悪魔の処刑 「最期の言葉を聞いてやろう」
曇った空の下。
大衆はあるものに釘付けになっていた。
飛び交うのは罵声に歓声に様々だ。
だが、誰も彼もが勝ち誇った顔をしている。
『悪魔の処刑』
大衆はそう銘打たれた光景を、今か今かと待ち望んでいる。
彼らの目線の先には断頭台。
そしてそこに登る一人の大罪人。
若い男。その他見た目に特筆するものはない。
本当にどこにでもいるような風貌の男だ。
たがしかし、彼の経歴は『悪魔』と呼ばれるに値する。子供でも老人でも女でも男でも、幾千幾万もの数、人を殺してきたのだから。
『悪魔』の処刑に先立ち、断頭台の前に設置されたステージに、人々の代表となる者が上がった。
そして少しばかりの挨拶の後、声高らかに宣言する。
「我々を襲った『魔物』による悲劇は、『魔物』共の最後の希望の死をもってして、今日この日!ついに!終結する!」
歓喜の轟が鳴り響く。
そして断頭台へと振り向き、代表者が『悪魔』に告げる。
「最期の言葉を聞いてやろう」
『悪魔』はゆっくりと口を開く。
「どうして僕を拷問にかけず、楽に殺すのかな?」
代表者はその問いを聞き、見下した表情で答える。
「拷問?そうだな。本当はそうしてやりたいところだが、我々はお前たち『魔物』共とは違う。血の通った愛ある心を持った人間だからだ。たとえお前のような『悪魔』であろうが、死の叫びを聞けば寝覚めを悪くする者もいるだろう」
『悪魔』は代表者の言葉を聞き届け、人生最後の言葉を口にした。
「そうだね。まったく、そのとおりだと思うよ」
『悪魔』が噛みしめるように発したその言葉から数分後、大衆はこの日一番の歓声をあげた。