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伯爵令嬢は普通を所望いたします  作者: 桜井 更紗
第一章

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伯爵令嬢はシンデレラ

 




「 待たせたかな? 」

「 いえ、僕達も今来た所です 」 

「 ソアラ嬢。宮殿での暮らしは如何かな? ハハハ……そう固くならずにリラックスしておくれ 」

 ソアラに向かってサイラスが軽く片手を上げてにこやかに言う。


「 はい。お気遣い畏れ入ります。周りの方々の手厚いサポートで恙無く暮らしております 」

 両陛下と簡単な挨拶を交わしてそれぞれの席に移動した。


 席順は長テーブルの上座にサイラスが座りその前にルシオが座る。  

 サイラスの横にはエリザベスが座り、ルシオの横にソアラが座った。


「 シアは? 」

「 支度に手間取って遅れるそうよ 」

 ルシオが訪ねるとエリザベスはため息を吐きながらそう言って、眼の前にいるソアラに視線を合わせた。



 エリザベスは生まれながらのサイラス国王の婚約者候補だったその人だ。


 髪の色は同じブロンドでも、ルシオの薄い色のブロンドの髪よりもかなり濃いハニーブロンドだ。

 目力のあるきつめの瞳の色はブルー。


 王族と4家の公爵家の人間は、その殆どの者が金髪にブルーの瞳である。

 個々には多少の違いはあるが。



 国民から注目されて生きて来たと言う事が一目で分かる洗練された美人だ。

 立ち姿からその振る舞いまでが完璧な王妃である。


 当然ながら王族の血を引いている彼女は……

 公爵家の出でありながらも他国の王妃にも引けを取らない存在だ。


 勝ち気な性格は健在だが。

 最近は随分と丸くなったと言われていて。

 それはストレスであった姑である前王妃が、王宮を離れたからだろうと。


 当たり前だが……

 人生の半分は他人の噂話をして来たフローレン家の夫人である、ソアラの母親メアリーとは比べ物にならない人生を歩んで来たのだろう。

 同じ時代を生きていたのにだ。



 エリザベスはソアラを見るとニッコリと微笑んだ。

 微笑むとかなり柔らかな顔になる。


 しかし……

 ソアラにはそれが何の微笑みなのかが分からなくてドキドキと胸の鼓動が早くなる。


 そもそもエリザベスがソアラを選んだのだから、シンシアの様に明白な嫌悪感は表には出さないだろうが……

 それでもソアラの緊張はマックスだった。



 そんな中で会食が始まった。

 

 サイラスから財務部の調査の進み具合の話を聞かれて、その話に花が咲いた。

 サイラスもルシオも聞き上手の話し上手であるから、話が途切れる事は無い。

 彼等が常に人と接して生きて来たと分かる程に。


「 ヒルストン達が、優秀なソアラから経理のノウハウを教わっているからね。調査は順調に進んでいるよ 」

 直に理由が判明するだろうとルシオは語る語る。

 まるで自分も財務部にいるような雰囲気で。



 財務部に引っ越して来た日以来……

 一度もあの執務机には座ってはいないのに偉そうだわ。


 ソアラは取り分けたメインディッシュ肉を口に入れながら、少し肩を竦めた。



 その時。


「 遅くなりました 」

 シンシア王女がやって来た。


 ナフキンで口を拭いて、挨拶のカーテシーをしようと立ち上がるソアラを、横にいるルシオが止めた。

 食事中だからそのままで良いと言って。


「 遅いぞ! もう子供じゃ無いんだから時間は守らないと駄目だろ? 」

「 ごめんなさーいお兄様。おめかししていたら遅くなっちゃったの 」

 シンシアは明るくそう言ってエリザベスの横の席に座った。

 ソアラの斜め前の席である。



「 シンシア! 紹介する…… 」

「 あら? 初めましての挨拶は昨日にもう済んでますわ 」

「 まあ! 何処で会ったの? 」

 昼間は学園に通っているでしょ?と言ってエリザベスがシンシアに眉を顰める。


 シンシアは父親似だ。

 ルシオは母親似だが……

 そもそもサイラスもエリザベスも何処となく似ているのである。



「 お兄様が、新しい婚約者候補が可愛らしい令嬢だと仰るから、財務部の部屋に会いに行ったのですわ 」

 エリザベスにそう言いながらシンシアはソアラを見てクスクスと笑って。



「 シア! 仕事の邪魔をしたらいけないよ 」

「 少しの間だけだったから邪魔はしてないわ 」

 サイラスがシンシアを嗜めたが、顔はニコニコと笑っていて。

 彼女を可愛がっているのが手に取るように分かる。



 その間に……

 シンシアの前にカトラリーが並べられ、メイド達がせっせと料理を運んで来ていて。

 それを見ながらソアラは憂鬱になっていた。


 またその話……

 こんな戯けた事を言った殿下を恨むわ。


 それにしても……

 この言いようは嫌がらせなのよね。

 なりたくてなった訳では無いのにどうしろと言うの?


 寧ろ断りたい。

 いや、一度は断ったのだ。


 もしかしたら……

 シンシア王女殿下が反対すれば破談に出来るのかしら?


 そんな事を考えているソアラを見ながら、昨日言った言葉にショックを受けた筈だと思ったシンシアはニヤリと笑う。

 


「 このネックレスは、()()()()アメリアお姉様とリリアベルお姉様に贈ったネックレスと同じ物なの。あまりにも素敵だったからわたくしも同じ物を買ったのよ 」

 大切な宝物よと言って、ソアラに向かってネックレスを指で摘んで左右に揺らした。


 金色の鎖に大粒のダイヤモンドがキラキラと輝いていて。


 シンシアはアメリアとリリアベルの事を話題にしたくて、このネックレスを探していて遅れたのである。

 大切にしていたと言いながら……

 今はその存在すら忘れていた事から時間が掛かったのだが。



 すると……


「 ソアラのしているネックレスは僕が選んで贈ったものだよ。このドレスもね 」

 ルシオはソアラのネックレスを見た後に、視線をソアラのドレスに移した。


「 うん……何度見ても似合っている。今宵の君は可愛らしいよりも美しいと言う方が正解かな 」

 ルシオは熱に浮かされた様な顔をしながらソアラを見つめている。



 嘘……

 お兄様の瞳の色のドレスとネックレス。


 これは……

 アメリア様もリリアベル様も贈られた事が無い筈。


 ずっと喋っていたシンシアはショックのあまり黙ってしまった。



 殿下は頭が沸いてるの?

 それとも何か変な物を食べた?   


 思わずそんな不敬な言葉が出そうになるのをソアラは辛うじて我慢をした。


「 殿下! そんな事を言うのは止めてくださいと言いましたよね? 」

「 ほら、怒った顔も可愛い 」

 からかうように言うルシオが本当に楽しそうで。


 これはどう見ても付き合い立ての初々しいカップル。

 周りはそんな2人のやり取りを唖然として見ていた。

 両陛下までもだ。



 お兄様は本当に彼女の事が好きなの?

 こんな美人でも何でも無い令嬢の何処を好きになったの?


 アメリアお姉様と良い雰囲気だったじゃない。

 とてもお似合いだと思っていたのに。

 リリアベルお姉様を選んでもわたくしは構わなかったのよ。


 お兄様が2人をとても大切にしておられたのを知っている。


 だけど……

 アメリアお姉様にもリリアベルお姉様にもこんな甘い顔をする事は無かった。   


 陰ではどうだったかは知らないけれども。

 少なくともわたくし達の前で、こんなにだらしない顔をするお兄様なんて見た事が無い。




   ***




「 わたくしからソアラ嬢に伝えたい事がありますわ 」

 サイラスとヒソヒソと話していたエリザベスが言葉を発すると、目の前に座っているソアラだけで無く、ルシオやシンシアまでがフォークを持つ手が止まった。


 給仕で周りにいるメイドや他のスタッフ達も何故か緊張が走る。


 顔はにこやかにしているがエリザベスの心は全く読めない。

 これは公爵令嬢から王妃になった彼女の成せる技だ。



「 近いうちに貴女の家族をここに呼びなさい 」

 婚約の話を進めないとね、と言ってエリザベスは目を細める。


「 は……はい……でも……わたくしの両親は……その……伯爵家でありまして……両陛下の前には…… 」

 王宮勤めの父はともかく、母はとてもじゃないが耐えられない。


 目の前にいるのは我が国の国王と王妃なのである。


「 気楽に来れば良いと伝えて頂戴。伯爵家に何の期待もして無いから安心して 」

 ものすごーく失礼な事を言われたが。

 相手が王妃陛下なのだから寧ろ清々しい。   


「 お気遣い有難うございます 」

 はい! その通りですね。

 それを知っていて私を選んだのだから。

 ソアラは取り敢えずはホッと胸を撫で下ろした。


 やはり……

 王妃陛下には嫌悪感は持たれていなかったと思って。



「 あっ! そろそろ僕達は失礼する 」

 ルシオはそう言って席を立った。


 シンシア以外の者は皆既にコース料理を食べ終わっている。


「 でも…… 」

「 明日も歩くんだろ? 」

「 あら?歩くって? 」

 エリザベスが2人のやり取りを見ながら、食後の紅茶一口飲んで首を傾げる。


「 ソアラは毎朝6時から歩いているんだよ。だから早く寝るんだ 」

「 あの……まだ大丈夫です 」

 そんなお子ちゃまみたいに言わないで。


 ソアラは恥ずかしくてたまらない。


「 駄目だよ。サブリナ達から早く連れて帰るように言われているからね 」

 さあ行こうと言ってルシオはソアラに片手を差し出した。



「 でも…… 」

「 シンデレラは途中で帰るんだろ? 」

 ルシオはソアラに顔を寄せて彼女の耳元で囁いた。


「 なっ!? 」

 今宵の殿下はどうかしている。 


 真っ赤になったソアラはルシオの手に手を乗せた。

 早くこの場から離れたい。


 そう……

 ソアラが早く帰っていた理由が侍女達から聞いて分かったのだ。


 嫌われているからだとカールから言われて凹んでいたが。

 早く寝る為だと言う理由が可愛過ぎる。



 ソアラは両陛下とシンシアにカーテシーをして、ルシオにエスコートされてサロンを後にした。

 スタッフ達が温かーい目で2人を見送って。



「 王太子がソアラ嬢を好いていると言うのは本当だったのだな 」

「 ええ……微笑ましいですわね 」

 仲良く退出する2人の後ろ姿を見ながら、サイラスとエリザベスは早く正式に婚約をさせようと話していて。



 お父様もお母様も……

 お兄様もどうかしてるわ!


 あんな相応しく無い(ひと)がわたくしの義理姉になるなんて。


 甘~い雰囲気に包まれたこのサロンで、シンシアだけがイライラしていた。




 ***




「 シンシアの事は気にしないでくれ……彼女は……その…… 」

 2人でソアラの部屋に行く道すがら、ルシオは言いにくそうにして口籠る。


「 アメリア様とリリアベル様を慕っていらしたのでしょ? 」

「 シンシアはまだ王命を理解出来て無いんだろう 」


 ()()()()()


 そうよね。

 王命ならば愛が無くても結婚をしなきゃなならないものね。


 殿下は誰だって構わないのだから。



「 でも……父上も母上も君の事を気にいっているみたいだった 」

 ルシオは嬉しそうにソアラの顔を覗き込んだ。


「 そりゃあ、そうでしょう。両陛下がわたくしを選んだのですもの 」

 ソアラはずっと俯いたままで。  

 その物言いが何気に荒い。



 えっ!?

 何か怒ってる?

 僕は何か……

 まずい事を言った?


 シンシアは別にして。

 両陛下共に和やかな雰囲気だった。

 母上があんな表情をするなんて今まで無かった事だ。


 母上は……

 リリアベルは兎も角、アメリアとは極力距離を置いているみたいだった。


 それはそうだろう。

 アメリアの母親のサウス夫人とは、仲の悪いライバルだったそうだから。


 もしかして……

 可愛いって言ったからか?

 いや、美しいって言ったから?

 可愛いものを可愛いと言っては駄目なのか?

 美しいソアラを美しいと言っただけなのに。


 令嬢は皆……

 褒めると喜んでくれるのだが。



 どうしたものかと困惑していると……  

 ソアラが立ち止まってルシオの顔を見上げた。


「 殿下、明日は自宅に帰らせて下さい!父と母に王妃陛下の話を伝えに行きたいですわ 」

 王命が出てから慌ててここに来ましたから、家の事が心配ですと言って。



 家の事を考えていたのかとルシオは少し安堵した。


「 君の家には警備の者が24時間体制で警備をしているから心配ない 」

「 えっ!? 」

 そんな事になっているの?


「 そうだな。これからの事もあるから……明日は僕も君の家に行こう。母上殿や弟君にも会ってみたいし、君の育った環境も見てみたい 」

 カールも同行させて婚約の話を詰めても良いな。


 ルシオは顎に手を当てて思案し出した。



 嘘でしょ!? ()()()()()に殿下が?  


 それに……

 ()()()()()に警備の者がいるなんて。


 皆は大丈夫なの?



 ソアラは青ざめるのだった。














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― 新着の感想 ―
[一言] 狭い家・・・ うぅぅ~ん。 でも絶対に私の考えている狭い家よりもずっと広いはず! と、思いつつ更新をお待ちいたしております!
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