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旅のサプライズ




 フレディ王太子御一行様が帰国をして、王宮は静かになった。


 ゼット商会の面々は共通語を話せるのにも関わらず、ムニエ語しか話せないと謀った罪で、怒ったランドリア宰相から鞭打ちの刑を言い渡された。


 彼等は、尻を押さえながらガルト王国に帰国して行ったと言う。



 ロイド・バッセン伯爵と手を組んで、ドルーア王国とマクセント王国の両国を騙そうとした事もプラスされての刑だった。


 これくらいの刑で済んだのは、やはり鉱山の採掘事業にはゼット商会が必要だからで。



 色んな事があったが……

 そんな事も含めて、当初の交渉よりはかなりお安く契約が出来た事は大きかった。


 これもソアラがいたからで。


 数字に滅法強い王太子妃となる彼女に、今までポンコツ政権と揶揄されていたが、これからの自分達の政権の行く末は明るいと期待を寄せるのだった。



「 もう、我々をポンコツ政権とは言わせない 」

 ルシオの御代には、王妃の実家の後ろ楯が無いと不安視していた彼等の後ろ楯に、ソアラがなったのだった。



 王宮が静かになると、ソアラのお妃教育が再開された。


 そして……

 お妃教育の合間を縫って、ソアラは財務部の調査を行う事にした。


 元々は王族の使用するお金が無くなって来ている事の調査をする為に、ソアラが王族のお金を管理する財務部に呼ばれたのだ。


 本分を全うする事が、自分の与えられた王太子妃としての役割なのだとソアラは思っているのだった。



 調査により『 ワイアット 』と言う名前が上がって来た事で、カールが調査をする事になってはいたが。


 何せ鉱山の採掘作業が始まった事で、ノース政権はかなり忙しくなっていた。


 財務部のトンチンカンとアンポンタンの6人も、毎日会議に出ていて。

 本来の仕事との両方で手一杯になってしまっていた。



 だったら自分が引き続き調査をするしかないと、ソアラはこのワイアットの正体を調べる事にしたのだ。


 そう言えば……

 ワイアットと言う人物を知っているかと聞く為に、私はシリウス様に会いに行ったのだわ。


 あの後、色々と大変な事があったから、すっかり忘れてしまっていたが。



 ソアラは単独で調べていたが……


 その『ワイアット』と言う名前がある人物の口から出て来た。


 取り調べ中のロイド・バッセン伯爵からだ。


 彼は司法取引として、大事な情報を与える事で、自分の罪を軽くして貰うと言う取引をランドリアに持ち掛けた。



「 王族の金が無くなって来ているだろ? それにはある人物が関わっている。それはワイアットと言う名で…… 」


 ランドリアはバッセンからある事を聞き出した。




 ***




 そんな中……

 ルシオとソアラは婚約の報告をする為に、前王妃であるビクトリア王太后のいる離宮への訪問が決まった。


 離宮は王宮のある王都から馬車で一週間程掛かる距離にある。



 ドルーア王国では国王が崩御すると、政権が新王妃の実家の一族が担うと言う慣習があった事から、残された前王妃は離宮に移る事になる。


 その離宮は、四家の公爵家の領地に程近い場所にある、王家の所有する土地にそれぞれ建てられている。



 ウエスト家を実家に持つビクトリアは、ウエスト家に近い離宮に住んでいるのである。


 残りの余生を実家の領地に近い場所で過ごす事で、彼女が寂しく無いようにと言う配慮からであった。



 ビクトリアの子供はサイラスだけであった。


 王太子妃時代の彼女は流産や死産が続き、王太子であった前国王に側室を娶る事を思案され始めた頃に、ビクトリアは妊娠した。


 その子は奇跡的に育ったが……

 ビクトリアの年齢的な事もあり、産まれた子が王女ならば王太子に側室を娶る事が決められていた。



 そして……

 生まれたのは待望の王子だった。


 それが現国王サイラスだ。

 ビクトリアは、それはもう一粒種のサイラスを溺愛していたと言う。


 エリザベスが夜這いをした事に激怒し、離宮に行く寸前まで嫁イビリをしていたのもこの溺愛があっての事だ。



 しかし……

 エリザベスが初めての妊娠で、第1王子であるルシオを産んだ事だけは嫁を賞賛した。


 ルシオが見目麗しい王子であった事もあって。


 

 そんなビクトリア王太后が、自分を受け入れてくれるとは当然ながらソアラは思えなかった。


 周りの者も皆そう思っていた。


 決められた婚約者候補であったエリザベスさえ、あれ程嫌ったのだ。

 エリザベスのサイラスへの夜這い事件があったにせよ。



 ソアラは伯爵令嬢。

 それも……

 領地を持たず、代々文官の仕事だけをして来たと言う家格の低い令嬢だ。


 特に様相が優れた訳でも無く、社交界にも出た事が無いからか、ダンスさえまともに踊れない令嬢。



 そんな令嬢がビクトリア王太后のお眼鏡に叶う筈が無いのだと。



「 何を言われてもスルーすれば良いわ 」

 ビクトリア王太后への婚約の報告をしに行く事が事が決まったその日の午後に、エリザベスがソアラに助言をした。


 お妃教育と称したお茶会で。



「 あの人は……言葉を選ばないわ 」

 あの人とはビクトリア王太后の事だ。


「 陛下と王太子を異常な程に溺愛しているから、貴女に攻撃して来る事は間違いないわ。 」

 兎に角、スルーしてやり過ごしなさいと言って。


「 はい。頑張ります 」

 ソアラは胸に両手を当てて頷いた。



 エリザベスは思っていた。

 ソアラにはスルーする力が備わっていると。


 貴族令嬢には珍しい事だが。


 その点でも……

 ソアラは妃として相応しいと思っている所である。



 エリザベスはカップの紅茶を音を立てずに飲み、音も立てずにソーサーの上に置いた。


 その所為はとても美しい。


 彼女は産まれた時から王妃になる為の教育をされて来た公爵令嬢。

 アメリアやリリアベルと同じで。



 王妃陛下は私にとても優しくしてくれる。


 私を選んだ王妃陛下が……

 また、王太后陛下に苦言を言われないように頑張らなければならない。


 ソアラは気合いを入れるのだった。




 ***




 そうして様々な調整を行い、1週間後に20日程の日程でビクトリア王太后の住む離宮へ出発する事になった。


 婚約の報告をしに行くと決まってからの、かなり急な出発となった。



 王太子の遠方への公務とかでの移動ならば、普通ならば1ヶ月は準備期間を要するのだが。


 ましてや今回はソアラも同行すると言うのに。



 慌ただしく予定の確認や準備に追われていると、あっと言う間に出立の日になった。


 早朝での出立である事から、ソアラは昨日から王宮にある自分の部屋に泊まっていた。



 泊まる度に、毎回サブリナ、マチルダ、ドロシー達が来てくれた。


 そして……

 今回の旅も彼女達が、ソアラの侍女として同行する事になっていた。


 ソアラはそれがとても申し訳無く思っていて。

 彼女達は王妃の侍女なのだから。



 荷物を馬車に積み終え……

 いよいよ出立すると言う連絡を受けて、ルシオがソアラの部屋まで迎えにやって来た。


 今日からずっと一緒だと思うと何だか気恥ずかしい。


 ビクトリア王太后の事を考えると不安でしか無いが、それでも好きな(殿下)とずっと一緒に過ごせるのだ。


 心がどうしても弾んでしまう。



 それはルシオも同じだったみたいで、ソアラが部屋のドアを開けるとその美しい顔が破顔していた。


 とても嬉しそうな顔をして。


「 今日からずっと一緒だね 」

 ソアラの掌を、ルシオの大きな両掌が包むように持って、指先をニギニギとして。



「 君にサプライズを用意しているんだ 」

「 サプライズ? 」

 きっと君が喜ぶ事だよと言って、ルシオは嬉しそうな顔をした。


「 私が喜ぶ事って? 」

 良いから良いからと言って、ルシオはソアラと手を繋いで歩き出した。



 2人の後ろをソアラの身の回りの荷物を持った侍女のサブリナ達が続く。


 ソアラが彼女達を見やれば彼女達はニヤニヤとしていて。

 どうやらそのサプライズを知っているようだ。



 楽しみだわ。

 何のサプライズかしら?


 ソアラもウキウキとするのだった。



 宮殿の正面玄関には何台かの馬車が停まっていて。


 その周りには沢山の騎士達が跪き、侍従や侍女達が頭を垂れる中をルシオとソアラは歩いて行く。


 カールも勿論いる。



 その時……

 一人の令嬢がソアラの元に駆け寄って来た。



「 ソアラ! わたくし、貴女の侍女になったわ! 」



 ルシオと手を繋いで歩いていたソアラに、抱き付いて来たのは……


 ルーナだった。



 彼女はソアラに抱き付いた時に体制を崩し、横にいるルシオの腕の中にその小さな身体が収まった。



 気が付くと……

 ソアラは地面に尻餅を付いていた。














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― 新着の感想 ―
[気になる点] お願いです、もうルーナに引っ掻き回されるのは 勘弁してください。 せっかくソアラが頑張ってここまできたのに…
[一言] ポンコツ王子~( ̄。 ̄;)
[一言] えええええええ。 またコイツですか?? どう考えてもルーナが助けになるとは到底…。 一体ソアラが何をしたと言うのやら。 不憫すぎますよ〜!
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