表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/140

新聞沙汰

 




 ルシオが懸念した通りに、2日後の新聞にはクリスマスパーティーのあの騒ぎの事が載っていた。



『 王太子殿下が元婚約者候補の公爵令嬢に窘められる。新しい令嬢と婚約発表したばかりだと言うのに 』


『 流石はサウス公爵令嬢!王太子殿下のスキャンダラスな行いを救った 』


『 サウス公爵令嬢は美しいばかりでは無く、理知的でその凛とした佇まいは世界一 』


『 アメリア公爵令嬢には世界中から釣書が殺到!彼女を失う事は国の損失になるかも知れない 』



 最早アメリア自慢。

 アメリア絶賛の記事のオンパレード。


「 これは絶対にサウス家がリークしたに違いない 」

 新聞を読み終えたカールが、イラついた顔をして新聞をバサリと文机の上に投げ置いた。


 あのサウス公爵夫人ならやるだろうと。


 気の優しいカールの母親であるノース公爵夫人は、王妃エリザベスと3家の公爵夫人達の間に立って苦労をしているのだ。



 しかし……

 流石に、アメリアがシンシア王女を咎めた事は記事にはなっていなかった。


 シンシア王女はまだ15歳。

 成人になっていない事を考慮したのだろう。



「 まあ、何にしても殿下の初スキャンダルですね 」

 カールが嬉しそうな顔をした。


 婚約者候補が2人もいたと言うのに、何のゴシップも流れない殿下の今までが優等生過ぎたのだと言って。


 婚約者候補が2人いたからこそ、人一倍気を付けて来たのだが。



「 どうします?殿下のダメージ大ですね 」

 ルシオの国民からの人気の高さは、今までがノースキャンダルだったからで。


 理想の王子様だったからこそ女性達からの人気は絶大だったのだ。



 アメリアとリリアベルとの破談もかなり批判をされたと言うのに、ソアラとの婚約発表をしたとたんに他の令嬢とのスキャンダルを起こしてしまったのだ。


 国民から嫌悪されてしまうのは当然で。



 今の段階ではアメリアが称賛される記事ばかりで、スキャンダルの相手であるルーナの事は記載されてはいない。


 これはあの時にアメリアが叱責して、ソアラを探していたと言う()()を周りにいる皆に知らしめてくれたからで。


 夜に令嬢と2人だけで庭園に行くと言う失態は、どんなにスキャンダラスな事だったのかを考えたら……

 ルシオは改めてアメリアに感謝するのだった。



 今度会ったら改めて詫びと礼を伝えようと思っていて。


 因みに……

 アメリアが領地へ行った事をルシオが知るのは、もっと先の事である。



「 噂が大きくならずに、終息してくれたら良いのですがね 」

「 暫くはこの話で持ちきりだろうな 」


 1度新聞に載れば……

 新しい事件か何かが無い限りは、尾びれ背びれをつけて国民達の噂は広がって行く。


 国民は王族のスキャンダルが何よりも大好物なのだから。



「 ソアラ嬢も新聞を見てますよね? 」

「 ソアラは分かってくれている。だからそれで良い 」

 そうは思ってはいるのだが……

 やはり気は重かった。



 ルーナの婚約者である騎士ブライアンには、その夜の内に呼び出して詳しく説明した。


 勿論、彼は理解してくれて。


()()()を心配しての事だと言う事は分かっています 」

 ……と言って、ブライアンは頭を下げた。



 誰にでも優しくフレンドリーなルーナは、何時でも周りが見えなくなる程に、一生懸命なのだと惚気られもして。


 そんなブライアンを見て……

 ルシオは先ずはホッと胸を撫で下ろすのだった。


 ソアラを呼び捨てにしたのは気に食わないが。



 そう。

 アメリアはルーナを()()男爵令嬢と同じだと言って叱責したが。


 ルーナはソアラの幼馴染みで親友なのだから、男爵令嬢と同じな訳がない。


 確かにボディタッチが多いような気はするが。

 それはブライアンも言っていた事で。


 誰に対してもフレンドリーな彼女は、気立ても良くて気配り上手な令嬢なのである。



 入内したソアラの事を何時も心配していて。

 フローレン家の事も気遣ってくれている。


 慣れない王宮暮らしをしているソアラにとって、彼女といる事が癒しになるだろうとルシオは考えていて。


 幼い頃から仕事場までずっと一緒にいる程の仲なのだからと。




 ***




 ルシオが朝起きると、何時もサイドテーブルの上には新聞が置いてある。

 朝の支度を終えて食事をしながら新聞に目を通すのがルシオの日課だ。


 しかし……

 最近は、朝食前にソアラと散歩をしていたからか、この日も早朝に目が覚めた。


 もう、すっかりソアラのペースだなと思いながら、朝食前に新聞を手に取った。

 まだ侍女達が朝食を運んで来るには早い時間だ。



 暫くは自分の事が新聞を賑わすだろうと思っていて。

 もしかしたら新たな取材で、あの時庭園に一緒に行ったルーナの事も書かれているかも知れないと、少し胸がざわざわした。


 婚約者の友達がスキャンダルの相手だなんて……

 国民が飛び付く案件だ。



 しかし……

 新聞の見出しは予想を反したものだった。


『 未来の王太子妃は倹約家 』


『 王室御用達店で値切る王太子殿下の婚約者 』


『 未来の王太子妃ソアラ・フローレン伯爵令嬢は庶民感覚をもった令嬢 』



 これは一体どう言う事だ?


 その後……

 ルシオが執務室に行くと、新聞を読んでいたカールが肩を揺らして笑っていた。


「 あの格式高い王室御用達店で値切るなんて 」

 ソアラ嬢は何時も飛び抜けてますねと言って。


 本当に……

 彼女は色々とやらかしてくれる。

 本当に面白い。



「 ソアラは……昨日は帰って直ぐに買い物に行ったんだ 」

 欲しいものがあれば、僕がいくらでも連れて行って買ってあげるのに。


 ルシオがそう呟くとカールが頭を横に振る。



「 ソアラ嬢は明日の顔合わせの為の、()()()()()を買いに行ったのですよ 」

 昨日帰宅する前に、働いた分の給金を請求して来ましたからねと言って。


 いつの間にソアラとそんな話をしたのだとルシオは眉を顰めた。



「 ソアラは期待以上の仕事をしてくれた。沢山渡したか? 」

「 大丈夫ですよ。ボーナスとしてはずんでおきましたから 」

 なのに値切るとはと言ってカールはまた笑い出した。


 ソアラが楽しいのはルシオだけではないらしい。


 ソアラを深く知る事で、彼女の人となりには皆が惹かれて行くのだった。



「 これは吉と出るか凶と出るか…… 」

 ルシオの言葉にカールも頷いた。


 貴族としては平民の商人相手に値切る事は恥ずべき行為だ。

 きっとソアラに批判が集まるだろう。



 しかし……

 この新聞の書き方には悪意が無い。

 寧ろ喜んでいるように感じる。


 国民の大半は平民だ。

 平民の上に貴族がいてその上に王族がいる。

 国を支えているのは多くの平民達。


 その国民の支持を得られるかも知れない。



 ルシオはソアラの事が書かれている新聞を胸に抱き締めた。


 本当に……

 何をしても愛しい。




 ***




 ソアラは自分の事が書かれている新聞をグシャグシャと握り潰した。


 何故昨日の事が新聞に載ったの?



 あの店にたまたま記者がいたのかしら?

 それとも……

 店のあの若いスタッフがリークしたとか?

 私がぼったくりだと言っから?


 その腹いせに……

 王太子殿下の婚約者が値切って来よったと、新聞社に私を売ったんだわ。


 あいつらめ~!!



 いや……

 もしかしてシリウス様?

 彼はゲラゲラ笑っていた。

 王太子殿下の婚約者は恥知らずだとリークした?


 全女性を惑わす様な、あんな甘ったるい顔をしてるくせに何とチンケな男なの!?



 いや、まてよ。

 あの怪しそうな女騎士みたいな令嬢が……

 実は記者で、その記者が女装していたとか。


 座っていても彼女の背は高そうだった。

 ガタイも良くて……

 女騎士と言うよりも彼が男だと考える方が自然だわ。


 王太子殿下の婚約者が、商品を値切る場面に出会したのならばそれを記事にするのは当然だろう。



 ソアラは……

 自分の立場を知らなければならないと、ルシオが言った事の意味を噛み締めた。


 普通の伯爵令嬢が値切ったとて、新聞には載らないだろうと。

 ましてやこんな一面に。


 私は……

 注目される存在になった。


 もう、普通では無くなったのだわ。



 そして……

 明日は王族とフローレン家の初顔合わせの日。


 きっと皆も読んでる筈。

 それこそ婚約者として相応しく無いと言われてしまう。

 元々相応しく無いと言うのに。


 特にシンシア王女殿下は私の事を嫌っているのだから、何を言われるのかと思ったら気が重かった。



「 やっぱり……お金が足りなかったのね 」

「 あんな店は値段を書いてないからな 」

「 俺は、恥ずかしくて学園に行けない 」

 ソアラよりも早く新聞を見た家族はそう言って悲しそうな顔をした。


 あの店はぼったくりの店だから、言い値では買いたく無かったのだとはとても言えなかった。


 これはある意味極秘調査の一環なのだから。


「 ご……ご免なさい 」



 因みに……

 トンプソン達フローレン家の使用人達は荷造りを止めた。

 もしかしたら引っ越しは無くなるかも知れないと、顔を付き合わせてヒソヒソと話している。



 永遠に次の日が来ないようにと願うフローレン家の面々だったが。

 そんな時は早く時間が進むもので。

 あっと言う間に翌日になった。

 


「 どうかご武運を…… 」

 4人は、沈んだ使用人達に静かに見送られながら、王宮から迎えに来た馬車に乗った。


 フローレン夫婦とイアンは王室御用達店で買った衣装を着て。



 でも……

 決してソアラの値切りで買ったものでは無いのだ。

 結局は、あの時店に居合わせたシリウスの口利きで安くなっただけで。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ