焼け太りならぬ濡れ太り
リフォーム時、僕もエルボがないことに気付けばよかったが、なにせ素人大家さんなもので、そのエルボの重要性をよくわかっていなかった。これが第二の痛恨のミスだ。そして三年前に新しい二〇一さん(美人)が引っ越して来て、その際、新しい洗濯機を持って来た業者(ジャ○ネット)が、パン専用のエルボが見当たらないため、排水ホースを直接ドレンに突っ込んだようだ。まあいい加減なことをする。大家に報告してほしかった。これが三つ目のミス。
当初はそれで洩れることなく使えていたようだが、年数が経ち、ドレン下のS字臭い止めトラップにゴミ等が付着してそれがヘドロのように成長した。成長と言う言い方も変だが、まあその通り、どんどん大きくなり、管は狭くなって行き、やがて流れうる水量よりも洗濯排水が勝ってしまった。
僕はまず、三年前ここへ洗濯機を搬入したジャ○ネットがいい加減な仕事をしたと思ったが、二〇一さん(美人)に話しを聞けばどうもあやしい。どうやらその時、「専用エルボがない、知りませんか?」と業者に尋ねられていたらしいが、よくわからないので、適当に答えたが、洗濯機が使えないのは困るので、とりあえず前述の応急処置の運びになったらしい。そして業者が、二〇一さん(美人)に、あくまで応急処置だから、早急にエルボを付けてくださいと釘を刺されていたらしい。これはもう皆に責任の所在がある。業者だけが悪いとは言い切れない。でも日頃から親しくしている業者ならそのまま放っておくことはしなかっただろうな。後の祭りである。事故は起こってしまった。業者の注意もすっかり忘れて、放置していた二〇一さんもどうかと思うけれど、まさかそんなことになっているとは思いもしなかっただろう。
でも起きてしまったことはどうにもできない。覆水盆に返らず、ではなく排水洗濯機に戻らず、である。しかしどれぐらいの水が流れ出たのか。ここまで被害が広範囲に及ぶと、もう水道屋だけでは間に合わず、リフォーム専門業者を呼ぶことになった。二〇一号室のフローリングや壁はもちろんのこと、階下のうちの天井も壁のクロスも、果ては漏電したシーリングライトまですべて交換しなければならなくなった。その費用もとんでもなく高くつく。
「いやっ、大家さん、ごめんなさい、ほんとにすみません」
二〇一さんはもう半泣きだ。 お、可愛いじゃないか! その泣き顔もなかなか、などと余裕をかましている時ではなかった。さてどうするか。
その時、救いの神が現れた。リフォーム屋さんが言うには、こういう事故は割りとあって、そのほとんどが、費用負担を免れるとのこと。僕はそんなことも知らなかった。なんと、火災保険だった。え? それって火事の保険じゃないの? いやいや、火災保険と聞けば、単純に火災による被害の補償だと思っていたし、今もそう思っている人がたくさんいる(いや、いないか)と思うが、うちの入っている保険は火事だけに留まらず、水濡れ水洩れもカバーする住宅総合保険だった。うちは新築当初、住宅金融公庫物件だったので、保険費用三十年分をすでに一括で先払い(ローンに組み込まれていた)している。僕はそんな当たり前のことも知らなかったのだ。今から火災保険を検討されている方は、ぜひ住宅総合補償の付いた商品をお勧めしたい。と言っても、保険屋は勧めて来るであろうが。参考までに、火災保険と住宅総合保険の一覧表を載せてみる。
補償範囲 住宅火災保険 住宅総合保険
火災 ○ ○
落雷 ○ ○
爆発・破裂 ○ ○
風災・ひょう災・雪災 ○ ○
洪水・床上浸水 × ○
水漏れ × ○
物体落下・飛来・衝突 × ○
騒じょう・集団行動に伴う暴力行為 × ○
盗難(家財契約付きのみ) × ○
持出家財の損害(家財契約付きのみ) × ○
さっそく損保ジャ○ンに電話すると、その対応も早く、翌日には被害の鑑定人と言う人がカメラを持ってやって来た。そしてリフォーム屋さんに見積もりを出してもらい、その写真と鑑定書を付けて保険会社に送り、そこで被害専門の保険 のプロが査定する。ポイントは、まあ保険で補償が効く案件なら住 宅に限らず、自動車でも傷害でも そうなのだろうが、多めに見積もりを出してもらうこと。罪悪感で チクリと痛むけれど、そこは保険会社相手だからあまりに極端なことをすれば突っ込まれるだろうが、 常識範囲なら気にすることはない。
一つ百万の壷が割れたとか、有名 な絵画がダメになったとか、そういうことを書くときっと厳しく調査をされるのだろうが、見積書で、最低限百万でできる工事でもあちこち盛り込んでもらって百五 十万ぐらいなら大丈夫だろう。(うちはそれで通った)と言うのも、保険は見積もりの全額が出ることはあまりない。だから多めに見積もることが超重要。
本当に悲惨な被害を被った方たちには大変申し訳ないけれど、うちの場合、そのおかげで逆に儲かってしまった。災害太りはこうやって起こるのだと身を持って知る。焼け太りならぬ濡れ太りである。
続く




