手招き……
仕事も終わり、同僚とともに焼き鳥屋で酒を呑み交わし、家族への土産に焼き鳥と焼き鳥飯をお土産に買って帰る。
「ん?」
家の近くまで帰って来た。
外灯の灯りの中に女が立っていた。
よく見るとそれは妻の姿だった。
妻が手を振る。
遅くなった自分を迎えに来たのか。そう思い、歩く足を早める。
妻が手招きする。
「お、おい……待ってくれよ」
妻が振り返りまた手招きする。
何度か同じ事が繰り返される。
妻はニコニコと微笑を浮かべた。
鬼ごっこのつもりか?
がくっと膝が崩れる。
酔いが脚にきたか?
段々と歩き難くなってきた。手に持つお土産も段々と重く感じるようになってきた。
背中をトン、と押され、不意を突かれ、振り返りざまに嗤いながら手を振る妻の顔だった。
「おいっ! アンタ何してんだっ!! 早まった事は止すんだっ!!」
バシャッバシャッと水の音を立てながら、此方に向かって歩いてくる男性の姿に、意識がハッキリとする。バシャッと音を立て沈み行く身体。慌ててもがく。手に持つ土産がやけに重たい。
手放したところに男性に引き上げられる。
男性に聞けば、手に大きな石を縄で吊るして持ち歩き、池に入ってグルグルと周りながら中心へと向かっていたというのだ。
耳元で声がした。
『もう少しだったのに……』
怖気で身体が震えた。
妻に確認をすると、その時刻には子供を寝かし付けていた、という。子供も妻はずっと一緒だったと言う。
ではあの妻は何だったのだろうか。
もう少しで溺死するところだった。それ以来、飲み歩きも、家での酒も止めた。帰り道も当然変えた。
仕事関係の付き合いでの飲み歩きや週末の接待ゴルフ、そんな事よりも家族が大切だ。
それに早く気付けた事、今回の不可思議な体験は怪我の功名というやつだろう。