?



暗い廊下を進み続け、たどり着いたのは──


奴隷置き場だった。


「……っ!!」


檻の中には、様々な奴隷が押し込められていた。


衰弱しきった者、怯えた者、虚ろな目をした者。


……ここにいる奴らは、どこへ送られる運命だったんだろう。


「でも、兄上はさらに先に進んでいく……?」


私は戸惑いながらも、黙ってついていった。


そして、その奥へと進んだ時、目の前に広がったのは──


戦奴隷の牢獄。


「…………うわぁ」


ここは、さっきまでの奴隷置き場とは明らかに空気が違った。


檻の中には、ただの「奴隷」ではない。


「戦うことを強いられてきた者たち。」


「生きるために他人を殺し続けた者たち。」


「負ければ、使い捨てられる運命の者たち。」


そんな、“戦うこと”が染みついた顔つきの奴らばかり。


──全員、悪そうな顔をしていた。


「え、なにこの圧……」


「なんでこんな“殺し屋予備軍”みたいな奴らがこんなに揃ってんの!?」


自然と、足がすくむ。


視線が合うだけで、背筋が凍る。


「……ちょっと兄上? ここに何の用?」


恐る恐る聞くと、兄上はニヤリと笑った。


「こっから何十人か連れ出して、ここをめちゃくちゃにする」


「……え~~~~~~~~!!!!??」


いやいやいやいや!!!???


「え、ちょっと待って待って待って!!!」


「その計画、マジでやるの!?!? どう考えても危ないでしょ!?!?!」


「こいつら、絶対“選び間違えたらヤバいやつ”ばっかりじゃん!!!???」


「いや、こっちが先に殺される可能性まであるよね!!???」


さすがにこれは無理だ!!!!!!


私は、即座に提案した。


「……あの、その奴隷を決めるの、私にやらせてくれませんか???」


兄上の目が、一瞬鋭くなる。


「……あ?」


「……や、やばい、ちょっとビビった!!!」


でも、ここで引くわけにはいかない。


震えそうになる膝を必死に押さえながら、私は続けた。


「……誰が瀕死のあなたをここまで運んできたと思ってるの?」


そう言うと、兄上は……


「…………」


一瞬、目を見開いた。


「……え、なんか珍しく黙ってるんだけど……」


「もしかして、これ言い返せないやつ?」


「だって、私がいなかったら兄上、普通にあのまま死んでたし……」


兄上はしばらく私を睨んでいたが、


「……クック……」


「ハハハハハハ!!!!!」


突然、楽しそうに笑い出した。


「なんでそこで爆笑!?!?!?!?!?!?!?」


まったく意味がわからない。


「いや、なんで笑ってるの!?!?!?!? 今、そんなおもしろい要素あった!?」


兄上は、まだ笑いながら私を見下ろし、


「……いいぜ、お前に選ばせてやるよ」


そう言いながら、檻の奥を指さした。


「さぁ、誰を選ぶ?」


私は、ゴクリと息を呑んだ。


「……ほんとにやるのか、これ……!!」

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