表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

絶望の色を知っている 「己を恨んでいい」

 「ミク。お前が裏切るからだ」


 「裏切る?どうしたのゼロくん。そんな突拍子もないこと言って]

 「あっ!ミクが装置を破壊してないから?ごめん!手こずってて!」


 「ミク」


 「…あはは。何を言っても意味はなさそうだね」


 「………ああ。そうさ。私は裏切り者だよ」


 「あっさり認めるんだな」


 「忘れたかい?私は人をよく観察しているんだ。ゼロくん。君の顔は、確信している人間の顔だ。なら、無駄なことはしないさ」


 いつもの柔らかな雰囲気、取り付く島だらけのミクはそこにはおらず、飄々とした、先の見えない深い夜のような、そんな別人がそこにいた。

 

 「どうしてわかったのかな?ヘタはしてないと思うんだけれど」


 「俺が未来から来たからだ」


 「未来?…嘘は言ってなさそうだね」

 「なるほど。つまり、あの日、君から感じた違和感の正体はそれなんだね」

 「なら、私の目的はもうわかっているのかな」  


 「あぁ」

 「ナツヤと死ぬためだ」


 「へぇ。本当に。未来から来たんだね」

 「それで、未来の私は目的を果たせたと考えてもいいのかな?」


 「いいや。失敗した」


 「はは。私は裏切りが下手なんだね」


 「違う。裏切りには成功した」


 「…どういうことかな」


 「ナツヤは死んだ。だがお前は生き残った」


 「彼が私を庇ったということかな」


 「半分正解だ。そして半分間違いでもある」

 「ナツヤはお前を庇った。そして殺された。しかし、お前は殺されずに生かされた」

 「お前を気に入っているやつが『異能』所有者側にいるんだろう。お前は殺されずに生かされて、その者の下に送られることとなった」


 「なるほど。つまり私はその誰かの奴隷になったというわけかな」

 「それで?話はそこでは終わらないだろう?」


 「あぁ。お前はその後、クーデターを起こした。そして失敗し、無惨な状態で殺された」


 「だろうね。それで君は何らかの方法で過去に戻ってきたと。どうやって私の裏切りの中で生き延びたんだい?」


 「勘違いしているようだが、俺の知っている未来では、俺はお前らと共に脱出を目論んでいない」

 「俺が知っている未来は、お前とナツヤの二人だけで脱出しようとした。まあ、その腹心。お前はそうではないのだから、ナツヤの独り相撲だったわけだが」


 「はは。大体読めてきた」

 「となると、君は実は、装置の場所を全ては把握していないんじゃないかい?」


 「そうだ。装置の場所は機密情報中の機密情報。いくら俺が未来から来たと言っても、関わりがなければ把握するには無理がある内容だ」


 「つまり他の2つはブラフ。そしてここだけが本当なのは、私が君の知る未来でここを破壊したからだね」

 「恐らく、私はナっちゃん…ナツヤに3つある装置を1つだけだと偽ったのだろう。ナツヤにこの脱出計画を信じ込ませるためだけに」


 「そして1つだけを無意味に破壊し脱出をはかった結果、《鳥籠》は通常通りに発動し、私たちの計画は私の目論見通りにそこまでは進んだと」

 「そんなところじゃないかな。違うかい?」


 「ああ。全くその通りだ」


 「この話は他の二人も事前に知っていたのかい?そうは見えなかったけれど」


 「いいや、知らなかった」

 「お前に怪しまれる可能性が上がるだけだからな」


 「はは。その判断は正しいよ。君はともかく、他の二人は顔に出やすいからね」


 「それで、他の二人はまだ知らないのなら、ここで俺を殺して作戦を続けるか?」


 「それは…無理だろうね。君を殺した時点でハレはもう使い物にならなくなる。そんな中ではナツヤも作戦に乗らないだろう」

 「それに、君はその可能性も考えて、対策を練っているのだろう?」


 「あぁ。そうだ」


 「はは。すべては私という魚を釣るための作戦で、私は狙い通りに餌に食いついたというわけか」

 「釣られた魚の辿る末路は、まあ、そういうことだろうね」


 「いいや。俺はお前をどうこうするつもりはない」

 「この先に行う本当の脱出作戦において、お前は必要なコマになる」


 「私がそこでも裏切るかもしれないのに?」


 「それはない。お前は裏切らない」

 「ここから逃げたいというその気持ち自体は、偽物ではなく本物だからだ」

 「お前が逃げることを諦めて、死を選んだのは、それが不可能だと察したからなんじゃないか」


 「…」


 「次の作戦は、望みは絶たれるものではない」


 「…なら、その作戦とやらを聞かせてくれるかい」


 「もちろんだ。だが、その前に、お前は話さなきゃいけない相手がいるんじゃないか」


 そう言うと、俺の背後にあった人の気配が、足音を立てながら近づいてくる。


 「ハッ!陰気。己がいることに気がついていやがったか」


 「ナっちゃん…」


 「ミク。テメェは___」


◇◇◇


〜〜〜


 私には色んなモノが見えていた。


 きっと誰も気にしないようなこと。

 その一つ一つが脳裏に刻み込まれていく。


 受け取る情報量の多さ。

 その多さと比例して、人は悩み考え苦しむもの。


 だからこの日常は苦痛でしかなかった。


 洗脳するための教え。

 使い捨てにするための教え。

 反抗させないための教え。


 そう()()()()()()()()()()()()()私は、この先の未来が暗闇でしかないことも知ってしまう。


 だから行動が必要だと感じた。


 かつて旧人類が新人類に行ったように、数さえあれば無能が異能に勝ることもあるのだから。


 きっと、気がついている人がいるはず。

 彼らを率いてジェネシスを乗っ取ればいい。


 だから私は沢山の人たちに声をかけた。


 親しみやすいようにフレンドリーに。

 話しやすいように茶目っ気に。

 打ち明けやすいように優しく。


 __けれども、そんな人はいなかった。


 …はは。私も彼らのように在れていれば、どんなに幸せだっただろうか。


 知らなければ苦しむこともなかったのに。


 そんなときにナツヤが現れた。


◇◇◇


 ナツヤは特別だった。


 彼の持つ能力が常人のそれではないからなのか。


 彼の見ている世界は、他の人の見ている世界とは違っていた。


 「己はジェネシスの在り方を認めねェ」


 その言葉を聞いたとき、初めて自分が一人ではないことを知った。


 確かに、私を友と呼ぶ人は沢山いた。

 けれども、本当の意味で、私と同じ方向に目を向けてくれる人はいなかった。


 だからナツヤは私にとって特別だった。


 彼となら或いは___


 __そんな淡い期待はすぐに打ち砕かれる。


 そう、私自身によって。


 私が私自身の期待を打ち砕く。


 『できるわけがない』


 私が私にそう言い聞かせる。


 『不可能だろう』


 私が私にそう囁く。


 『夢物語だ』


 私が私をそう諦めさせる。


 この程度の戦力では『異能』になんて到底敵わない。


 万が一、クーデターに成功したとして、『異能』を手放した新人類が旧人類に勝てるはずがない。


 なら逃げる?どうやって?


 私は知っている『異能』の《鳥籠》を。


 それにここから出ることができたとして、外の世界で生き永らえることができるだろうか。


 ジェネシスの外は旧人類の世界。


 つまり、敵地だ。


 新人類からも追われるかもしれない。


 なら旧人類に寝返ればいい?


 スパイだと疑われて殺される可能性のほうがよほど大きい。


 考えれば考えるほど待っているのは絶望だ。


 知れば知るほど広がるのは真っ暗な未来だ。


 見えれば見えるほど諦めることが正しく感じる。


 なら、少しでも良いエンディングを私は求める。


 妥協の、落とし所の、終極を。


 ナツヤ。ううん。ナっちゃんと迎える終極を__


〜〜〜


◇◇◇


 「ミク。テメェは__」

 「己を恨んでいい」


 「え…?」


 ナツヤの思わぬ発言に、ミクは戸惑いの声を漏らす。


 「テメェが諦めちまったのは己が理由だ」

 「だからテメェは己を恨め」


 「それは違うよ。私が…ミクが諦めたのは、ミクの責任だよ」


 「あァ。確かに最後に諦めたのはテメェだ。それは否定しねぇ。そしてその姿勢は気に入らねぇ」


 「うん…」


 「だけどよォ、テメェを絶望させた要因に罪がないとは言えねぇ。つまり己だ」

 「テメェがいつどの瞬間から諦めちまったのかは分かんねぇよ。でもな。それはテメェの一番近くにいたのに、テメェに希望を見せられなかったやつが悪りぃんだ」


 「己が『異能』にすら勝る存在であれば、テメェは諦めなかったかもしれねぇ」

 「…あァそうか。己も諦めちまってたのかもしれねぇな。あれだけ抵抗を口にしていたのに、『異能』には勝てねぇって、そう言ったのは己自身だ」

 「だから___」


 ナツヤは片膝を地につける。


 「己は誓う」


 「ミクがどれだけ絶望しても、絶対に諦めさせたりしない。そんな希望の存在になることを」

 「ミクを楽園へと導く。騎士になることを」

 「不可能を可能にする。そんな漢になることを」


 「そして、終極を必ず共にすることを」

 「己は誓う」


 「それって…」


 ミクが溢した言葉を敢えて無視したのか、ナツヤは誓いを続ける。


 「だから、ミクは己を信じろ」

 「己はミクが信じた己を信じる」


 「おい。陰気。テメェが証人になれ」


 「…あぁ、わかった」


 「これは己との誓約だ。ミク、テメェも誓え」


 「…ナっちゃん」


 「なんだ。まだ足りねェか」


 「ううん。十分。十分過ぎるよ」

 「わかった。信じる」

 「誓います。もう、絶対に諦めないから」


 ミクの頬を一筋の涙が伝う。


 「あれ…?ごめん。そんなつもりじゃ」


 ナツヤは立ち上がり、何も言わずにミクを抱き寄せた。


◇◇◇


 「えっと、ごめんなさい。話は大体わかりましたし、驚きとか色々と言いたいことはあるんですけど、自分これ省かれたってことです?」


 「違う」


 「まあ、いいですけど」


 「あ〜ちょっと拗ねてる?もう可愛いなぁハレちゃんは!」


 「こ、こっちにこないでください!」

 「鳥肌が!鳥肌がぁ!」


 「おい陰気。あれ止めなくていいのか?」


 「あれは俺には止められない。何なら騎士さんが止めればいいんじゃないか。不可能を可能にだっけか」


 「殺されてェか?」


 「冗談だ」

 「おいミク。そろそろやめてやってくれ。話が進まない」


 「ん〜?あー、俺の女に手を出すな!って感じ?嫉妬かなー?ここゼロくんの部屋だもんね!あはは!ごめんね!やめるやめる〜」


 「えっと、あの、その、自分はゼロさんならいつでもウェルカムと言いますか…」


 「そうじゃない」


 少しの溜息のあと、俺はわざとらしく咳払いをして場を落ち着かせる。


 「まあいい。ひとまずこれで悩みのタネもなくなったことだ」


 「あー、ごめんね。これからはちゃんと協力するから…」


 「…明日からは、練習でもなければブラフでもない、本当の脱出作戦の準備に入る」

 「早速だが、その作戦会議を今から始める」


◇◇◇


 「それでゼロくん。どうしてミクだけ連れて行くのかな?」


 「ナツヤは喧嘩っ早い。ハレは普段は物静かだが、これから会う人物のことを考えるとファーストコンタクトのメンバーには相応しくない」

 「この先はスクール施設の中でも『異能』を持つ生活者しかいない。トラブルの火種は事前に避けたいからな」


 「ふーん。ハレちゃんが駄目ってことは、女の子なんだね?まったく。ゼロくん透かした顔してる割にはやっぱり女の子好きなんだね〜?」


 「…お前も置いてくるべきだったかもしれない」


 「あはは。冗談だよ。やるときはやるよ。メリハリのある女だからね。ゼロくんならわかるよね?」


 「こういった表現の仕方は違うかもしれないが。お前は、もう大丈夫だと思っていいんだな」


 「…うん。ごめんね」


 「いや、それよりもお前のその態度は、無理してるんじゃないかってことだ」


 「あー。そういうことね。ゼロくんってば結構優しかったり?」

 「それも大丈夫。確かに、今の私は昔の私とは違う。最初は演技だったと思う。でもね」

 「このミクも、ゼロくんの前で見せた私も、今はもう、どっちも本当のミクだよ」

 「だから無理してるとかはないよ」


 「そうか。ならいい」

 「お前を連れてきた理由は、顔合わせを円滑に行うため。そしてお前のその観察眼が欲しいからだ」

 「それに、言うまでもなく今回のコンタクトはお前の友人を通してのものだ。理由はその3つだ」


 「うん。わかったよ。頑張るね」


◇◇◇


 鼓動が鳴り止まない。


 この脱出作戦は何度も白紙に戻した計画だった。


 そう。

 この脱出作戦には、とある避けて通れぬ要素があるからだ。


 そしてそれは俺が最もこの世界で恐れること。 


 その要素の扉が、今、開こうとしている。


 本当はこの要素を含まない作戦を取りたかった。


 しかし、この要素を含まない作戦に、成功の現実味はなかった。


 この要素が、《鳥籠》を突破するためには必要不可欠であるという結論は、いつまで経っても否定することができなかった。


 今からでも考え直すべきなのではないか。


 何かまだ気がついていない方法があるのではないか。


 そんな淡い期待を持ってしまうほどに、俺は追い詰められている。


 「えっと待ち合わせ場所はここだったかな?」

 「お相手さんはまだ来てないみたいだけど」


 「…」


 「なんだか、ゼロくん緊張してる?」


 「ああ、すまない。気にしないでくれ…とは言えないな。何かあればお前に頼る」


 「うん。わかった。ミクに任せて!」


 彼女なりの意思表示なのか、変なガッツポーズをしながら返事をするミクに、少しの心強さを感じる。


 しかし、心臓の鳴り響くスピードは落ちる気配がない。


 ___これから会うことになる人物。


 かつて最も再会を望んだ人物であり


 そして今、最も出逢うことを避けたい人物だ。


 そう、彼女こそが、俺が___


 ()()()()()()()だからだ。


 「ごめんなさい。少し、遅かったかしら」


 「私に会いたいなんて言う人は、珍しいことだったから」


 「えっと、初めましてでいいのよね?」


 「私は『1E000007』。あなた達は?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ