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プロローグ

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「シャル、愛している」


 わたくしのことを愛してなどいないはずのあなたは、どうしてか切なげな声音で愛の言葉を囁く。

 ――あなたはわたくしを愛していないのでしょう?

 そう尋ねたくて仕方がない。けれど、彼の答えを聞くのが怖い。本当の気持ちを知ってしまったら、もう知らないフリなどできなくなってしまうから。


 ……ねえ、あなたはわたくしのことをどう思っているの……?



 ―――三ヶ月前。



「お父様!政略結婚とはどういうことなの!?」


 一人の少女が、父親に詰め寄って問い掛けていた。

 少女はプラチナブロンドの髪を鬱陶しげに手で払いながら、大きな桃色の瞳に怒りを滲ませている。

 少女はアルランド王国の第四王女、シャルロッテ。社交界デビューもしておらず、滅多に顔を見せることのない彼女は、民衆では深窓の姫だと云われている。


 ……実際には、少々お転婆な少女であり、民衆の想像とは少し離れた存在なのだが。


 そんなシャルロッテが政略結婚の話を知らされたのは、つい先程の話だった。

 王国の第四王女であるシャルロッテは、幼少期、病弱だった体のこともあり、3人の姉と比べて自由に暮らしていた。姉たちはというと、それぞれ異国へと嫁ぎいで王族としての役目を果たしている。そんな状況下、シャルロッテは油断していた。

 ――自分は結婚しなくても良い、と。


「シャ、シャルロッテ……言いたいことはわかるから、一旦落ち着いてくれ」


 国王であり四人の娘がいるが、女性に弱い父・リチャードは、弱々しい態度で弁解を試みる。

 だが、それに対してシャルロッテは愛らしい顔に精一杯怒りを表して、声を張り上げる。

 張り上げると言っても、生まれつき声が小さい彼女では常人が少し声量を上げているくらいの声でしかないのだが。


「落ち着いてなどいられないわ!わたくし、政略結婚は絶対に嫌だと言っていたじゃないの!」

「だ、だが、今回の婚約はもう既に決まっていて」

「でもっ、……、はぁ」

 このままでは埒が明かないと思い、溜息をついて、シャルロッテは一度引き下がる。


「……お相手は、どなたなの?」

「相手は、……――隣国、エルベルクの皇太子であるユリウス殿下だ」


 妙に歯切れの悪いリチャードをシャルロッテは不審に思い、眉をひそめながら首を傾げる。


「ユリウス殿下……?」

「……ああ、そうだ。そうか、お前も知っていたのか。……それなら、仕方ないな」


 そう言って、リチャードは言葉を一度切り、言いづらいそうにしながら再度口を開く。話を完全には、理解した訳ではないが、話が終わったと思ったシャルロッテはそうとは知らずに話し出す。


「ユリウス殿下は、知っての通り――」

「お相手のことを詳しくは知らないけれど……――わたくし、結婚相手は溺愛系イケメンが良いの」


 シャルロッテがその言葉を遮る。


(何か言おうとしてたのかしら?……まあ、後で聞けばいいわ)


 だが、そんなシャルロッテを見つめていた父は、少し眉毛を寄せると、口を開いた。

 何を言われるのか、と身構えたシャルロッテだったが、父は予想に反して側仕えの男に向かって言った。


「……――レイヴン、肖像画を見せてやれ」

「はっ」


 側仕え(レイヴン)は、国王の命どおりに、長方形の紙をどこからか持ち出して、シャルロッテに見せる。

 瞬間、シャルロッテは目を見開き、感嘆の息を漏らした。


「…………ッ!」


 その、――()()()()()


(イ、イケメン……!)


 目にかかるくらいに伸びた黄金色の髪、すっと通った鼻筋、髪から覗く理知的な切れ長の碧眼。

 どれもがシャルロッテの好みだった。

 惜しむらくは、その優れた容貌に笑みが欠けていることだ。


(微笑みかけたらどんなに素敵なの――………でっ、でもでもでも)


 欲望に従順になって確実に結婚したい気にはなりかけているが、それでもまだ、シャルロッテには懸念事項がある。


「そう言う人に限って、君を愛することはない、とか言うのよ!そんな人と結婚なんて嫌よ!」


 顔の良さも大切だが、シャルロッテにとっては〝溺愛してくれること〟も重要なのだ。


「そんなことは会わねばわからぬだろう。お前こそ、どうしてそんなに愛されることに執着しているのだ?」


 真剣な目で問われ、シャルロッテは一拍置いて堂々と答える。


「それはだって……相手を知ろうとする心。お互いを知り尽くして育まれる信頼。――これこそ理想の結婚生活よ」

「……つまり信頼できれば良いんのではないか」


 どこか誇らしげに力説するシャルロッテだが、リチャードは半眼で一蹴する。 


「違うわ!愛することは過程であったとしても、大切なの!お父様たちだって、そうだったじゃない!」


 亡き母と、リチャードはおしどり夫婦と評されるほど仲が良く、しかしその反面、2人で多くの政治改革を行っていた。そんな彼らを誰よりもそばで見てきたシャルロッテには、愛のある信頼関係に羨望していたのだ。


「……だがな、もう結婚は決まっている。一ヶ月後には嫁いでもらわねば……」

「い、一ヶ月後!?早くありません……?」


 思ったよりも早い結婚に、またしてもシャルロッテは目を見開く。すると、父は目を逸らしながら、気まずそうに言った。


「その……前からお前を嫁がせるつもりだったから色々準備しておったのだ」

「ふぇっ……?」


 結婚のための準備など、まったく知らなかった。


「ということで、お前にはエルベルクに嫁いでもらう」

「嘘でしょう……」


 唐突に、シャルロッテは結婚したくないと父に伝えた時のことを思い出した。あの時、父は確か、それでも良いな、と笑っていたはずだ。

 だというのに、結婚の準備をしていたというのか。 


(う、裏切られたわ……)


 ……最初から、結婚からの逃げ道などなかったのだ。

 シャルロッテは心の中で、その場に膝をついた。



 それから、あれよあれよと言う間に一ヶ月が過ぎ、シャルロッテはエルベルク帝国へと嫁いだ。

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