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生活保護について

 さて、設備トラブルについてここまで思いつくままに書いて来た、まだ他にもたくさん書かなければいけないことがあると思うけれど、それらはまた順次、後から書き足して行くとして、次に、僕を本当に悩ませてくれる居住者さんたちの不思議な行動について書いてみたいと思う。ここまで書いて来た、設備のトラブルもかなり手強いが、次章で書くことの方がよほど手強い。

 

   第三章 ()厄介な人たち  


 「ご」ではなく「お」です。ご厄介と言えば、「ご厄介になります」とか、腰の低いイメージではありますが、ここはあえて「お厄介」と読んでください。単に「厄介者」と書きたいところですが、まあ一応はね、賃貸契約を交わして入居していただいたお客さんでもありますし、また様々な事情もありますので、せめて親しみを込めて呼びたいと思います。お厄介さんとね。

 

  1、マンションは社会の縮図

 

 さて、お厄介さんにもいろいろなタイプの方たちがいますが、まず分かり易いお厄介さんから書いて行きたいと思います。

 長く大家さんやっていますとね、どうしても避けては通れないことがあります。もうここまでお読みになられたお方には「ああ、あれかな」とピンと来られたと思います。はい、それです。滞納であります。お家賃のね。

 その昔、景気のよろしかった頃には、未払どころか、逆に二か月も三か月も前家賃を入れて頂ける大変有難い店子さんがけっこういました。延滞や、未払、ましてや何回も滞納することなんて100%なかったですよ。

 ところが、景気が悪くなって、なかなか空室が埋まらなくなると、家賃を下げざるを得なくなる。そうするとですね、確かに入居の応募はあります。でもね、これは大変言いにくいことなのですが、家賃と民度は比例するのです。

 これは何でもそう。物の質を表す言葉で、「安かろう悪かろう」と言うことが言われますが、何も物だけに限ったことではありません。人間に対してそのように言うことは、大変失礼なことではあります。人権問題ではないかと目くじらを立てる方々もいらっしゃいます。

 でもこっちだって生活が懸かっているのです。大家を物を売る人、賃借人を物を買う人として、私、売る人の立場でものを言っているとご了承ください。

 モンスターカスタマーが昨今社会問題になっております。店員に対して酷い口の利き方をしたり、もっと酷い人は店員に土下座を強要したりね、思いやりの欠片も感じられないようになって来ました。金さえ払えば何を言っても、何をしても良いのか。それも大概エゲツナイとは思いますが、それよりさらに上を行く人々もいます。それはお金も払わずに物だけ持って行く人。いくら困っているとは言え、お金も払わないのに持って行ったら泥棒(犯罪)ですからね(怒)。

 つまり、何が言いたいのかと言うと、家賃を払わない人は物を買ってもお金を払わないのと同じなのです。食い逃げ、万引き、窃盗はもちろん犯罪。でも住み逃げも犯罪ですよ。住み逃げなんて言葉があるのか知りませんが。


 ではここでちょっと社会のお勉強です。 

 昨今、社会問題でもある、生活困窮者に対する国の施策、つまり生活保護のお話です。少し古いお話になりますが、平成二十九年度、厚労省の統計によれば、全国の生活保護受給者率は、都道府県平均で一、六九%、そして大阪府はなんと全国で断トツ一位の三、三一%であります。そして、都市別で大阪市は全国の都市ではさらに断トツの五、三四%を誇ります(誇ってどうする!)。

 これ本当に大変な数字ですよ。我が街大阪では、百人に五~六人は生活保護を受けている計算になるのです。今はもっと多いと思います。

 もちろん単身者だけでなく家族のおられる人も多いでしょうから、実際に保護の恩恵を受けている人はもっともっと多いはずです。実際うちのマンションに、保護を受けておられる三人の子持ちのシングルマザーさんがいました。

 さて生活保護に頼らざるを得ない事情もいろいろあります。身体的に何かしら問題があって働くことができない人。独り者の高齢者。先の例のようなシングルマザーなど、様々な事情によって働きたくとも働けない人たち。昔はね、生活保護を受けているなんて恥ずかしくて大手を振って言えませんでした。社会のお荷物的風潮がありました。でも最近はそうでもない。中にはくれるものはもらっておきましょう的な、あからさまに図々しい人も世にたくさん溢れるようになって来ました。私は個人的にこのことに関してどうこう言うつもりはありません。国民の権利ですから。ありませんが、長年やって来た大家業と言う観点からずっと見て来て言えることがいくつかあります。

 保護を受けた方は、そのほとんどが、「これで一生食って行こう」などと考える人はおらず、「保護は一時的なもので、働くことが可能になればきっと社会復帰するつもりだ」と思っているようです。でも、体が元通りになって働けるようになったとしても、世の中冷たいのです。まず生活できるだけの仕事がない。特に高齢でハードな仕事のできない人にはまず無理。

 ある方は、シルバー人材センターに登録されて、いざ働き出したはいいけれど、あまりに安い給料で、はっきり言って生活保護の方がよほど高い。誰が働きますか? 自分は世の中の役に立っている、働くことは生きることだ、などと理想論を掲げたところで米は買えませんから。もっと言うなら、家賃なんて到底払えませんから。復帰したとは言え、足が悪いとか、持病があるとかね、健常な人のように働けないわけです。かと言って扶養してくれる家族もいない。だとすればもう行政に頼るしか生きる道はないわけです。

 うちも慈善事業をやっているわけではありません。家賃を払ってもらえないと今度は私のお米が買えなくなってしまいます。生活保護の家賃扶助は年々その額が下がりつつあります。少し前はうちの1DKぐらいの家賃はなんとか扶助で賄えましたが、今はもう無理です。

 そしてもっと問題なことは、家賃扶助は大家さんにではなく、保護を受ける本人に渡されていると言うこと。こちらが役所の福祉課に交渉したとしても、本人の意思が優先されるのです。人権保護です。日本ですから。つまり「国からもらった家賃扶助は、必ず家賃支払いに使いなさいよ」と言われているだけ。つまり受給者を信用しているわけです。出ました、性善説。もうすでに化石になりつつある言葉ですね。もちろん家賃以外に使用したことがバレたら厳しい罰則はありますよ。でもね、今日の米か来月の家賃か、と言う選択に迫られたら、やはり困窮者は米を買ってしまう。もうこれはどうしようもない。そしてわざわざ本人がお上に家賃扶助使い込みました、などと申告する筈もない。そして無情にも家賃支払い日はやって来る。「大家さん、申し訳ないですが来月の家賃、ちょっと待ってください」となるわけです。

「あなた、国から扶助もらっていますよね、使い込んだのですか?」

 と問えば、皆同じことを言います。

「すみません、来月は必ず返します。だから役所にだけは言わないでください」

 ここで役所に申し出るのは簡単です。でもここで大きな問題があります。こう言った方は、ほとんどが保護を受けるべき、何かハンデを背負っておられます。脳梗塞とか、難病とか、精神疾患だとか、そして身内もほとんどおられないし、居たとしても連絡などとうの昔に途絶えてしまっている、つまりほとんどが、いわゆる独居老人です。

                                    続く

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