はじめに
はじめに断っておきます。これは賃貸住宅経営の手引書でもススメでもありません。僕個人の反省を踏まえた体験談であることをご理解ください。
はじめに断っておきます。これは賃貸住宅経営の手引書でもススメでもありません。僕個人の反省を踏まえた体験談であることをご理解ください。
僕は今現在、大阪市内に鉄筋コンクリート四階建てのマンションを一棟所有している。築年数三十年。戸数は僕の住んでいる部屋を含めて十六戸。小規模な賃貸マンションである。
僕は決して大家さんがやりたかったわけでも、ましてや大家さんに憧れていたわけでもない。ただ母から譲り受けたもので、気が付けば大家さんになっていた。
こういうふうに書けば、傍目から見れば随分恵まれているように見えるだろう。実際、外で「私、マンションのオーナーやってます」と口外すれば、多くの人から「いいなあ」と羨望の眼差しを向けられる。僕自身もかつてはそんなふうに軽く考えていたが、実際にやってみて、それは大きな誤解であるとわかった。
内情はそんなに甘いものではなかった。当たり前のことだが、賃貸住宅経営はガチの商売であり、また本当に儲けようと考えるなら、決して片手間ではできない。
〝老後のために何か不労所得を〟などと巷でよく耳にする○△パレスだとか、○×建託だとかに、大した自己資金もなく、知識も経験もない人は手を出してはいけない。
はっきり言ってあれは詐欺に近い。わずかばかりの貯めた老後の蓄えも年金もすべてハイエナたちに食い物にされてしまう。本当に楽に儲かるなら、老い先短い爺さんや婆さんになんてやらせずに当事者がやっている、と思う。
さて、僕が大家さんになって早三十年。実は今、恥ずかしながら、かなりの経営難に陥っている。進退の岐路に立たされていると言っても過言ではない。僕の母親が大した資金もないのに大きな借金をして建てた時点で、すでに無理があったのだろうが、それは言い訳にしかならないことはわかっている。 なぜなら今、うちみたいな古いマンションを買いたいと言う人がけっこういるからだ。購入希望者に「やはり投資物件ですか?」と問えば、「いいえ収益物件として買いたい」と言う。
と言うことは、おそらくやり方次第ではそれなりに収益が見込めるのだろう。そう考えると、要は僕には大家としての自覚も才覚も足りなかったのだ。
そして、うちを買いたいと言う人のどの条件を聞いても、売ったところで残債と税金を引けば手元にはほとんど何も残らなくなる。よく世間で不動産は三代続けばなくなると言うが、本当に霞かまぼろしのようにすぅっと消えてしまうのだ。それおかしくないか? そう思って、知り合いの年輩大家さんに愚痴を言った時、そのお爺さんがこう言った。
「あんた、登記してる土地や建物は自分らの物やと思ってるやろ? それ大きな間違い。わしらは国に、固定資産税という家賃を払って借りてるんやで。結局は国の物なんや。いずれ返さなあかん。それだけのことや」
僕はこの言葉を聞いた時、長年悩んでいたナゾが解けたように思った。
さて、随分前置きが長くなってしまったが、やめるべきか、存続するべきか、それを判断する意味で、もう一度、僕が大家さんをするに至った経緯と、これまで大家さんとして体験した印象深い出来事を書いてみたいと思う。はたしてこの物語を書き終えた時点で僕の心はどうなっているだろうか。