表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/42

転ばぬ先の杖

 ついでに、もう一つ。平成三十年九月四日に台風二十一号が大阪を直撃したが、うちのマンションもご他分に漏れず被害を被ってしまった。向かいのビルの屋上から風で飛ばされて来たトタン屋根の直撃により、四階の南側に面したベランダのアルミサッシと網戸十二枚を破損すると言う大きな被害だった。

 幸いなことにサッシは飛散防止ガラスだったので割れて飛び散ることはなかったけれど、広範囲にひびや傷が入ってしまった。四階の居住者さんはさぞや肝を冷やしたことだろう。

 ところが、これは自然災害による不可抗力なので、当事者である向かいのビルのオーナーは補償しなくても良いとのこと。そんなバカな話しがあるのかと僕は耳を疑った。向かいのマンションは築五十年。かなり老朽化が進み、あちこち壊れている。飛んで来たトタン屋根だって、もう長く使わずに放ったらかしにしてあった屋上の倉庫の一部が剥がれて飛んで来たもので、明らかに管理不行き届きだと思う。これを不可抗力だからと済ましてしまうのも納得が行かない。

 そう言えば、この台風で、確か北大阪の公立の学校の古い倉庫だか体育館だかの何かが飛ばされて一般の住宅を直撃したけれど、不可抗力なので学校側は補償しない、と言う理不尽な話しをニュースで聞いた。うちの場合もそれと同じ。下手すれば裁判か? と思っていたが……。

 でも、ご安心下さい! その際もすべて住宅総合保険で直すことが可能。(前述の表に、飛来物 ○とある)まったく神保険である。ちなみに大きな声では言えないが、この時も実際に被害を受けたのは、サッシ十二枚、網戸十二枚だったけれど、微細な傷も含めて(本当は経年劣化か?)四階の南側のサッシ十六枚すべてまっさらに交換してやりました。セコイ? それなら他の階のサッシも全部替えればよかったか? と後に思ったが、そういう欲を出すと、きっとしっぺ返しが来るのでやらなくて良かった。うちはこれでもまだまだ良心的な方に違いなく、よそはもっとエゲツナイ話だと聞く。

 さて火災保険であるが、近年少しずつシステムが変わりつつある。うちが二十五年前、住宅金融公庫でローンを組んだ時、火災保険(縫合保険)に関しては三十年一括で加入することが可能だったし、義務付けされていた。ところが二〇一五年十月、火災保険の加入年数が最長十年に縮められてしまった。だから今から加入する人は十年以上の保険に入ることはできなくなった。但し更新は可能。 なんでやねん! と保険屋さんに聞けば? 答えは簡単。近年増加する自然災害(集中豪雨、台風、土砂災害、竜巻、大雪など)により保険会社の収支が悪化していることや、将来の収支予測が難しくなったことが背景だと答える。もっともらしい。でも僕はこちらが真意だと思うけれど、火災保険は長期になればなるほど保険料がかなり割安になる仕組みで、逆に言えば、期間が短ければ短いほど高い。それに短期なら比較的価格の改定(値上げ)もし易い。つまり、会社は儲かる仕組みになっている。

 

 

  4、地震保険は保険の保険 


 さて火災保険の話しが出たついでに、ここでもう少し保険の話しに触れてみたい。保険に興味のない方には申し訳ないけれど、家など不動産をお持ちの方にはきっと参考になるはずなのでもう少しお目を拝借したい。

 住宅総合保険は神保険であると書いたけれど、実は万能ではない。前述の表にある通り、火災、風水害、劣化、故意以外の設備破損等には適用されるが、ただ、地震による被害だけはその補償範囲には入っていない。こんなに頻繁にグラグラ揺れている日本に住んでいる以上、やはり地震保険に加入しなければいけないと思う。

 火災保険(総合保険)は地震の直接被害ではなく、津波、土砂崩れなどによる間接的な、地震を起因とする被害ももちろん適用範囲外であるし、また地震による火災、その延焼による被害も火災のための保険なのに補償されない。かつて、地震で家が壊れても火災保険では補償がないのでその場で火をつけたフトドキ者がいたらしいが愚の骨頂だったわけだ。

 さて地震保険の決め事について簡単に触れておきたい。

 その一。地震保険はそれ単独で加入することができない。同じ保険会社の火災保険に入っていることが前提となっている。例えば損保ジャパンの火災保険加入者なら同じ損保ジャパンの地震保険にしか入れない。 

 その二。――地震保険はいわゆる再保険、つまり保険の保険である。数多とある保険会社の中でも、地震保険を取り扱う(取り扱える)保険会社は非常に限られている。つまり補償額が他の保険に比べると半端なくでかいので、大手にしか取り扱えない。

 また、取り扱いのあるどこの保険会社で加入しても、商品性、保険料とも同じである。それには理由がある。これは地震保険が、一九六六年施行の法律に基づいて政府と保険会社が共同で運営している半公的保険だからだ。つまり地震による被害は、他の様々な被害とは違い、民間の保険会社だけではその大規模な損失をカバーできないので、保険会社の負った地震保険責任を政府が再保険する。

 参考までに具体的に数字を出すと、一回の地震被害で、八百七十一億までは民間の保険会社が出し、それを超えて一千五百三十七億円までは保険会社と政府が半分ずつ負担し、そして上限十一兆七千億円までを政府が準備する。と、ここまで数字が大きいとピンと来ないが、洗濯機の排水漏れで右往左往する我々レベルでは、まあ大丈夫と言うことなのか。いや、素人考えだけれど、十一兆七千億を超えるような、南海トラフ級の被害が出たらどうするのだろう。政府は何とかしますって言ってるけど、本当に大丈夫なんだろうか。ああ、その時はたぶんもうこの世にはいないだろうから心配には及ばない?

 そしてわれわれの支払った地震保険料は保険会社の経費を差し引いた額を保険金支払いのために積み立てることが義務付けられている。だから地震保険で保険会社に利益が生じることはない(ホントかな?)。まあ例え高い保険料を払ったとしても、元より地震がないことが一番だ。

 その三。補償上限は、火災保険の上限の半分と決められている。例えば全壊でも、火災保険の上限が一億円ならばその半分の五千万しか下りないことになっている。最新の保険ではオプションでカバーできるものもあるようだが、まだまだ普及はしていない。

 その四。加入期間にも制約があって、地震保険は一年から最長五年しか入れない。元になっている火災保険が最長十年と決められているのだけれど、それに付帯する地震保険は五年までと決められている。また火災保険が残り三年なら地震保険も三年まで、当然ながら火災保険が二十年残っていても地震保険は五年までしか加入できない。ここでもやはり長期的に未曾有の被害を予想することが困難であるからなのだろう。

 さて気になるその掛け金について、うちのマンションを例に挙げてみる。うちのマンションはRC(鉄筋コンクリート)四階建て、頑丈なラーメン構造からなる。ラーメンと言っても麺類ではない。ドイツ語で言う額縁のことで、つまり額縁みたいな長方形に組まれた柱と梁が剛接合している建築構造のことで、高い耐震基準を誇っている。つまり、地震に対してはかなり安全な構造のはずである。にもかかわらず、そのたった一年の掛け金は、二〇一八年度でなんと約十一万円とかなりの高額だ。来期はさらに上がるらしい。僕も毎年更新時期が近付く度に憂鬱な気分になるが、南海トラフも予想される今、やはり転ばぬ先の杖になるだろうと思う。

                                    続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ