お金のある人は高いところに住む
個人的に思うのは、なぜ、海抜のほぼゼロである湾岸地帯や、あまつさえ液状化のリスクを孕む埋立地になどに建てられたシティマンションを購入するのだろうか? そりゃあ目の色変えて新居を探しているときに、おしゃれできれいで窓から海が見えたりして、二人ロマンチックな気分になったら、もうそれしかないとサインしたい気持ちはわかる。わかるよ。でもねえ……。
以前、僕の友人で、神戸のポーアイに新築マンションを三十五年ローンで買ったやつがいた。もちろん震災前の話だ。あれはもう気の毒としか言えない話だった。そいつは今、灘区の王子動物園の近くの賃貸に引っ越した。
大学卒業して、憧れていた上場企業に一発で就職を決めて、学生時代から交際していた女性と結婚、二人の子宝に恵まれて、もうね、誰もが羨む、絵に描いたような順風満帆な人生だったわけですよ。
そして生活も安定してきたことだし、そうなると、欲しくなるのが家。奥様も良家の子女だったし、彼もいいところの出。で、住むならどこがいいかと考えた時、元々大阪の人間だったけれど、やはりおしゃれな神戸に住みたいということになった。
最初は山の手を考えていたらしい。まあ無理すれば買えなくもなかったかもしれないけれど、子供の将来にきっとお金がかかるだろうと考えた時、出した答えは、今一番新しい街に、つまりポートアイランドだった。
その話を聞いた時、「そこ、ちょっと前まで海やったやん」と一抹の不安は感じたので、僕なら買わないと言ったのだけれど、彼も奥さんも「いや、ちょっと見に行ってみるだけで買わないよ」と言っていた。まあ人間こういう時は、まず、買いますね。もう買う気満々なわけですよ。若い夫婦がお手て繋いで仲良くマンションギャラリーの見学ですよ。業者から見れば、どう考えたって最高のカモ。カモがネギしょって来ている風に見えたに違いない。
新築のタワーマンション。高層階の部屋。南に海が一望、北に山も一望、夜景も最高。交通の利便性抜群。商業施設、学校、病院、生活する上ですべての利便性を兼ね備えたマンション。おまけに最新式のキッチンなど見た日には、奥さんの目の色がキランですよ。
月々の返済も、これがまたどこをどう考えたらこんなに安くなるんだというぐらいうまく組んである。今住んでいる賃貸の家賃以下ですよ。ありえない。後々から泣くことも、その時点ではすでに眼中にない。少しは物を知っている旦那は、ここでちょっと渋る。けれども目の色の変わった若奥様の前では無力。まったく無力! そして敢え無く押印。そしてあの想定外の大地震、この時点で頭の片隅にもなかった。
いやいや、ちょっと、だからね、そこ、何度も言うけど、海の上だから。私たちの生まれた時は、大海原だったから。もうそんな友の忠告何かまったく耳に入りません。
そして、1995年1月17日。彼らの夢は一瞬で泥まみれの海水に潰えたわけです。もう気の毒としか言えません。
大金掛けて直して住むか、二束三文で売るかの選択に迫られたらしいが、余震も続く中、きっともうこりごりなのだろう。そう、いくらおしゃれでも、利便性が高くとも、やっぱり僕にはそんな賭けはできないなあ。少し高くとも山の手にすればよかったのに。
昔からお金のある人は、やはり高いところに住むのだ。それも裏に山の斜面を背負わない広い場所に。決して見晴らしが良いことだけがそこに住む理由ではない。それだけよくわかっていると言うことだろう。
さて、前述の住宅総合保険のところで、うちのマンションも台風二十一号の被害を被ったと書いた。後付で申し訳ないが、もう一つだけ書いておきたいことがある。
続く




