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伯爵令嬢は普通を所望いたします  作者: 桜井 更紗
第一章

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ただ今婚カツ中

 




 ソアラはデスラン伯爵令息のトニスとお見合いをしていた。


 デスラン家は邸宅を持ってはいるが、そこには既に兄嫁家族と住んでいる事から、お見合いはフローレン家でする事になった。


 前もって渡されていた釣書によるとトニスは26歳。

 デスラン家の次男で騎士団で事務をしていて、父親と兄は外務省で事務をしている文官一家である。



 ソアラが仕事をしながら目を付けていた令息の1人である。

 堅実で真面目な男だと言う事は既に騎士団の団員であるブライアンからリサーチ済みだ。


 顔をこんなに至近距離で見るのは初めてだが。

 まあ、普通の基準を低くしたら普通と言える顔ではある。

 そこは自分の顔も何の特徴の無い顔なので構わない。


 父親を見れば見事なツルリンだから、彼もいずれはツルリンになる事が今回判明した事だ。


 お見合いでは……

 お相手の男性の父親を観察するのも重要なポイントで。



 様相はさておき……

 トニスはデスラン伯爵家の次男と言うのが何よりも魅力的で。

 結婚したらこのタウンハウスで住む事も可能だと考える。


 ソアラはチラチラとトニスを見ながら品定めをする。

 勿論向こうもソアラの事を品定めしているのが分かる。

 2人の視線が合えばニコリと笑い合う。


 ブライアンから聞いていた通りの良さそうな人だわ。



「 後は若い者同士で 」

 ……と、お見合いの定番の台詞を両方の親から言われて、2人でカフェに向かった。


 大貴族ならばお庭の散歩でも……となる所だが。

 猫の額程の庭はゆっくり散歩する程の広さは無い。

 ましてやルシオから贈られたあの馬車の馬に花を食べられて、庭は悲惨な状態になっているのだ。



 そのカフェはタウンハウスから10分位の商店街にあって、王都にあるスィーツ店では1、2を争う有名店だ。

 ソアラもルーナや他の友達と何度も来たお馴染みの店である。


 トニスは行くのは初めてだと言う。

 カップルでデートする時の場所としては定番の店だから、女性関係はあまり無いのだと少しホッとする。

 やはり結婚後に女性関係で悩みたくは無い。



 注文したケーキセットを食べながらお互いの仕事の話をしたりしていると、店の中にドカドカと騎士達が入って来た。


 騎士の1人が、慌てて店の奥から出て来た店長と何やら話すと、ソアラ達は店の奥に移動する様にお願いされた。


 これは……

 王族がこの店に来ると言う事だ。


 心臓が激しく打ち鳴らされるのを押さえて、店長から言われた通りに店の奥の席に移動した。

 ソアラ達の他にも、何人もの人達が奥の席に移動させられていた。



 すると……

 トニスに気付いた1人の騎士が近付いて来た。

 騎士団の文官をしているトニスとは知り合いで。


「 殿下がお越しだ。悪いな 」

 トニスにそう言った騎士は、トニスの前の席に座るソアラに頭を下げた。


 ソアラも騎士に頭を下げると……

 騎士はそのままソアラから視線を外して壁際に立った。



 何度も会っているんだけどな。

 何度も会話もしてるし。


 何時もは文官の制服を着ているので、ドレス姿でいるソアラが分からないのだ。

 そして……

 仕事で騎士団に行く時は何時もルーナがいる事から、ソアラの顔は覚えていないのだろう。


 印象に残らない顔だもの。

 仕方無いわ。



 すると……

 入り口からルシオ王太子殿下が入って来た。


 来るのが分かっていてもその格好良い姿にはドキドキする。

 目の前の見合い相手がじゃが芋に見えてしまうのは仕方無い。



 店内はキャアキャアと黄色い悲鳴が上がり騒然となった。

 そして……

 ルシオの直ぐ後ろからピンクのドレスの令嬢が入って来た。


 マリアン・ロイデン侯爵令嬢である。

 彼女は一番有力な婚約者候補で、その次はミランダ・ドルチェ侯爵令嬢だと言われていて、既に庶民達の賭けの対象となっている。


 フローレン家の執事のトンプソンとシェフのリチャードはミランダに賭けてるらしい。

 彼等はポッチャリは嫌いだと言っていて。

 お前達の好みは関係無いと突っ込みを入れた位だ。


 マリアン様とデート中なのだわ。

 王族である殿下でもこんな店に来るのね。



 店のスタッフに椅子を引かれてマリアンが座ると、ルシオも彼女の前に座った。


 距離はあるが……

 丁度ソアラからルシオの顔が見える席である。



 店長が2人にメニューを見せて説明をしている。

 王太子殿下を前にして、店長の緊張した上ずった声が聞こえて来る。


 2人が注文をし終え店長がそこからいなくなると、店内をキョロキョロと見渡したルシオの顔が、真っ直ぐにソアラを捉えた。


 ソアラは別にルシオばかりを見ている訳では無いが。

 前を向いてる視界に2人がいるのだから仕方が無い。

 

 2人の視線が交わる。

 ルシオは驚いた様に目が大きく見開いて、ソアラはそんなルシオに会釈をした。



「 出ましょうか? 」

 店の壁際には2人を遠巻きにして騎士達が立っていて、とてもじゃ無いがお見合いを続ける雰囲気では無い。


 トニスはコーヒーだけを注文していたが、ソアラはケーキセットだ。

 そのケーキはまだ食べかけで。


「 でも……残すのは勿体無いわ。食べてから出ましょう 」

 ソアラは大きめに切ったケーキをフォークに刺して、パクリと口に入れた。



 その時……

 視線を感じてそれに目を向ければ……

 ルシオと目が合った。


 ルシオの前に座っているマリアンが、甘ったるい声でルシオに話し掛けている声が微かに聞こえて来る。

 マリアンの後ろ姿しか見えないから、彼女がどんな顔をしているのかは分からないが。



 ?

 私を見てる?

 やっぱりデート中に知り合いがいるのは気になるのかしら?

 ここはお邪魔をしたら駄目だわね。


 ケーキをパクパクと口に押し込み急いで紅茶を飲み干すと、ソアラとトニスは席を立った。



 入り口付近にはブライアンが任務中だった。

 ソアラが軽く手を振ると彼は目だけで挨拶をした。

 任務中は余計なお喋りはしないのが鉄則なので。


 2人は連れだって店を後にした。

 もう家に戻ろうと言って。



 その2人の姿を……

 ルシオがずっと目で追っていた。




 ***




 この日の午後はマリアン・ロイデン侯爵令嬢とのデートの予定が入っていた。


「 彼女とのデートは中止には出来ないか? 」

 執務室で午後の予定をカールから聞いたルシオが、憂鬱そうな顔をしている。


 マリアンとは2回目のデートだ。

 1度目のデートも……

 街中の庶民に1番人気のあるスィーツカフェでのデートを指定して来た。

 女性に人気のカフェらしい。



「 これは……完全に国民へのアピールですよね 」

 殿下との逢瀬を見せつけて、婚約者候補は自分だと人々に認識させようとする作戦なんだとカールが言う。


 いや、それはどうでも良い。

 ただ……

 彼女の話が食べ物の話ばかりで全くつまらないのだ。



 そして……

 以前にミランダ・ドルチェ侯爵令嬢とデートをした時は買い物に付き合わされた。


 彼女はルシオに宝石をねだって来た。


「 ルシオ様からのプレゼントなら何でも嬉しいですわ 」

 ……と言いながらも、ミランダの目はずっとルシオの瞳の色と同じサファイアブルーの宝石を捉えていた。


 恋人や婚約者に自分の瞳の色の宝石を贈るのはどの国も同じである。


 しかしだ。

 まだ彼女を結婚相手に選んでいない今の段階では、それをプレゼントするには時期尚早だ。


 結局は無難な玉虫色の髪留めにしたのだが……

 彼女は王太子殿下が直々に選んでくれて、自分だけにプレゼントされたと自慢しまくっていると言う。


 これにロイデン侯爵が抗議をして来て、その後カールに同じ玉虫色の髪留めを注文させて、マリアンだけでなく他の侯爵令嬢にも配ったと言う。



 兎に角、全てが面倒だ。


 アメリアとリリアベルとはこんな庶民のデートなんかした事が無い。

 3人で宮殿のサロンや庭でのお茶会をする位だった。


 贈り物をする時は、城に出入りしている商人にオーダーするだけで簡単だった。


 公爵家も王家とはあまり変わらない生活をしていて、彼女達との価値観はその全てが同じなのである。

 4家の公爵家だけから妃を選出して来たのだから、当然と言えば当然なのだが。


 同じ貴族でも……

 公爵令嬢と侯爵令嬢はこうも違うものかと驚くばかりだ。



 ロイデン侯爵の魂胆は分かってはいるが……

 約束をしたのだから街の店に行かない訳にもいかない。


 そして驚く事にロイデン侯爵は、ルシオに馬車でロイデン邸まで迎えに来て欲しいと要望して来たのだ。


 しかし……

 それはカールが却下した。

 まだ婚約をした訳では無いのだから、殿下と同じ馬車に乗る訳にはいかないと。



「 全く……侯爵家は何処までも図々しい 」

 カールは公爵家の人間である。

 王妃陛下が伯爵令嬢を選んだのが分かる気がすると言って憤慨していた。



 そして……

 向かった店にソアラがいた。


 ソアラ・フローレン!?

 彼女がいる……


 一緒にいる男は誰なんだ!?


 若い令嬢が……

 男と2人だけでこんな店にいるなんて危険じゃないか!

 そいつが襲い掛かって来たらどうするんだ!?


 宮殿での事件を思い出して……

 男がソアラに何かしないかと気が気で無い。

 マリアンは勝手にスィーツの話をしているが。



 ソアラが店を出て行くと、ルシオはいてもたってもいられずに席を立った。


「 ルシオ様? 」

「 急用を思い出した。失礼する 」

「 えっ!? そんな…… 」


 ルシオは青ざめるマリアンを置いて店を出た。

 騎士達が慌ててルシオの後に続く。



 しかし……

 あっと言う間に民衆に取り囲まれて、身動きが取れなくなくなった。


「 王太子殿下だ! 」

「 ここに王太子殿下がいるぞーっ!!」

 あちこちからキャアワーワーと叫びながら民衆達がどんどんと駆け付けて来る。

 

 騎士達が懸命に民衆達を押し退けてルシオを守る様に取り囲んだが。

 人々は王太子殿下に触りたいと、我も我もと手を伸ばして来てもはやパニックになりつつあった。


 集団心理は恐ろしい。



「 殿下! 危険です! 早く馬車に乗って下さい 」


 男と並んで歩くソアラの後ろ姿を見つめながら……

 騎士達に誘導されて、ルシオは外に停めてあった馬車に乗り込んだ。




 ***




「 カール!! 直ぐに調べてくれ! 」

 宮殿にいたカールはルシオから詳細を聞き、大変な騒ぎになりそうだった事も騎士達から聞いた。


「 あの男は誰なんだ!? 若い令嬢が男と2人っきりで店でデートなんかしても良いのか!? 」

 ルシオはイライラと執務室を行ったり来たりと歩き回って、怒りを爆発させている。



「 殿下? 殿下もマリアン・ロイデン嬢と2人でデートをしたのでしょ? 」

「 僕は騎士達と一緒だ! 2人だけでは無い! 」

 全く……

 彼女の父親は何をしてるのだと怒り心頭状態で。



 いや、騎士達はあくまでも護衛であって……

 彼等は王族にとっては石みたいなもんでしょうに。


 それよりも……

 何時も穏やかな殿下がこんなに怒りを露にしてる姿は本当に珍しい。


 いや、生まれた時から側にいるが……

 こんな殿下は初めてだ。



「 殿下……もしかしてその男に嫉妬してますか? 」

「 なっ!? 嫉妬だと? 」

 うろうろと歩き回っていたルシオの足が止まった。


「 それは無い……僕は……彼女が心配なだけだ! 」

 そうだよ……

 彼女は可哀想な令嬢なんだとルシオは呟いた。



「 兎に角、彼女と一緒にいた男が誰なのかを調べてくれ! 悪い男かも知れないから 」

 あの様相の男は悪い奴に決まっているから、彼女を助けたいんだと言う。



 殿下はもしかしてソアラ嬢の事を?


 信じられないが。

 まさかの事が殿下に起きているのかも知れない。



 この……

 世にも美しい王子を見ながら……

 カールは首を傾げるのだった。












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