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死は誓いの先に 「正直、信じられないな」

 『自分は『2E125080』と言います。君のことを愛して、愛して、愛して…絶対に死なせず、必ず自分のものにしたいほど愛している女です』


 『断頭台に大罪人として立ち、そこで終わっていたはずの君が、今、ここにいることとなった原因を作った犯人です』


 狂った眼差しをこちらに向ける女は、迷いなくスラスラとその言葉を口にした。


 「…すまない。少し混乱しているようだ。いくつか確認させてほしい」


 「はい。いいですよ」


 「まず、俺はお前を知らないはずだ。なのに、お前はなぜ、俺を知っている?」


 すると『2E125080』は唇を少し噛んだ後、こう答えた。


 「自分は、ゼロさん、君に救われたんです。君にとってそれは救いの手でも何でもなかったのかもしれないですが、それでも自分にとっては、確かな救いだったんです」


 「救った?俺が、お前を?一体いつの話だ」


 「『試験』が行われる少し前の時期に、不安がっていた自分にゼロさんが話しかけてくれたんです。それが自分にとって救いになりました」


 「…そうか。だがすまない。俺は覚えていない」


 「いいですよ。自分にとっては大切な思い出ですが、ゼロさんにとってはそうではないことなんて、知っていましたから」


 「こんな言い方は正しくないだろうが、お前は、たったそれだけのことで俺を愛していると?」


 「はい」


 何の躊躇いもないそのハッキリとした物言いに、俺は圧倒される。


 「わかった。ひとまずそれは置いておこう。次が大事だ」

 「お前は、いや、お前()『未来から来た』ということでいいのか?」


 「そうですね。『自分がゼロさんを連れてきた』が正しいですが」


 「一体どうやって?」


 考えられる可能性は『異能』だろうが、この女のコードは『2E125080』。

 つまり、『異能』はない。


 『異能』を持つ第三者が干渉したということか?


 「信じられないかもしれませんが、自分には『異能』が後天的に芽生えるんです。その『異能』の力によって、です」


 後天的な『異能』の取得?

 聞いたことがない。


 「正直、信じられないな」


 「そう、ですよね。ちなみに今は『異能』が芽生える以前に戻ってきているので、その力はありません。なので証明もできません」


 「…。いや、状況証拠から考えて、その可能性、或いはそれに類似した出来事の上で、この状況(時間遡行)が成り立っているのは間違いないだろう」


 少なくとも、俺の辿る運命を知っている以上、『2E125080』が未来から来たということは疑いようのない事実。


 「俺が死ねない理由は?」


 「それについては、最初にも言いましたが、まあそれも自分の『異能』とでも解釈していただければ。厳密には違いますが」


 「…嘘は、ついていなさそうだな」


 『2E125080』は嘘をついていない。

 その結論に至った理由は、彼女の目だ。

 彼女のあの目は、()()()を迎えてからの俺の目と一緒だ。

 あれは、嘘を付く余裕すら失った目。


 いや、きっと細かな部分では多少のブラフも含まれているのだろう。

 だが、それでも大筋の上で相手を騙すほどの余裕はないだろうと俺は考えた


◇◇◇


 「話を信じよう。その上で問う。何のためにこんなことをした?お前の目的は?」


 「はい。それは、私とスクール、そしてジェネシスから逃げ出して、外の世界で共に生きてほしいから、です」


 「…断る。すまないがそれは諦めてくれ」


 「…」


 「俺はもう終わらせたいんだ。この人生を」


 「…」


 「だから教えてくれ。俺はどうやれば死ねるんだ」


 「…残念です」


 「?」


 「とても残念です。本当はこんなやり方はしたくありませんでしたが、仕方ないですね」


 「どういうことだ」


 「ゼロさん。君は勘違いしています。気が付きませんか。既に君に選択肢がないことを」

 「ゼロさんが自分のお願いを聞いてくれずにこの場を去っても、勿論君は死ねませんし、仮に何らかの方法で死ねたとしても、いずれ自分には再びこの状況を作ることができる『異能』が芽生えるんですよ」

 「何度でも、何度でも、君がYESと答えるまで、どれだけの時間をかけようとも、()を繰り返します」


 「いいですか。ゼロさん。君は自分から逃げられないんです」

 「こんな脅すようなやり方はしたくありませんでしたが…どうかゼロさん。従ってください」

 「お願いします。自分と逃げてください」


 「君は何も報われずに死んだんですよ。新人類のためにたくさん頑張ったのに、最後は大勢の前で見世物として殺されたんです」

 「知ってますか。君は死んだあとも、その首を永遠に晒し続けられていたんですよ」

 「自分は、そんな終わり方を認めません。それは、君には相応しくないから」


 「自分と逃げてくれれば、自分は君の奴隷にだってなんだってなります」

 「自分は、外の世界のことを沢山知っています。生き方を知っています」

 「自分は、色んな形でゼロさんに貢献できます。美味しいご飯を作れます。お金を稼いでこれます。君が不自由な思いをしないように、身の回りのことを全てやってあげられます。ゼロさんが望むのなら、えっちなことだって、いつだろうと、どこだろうと、いくらでもしてあげます」


 「そうだゼロさん。えっちなことです。自分は『試験』に不合格だったので、ずっと子供を産み続ける生活を送っていました」

 「言うまでもなく、産むために、そうしたことを沢山してきました。褒められるんです。自分と行為をした男の人はいつも褒めてくれましたよ。自分の身体はそうしたことに本当に()()()()()って」

 「身体だけじゃないです。何年も何年もそうした生活をしていましたから、他の普通の女の人じゃできないような、色んなことをできるんですよ。みんな満足していました」

 「それにゼロさん。もし君が、そうした経験豊富な人との行為を嫌っていたとしても安心してください。自分のこの身体は、今のこの身体は、誰の手にもまだ触れられていない、純粋無垢なままなんですよ」

 「その上で、普通の無垢な娘であれば絶対に出来ないような色んなことができて、そうしたことに向いている身体つきになることが保証されている。あは。自分で言っててなんですが、こんなにも男の人にとって都合の良い女いませんよ?」


 「でも、ゼロさん。君になら、そんな都合のいい女として扱われても、自分は心の底から嬉しいんです。だって、愛しているから」


 長々と、勢いよく、まくしたてる。

 呼吸すらも忘れたように、『2E125080』は自身の想いを爆発させる。


 狂気。まさに狂気。

 俺の前にいるこの女は、壊れている。


 「わかった。わかったから一度落ち着け」


 「はい」


 俺がそう指示したその瞬間に、スン、と先程までの荒波ぶりは消失し静かになる。


 本当に『2E125080』は___


 「お前の考えはよくわかった。少なくとも、俺がお前から逃げられないということは」


 「それはよかったです。では」


 「ああ。約束する。お前と逃げる」


 「本当ですか!?嘘じゃないですよね!?本当に!?」


 「本当だ。約束する。俺は必ずお前と逃げる」


 「…自分、今、幸せです。願いが叶うんですね。漸く、よかった。本当に、嬉しい…」


 『2E125080』は涙を流し始める。


 「ああ。誓おう」


 俺は誓う。『2E125080』と逃げることを。

 そして誓う。


 『2E125080』と共に過ごす中で、死ぬ方法を必ず突き詰め、『異能』を使う前に__




 __この女を殺して、俺は終極を迎えると。


◇◇◇


 「泣き止んだか?」


 「はい。落ち着いてきました」 


 目を真っ赤にした『2E125080』は答える。


 「そうか。では早速だが、スクールから、ジェネシスから逃げるための作戦について話し合いたいと思う。時間は問題ないか?」


 「はい。大丈夫です」


 「ならいい。だが、ここでは誰かに聞かれる可能性がある。俺の部屋で続きを話そう」


 俺の部屋は施設の端、というよりも他の部屋とは少し離れた位置にあり、その作りからして部屋の前を通る人間は俺を除き基本的に誰もいない。


 なので先程までの会話も、その詳細までは誰も聞き取れてはいないとは思うが、この先の話は万が一であっても流出の可能性は事前に回避しておきたい。


 「あは。あー、なるほど。そういうことですか?ゼロさんもやっぱり男の人なんですね。わかりました。もちろんいいですよ。ただごめんなさい。今の身体では初めてなので…その、痛がったりしたらごめんなさい。ただ嫌というわけでは全く無いので。ゼロさんが楽しめるように頑張ります」


 「…違うから安心してくれ。話をするだけだ」


 『2E125080』は、当初のミステリアスな雰囲気から変わったというか、どこか抜けているような表情で、抜けたような言葉を口にする。

 …もしかすると、こちらが本当の彼女なのかもしれない。 


 そんなことを思っているときだった。

 ()()()が聞こえたのは。


 「ハハッ!なんだテメェら。面白そうな話してんじゃねぇか」

 「悪くねェ。己もその話。混ぜてくれよ」

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