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広げられた扇子

 




「 シンシア王女殿下は()()()が過ぎましたね 」


 アメリアが言った言葉にシンシアの顔がどんどんと赤くなって行く。



 それは辛辣な言葉だった。


 皆が一斉に扇子を広げて口元を隠した。

 15歳のシンシアもその言葉の意味は理解出来た。


 ()()()()だと言う意味と、()()()()()()()()と言う両方の意味があるからで。

 


 アメリアは目を細めてシンシアを見た。

 シンシアは口を一文字結び、真っ赤な顔をして立ち尽くしていて。


 どちらが立場が上なのかが分からない。


 アメリアは22歳の大人で……

 シンシアは15歳の子供だと言う事が、対峙している2人から感じ取れる。


 要は威厳があるのはアメリアの方なのだ。



「 あら?シンシア王女殿下、もう子供の時間は終わりのようですね 」

 アメリアが柱時計を見やると同時に、シンシアの侍女がやって来るのが見えた。



「 王妃陛下から王女様をお連れするように申し使って参りました 」

 アメリアの言った通りに侍女達はシンシアを迎えに来たのだ。


 シンシアは慌てて離れた場所にいるエリザベス見た。


 広げられた扇子で目から下は見えないが。

 凄い威圧感が漂って来る。



 時間は夜の8時を過ぎていた。

 本来ならば男女共に16歳までは夜会には出られない規則。


 なので……

 シンシアと同い年であるソアラの弟のイアンはお留守番をしている。



 身内のパーティーだからと特別に参加させて貰えたのだが、流石に夜は8時までが限度だ。


 エリザベスに言われたら退室するしかない。

 シンシアは侍女達に連れられて王族専用扉から退室した。



 アメリアお姉様はどうしてわたくしにあんな事を言ったの?


 お姉様はソアラ・フローレン嬢が憎くは無いの?

 お兄様を取られたのに。

 悔しくは無いの?


 それに……

 リリアベルお姉様も何故何も言ってくれないの?

 ずっと私と仲良しだったのに。


 ルーナだって……

 フローレン伯爵令嬢の事は庇ったのに。



 そもそもシンシアはアメリアがチョッピリ苦手だった。


 冷たいイメージのままに年齢差もある事から、どうしても近寄りがたい存在だった。

 特にルシオといる時は。

 何だか邪魔しちゃいけないような感じがして。


 その点、5歳違いのリリアベルは優しかった。

 ルシオと一緒にいる所に遭遇しても、気軽に声を掛けてくれたりして、会えば妹みたいに接してくれていたのだから。



 涙を拭きながらトボトボと歩いていて退室して行くシンシアはやはりまだ子供だ。


 それでも彼女は王女。

 そんな彼女を嗜める事が出来る事が凄いのである。


 会場にいる皆が思った。

 アメリアこそ王太子妃に相応しい令嬢だと。


 それも……

 不敬にならない言葉を選び、たった一言で嗜めたのだ。



 生まれ落ちた時から、王子の婚約者候補として存在して来た我が国の最高峰の公爵令嬢が彼女なのである。

 その威風堂々とした佇まい。


 この令嬢こそがドルーア王国の王妃の器。


 ……だった筈なのに。


 王女に頭を下げて謝罪していたソアラをチラリと見ながら、皆は心底残念に思うのだった。


 これは国の大きな損失なのかも知れないと。



 鬼の様な形相をしてシンシアを睨み付けているエリザベスの後ろでは、3人の公爵夫人達が扇子で顔半分を隠して見ていた。


 ヒソヒソと話す声がエリザベスに聞こえて来る。



 公爵夫人と言っても、本当に公爵家の血を引いているのはアメリアの母親であるナタリーただ1人。


 ナタリーは姉妹しかいなかった事から、王太子妃争いに破れた彼女は婿養子を迎えたと言う。


 そして……

 公爵夫人の1人はランドリアの夫人なのだが、他の2人の夫人はナタリーの学園時代からの腰巾着だった令嬢達。


 王太子妃になった事で嫁姑問題が勃発した事から、そこには手が回らなかった事をエリザベスは悔やむのだった。


 因みに……

 このランドリア夫人は、エリザベスが自ら選んだ令嬢なのでとても大人しい夫人。

 この場でも彼女はとても静かだ。


 この様にして貴族の結婚は大概が政略結婚だ。

 高位貴族になればなる程に。

 それはどの世代も変わらない事だった。



「 王女殿下は相変わらずご活発で…… 」

()()()()()()王女殿下に……頭を下げてらしたご令嬢は何処の令嬢かしら? 」

「 あら?先程王太子殿下が婚約者になる伯爵令嬢だと仰っていましたわよ 」


 ナタリーと2人の公爵夫人達は、エリザベスの後ろでに聞こえるように失笑するのだった。



 シンシアの行いは……

 シンシア自身も揶揄され、エリザベスが王太子妃にと選んだソアラも揶揄される事になったのだった。




 ***




「 可愛いお嬢様達の間でちょっとした行き違いがあったようだ 」

 サイラスは敢えて誰とも言及せずにそう言って綺麗に纏めた。


 国王のその言葉でザワザワとしていた場が静かになった。


「 おお! 雪が降って来たぞ。今宵の最高のホワイトクリスマスを楽しんでおくれ 」

 窓の外には雪がチラチラと舞っていて


 皆からワッと歓声が上がった。


 ランドリアの合図で宮廷楽士達が陽気な音楽を奏で始め、先程の騒ぎが無かったかのように楽し気な時間が流れ出した。



「 ソアラ…… 」

 シンシアを中心に固まっていた人々は分散していて、そこにはソアラが1人佇んでいた。


 彼女は会場の廊下に通じる扉をじっと見ていて。

 何があったのかとルシオは胸がギュッと締め付けられた。



 ソアラの元へ駆寄るルシオとソアラの間にピョコンとルーナが飛び出して来た。


「 ルシオ様! 」

「 わっ!? 」

 ルーナにぶつかりそうになったルシオは、彼女に身体が当たらないように思わずルーナの肩を抱いた。


「 キャッ!? 」

「 す……すまない 」

 咄嗟の事だが……

 令嬢の肩を抱いてしまった。



「 怪我は無いか? 」

「 はい、大丈夫です。ただ……ビックリして…… 」

 真っ赤になったルーナは、手を自分の胸に当てて息を整えていて。



 その間にソアラはその場から居なくなっていた。

 ルシオは身体を反転させソアラを探した。


 しかし……

 会場には楽士達の音楽に合わせてダンスを踊る者達や、集まって話をする者達の間を行き交う黒服のスタッフ達の姿があるだけで。


 ソアラの姿は何処にも無かった。



 その時……

 ルーナがルシオの側に来た。


「 ソアラなら直ぐに戻って来ますわ 」

 彼女は手洗いのある方向を人差し指で差した。


 その所為はとても可愛らしい。


 そして……

 更にルシオに近いてルーナの手がルシオの腕に添えられた。


「 ルシオ様!わたくしがあのようになった事の経緯をご説明致します 」

「 ………… 」

「 恥ずかしい事ですから、多分自分の口からは言いにくいと思いますので…… 」

 背の低いルーナは上目遣いでルシオを見つめた。



「 分かった……場所を移動しよう 」

 ルーナから詳細を聞いた方が良いと判断したルシオは、近くにいたカールを呼び寄せた。


「 ソアラは手洗いに行ったそうだ。出て来たら僕の所に連れて来てくれ 」

「 はい 」

 カールは会場から出て行き、ルシオはルーナを連れて王族の座るテーブルに向かった。



 この時……

 ソアラはアメリアにハンカチを落とされていて。

 そのハンカチを拾ってアメリアの後を追っていたのだった。


 リリアベルは泣きながら退室したシンシアの所に行き、シンシアに怒り心頭なエリザベスも既に会場から消えていた。



 王太子殿下の後ろをピンクのドレスを着た令嬢が歩いて行くのを女性達が見ていた。


「 彼女の着ているピンクのドレスは王太子殿下がプレゼントしたものなのかしら?」


「 シンシア王女殿下が急遽ピンクのドレスから紺のドレスに代えたのは、彼女が王太子殿下から贈られたドレスを着るからかも知れませんわね 」


「 さっき……2人は抱き合っているように見えましたわ」

 一瞬だけど。


「 会場を出て行くフローレン伯爵令嬢の後ろで、2人が隠れるようにして抱き合っていましましたわ 」

 なんてハレンチな事をと言って扇子をパチンと閉じた。


 女同士の会話はどんどん飛躍して行くもので



 ルシオとルーナが王族の座るテーブルに()()()()()()()、顔を近付けて話し出した。


 それを見ていた皆は……

 また扇子で口を隠して何やらヒソヒソと話をする。



 それは……

 ルーナはルシオと向かいあった椅子に座らずに、ルシオの直ぐ横にある椅子に座ったからで。



「 女同士の話を、皆に聞かせる訳にはいきませんから 」


 ルーナはそう言うと……

 美しいルシオの顔にその可愛らしい顔を近付けた。














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[一言] ルーナに早めのざまぁ希望です。 イライラします!
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