モノクロの世界で
「あーあ、また落ちたか」
家に届いた通知。寝坊したからキャンパスまで持ってきてしまった。
これで四社目。行き詰ってきたな。何がしたいのか、自分でもよく分からなくなってきた。俺、何が書きたいんだっけ。
「おっ、困ってんね~」
芸術学部の桜ノ宮萌奈。画家志望だからか分からないけど、ネコみたいにマイペースなヤツ。
「萌奈か」
「ねえねえ、これ行かない?」
「えっと、『モノクロの世界で』って何だこれ。真っ黒な紙切れに白い文字って……コレ、大丈夫か?」
「うん。ほら、行こうよ」
どう頑張っても逃げてくれなさそう。
「はいはい、行くよ」
厄介な用事が入っちゃった。
「お、おはよー」
相変わらず、すごいおしゃれな奴だ。
「ほら行こう」
これ終わったら、ショッピングに付き合わされて、荷物持ちになるんだろうな。
「お二人ですね。どうぞ」
スタッフに連れられて、真っ白な部屋に連れていかれた。
「このゴーグルを装着して、椅子に座ってください。その後は……まあ、適当に待っていれば始まります」
このスタッフも適当だな。
――目が覚めれば、モノクロの世界になっていた。テレビも、クローゼットにある服も、スマホも、頑張って集めたフィギュアも、俺自身も黒、灰、白の三色のみになっていた。
「……は? もしかして風邪かインフルにでもなったのか?」
そう思って、思い切り頬を引っ叩く。この訳の分からない悪夢から早く目が覚めたくて、自分の頬を容赦なく叩いたつもりだが、破裂音とピリピリとした痛みしか感じない。目が覚めない。
「速報が入りました――」
さっきつけたテレビから速報が流れてくる。世界中の色が無くなっているらしい。そして、これを打開策はみんなが筆を取って、色を塗らないといけないらしい。でも、世界の全ての色が無くなったら、絵の具の量が無くなる。だから、政府が「イメージした色を実際に作り出せる」という魔法のような筆を国民全員に配布するらしい。
「変なの」
一瞬視界が暗転する。みんな文句を言いながらも一週間が経ち、俺の元にも筆が届いた。
「えっと、俺の部屋にあるものに色を付けていくか」
この筆を配る目的は元の世界に戻す、ことだけど、自分の好きな色を新しくつけてもいいらしい。家具を全部リペイントしようとしていたところだし、これで塗るか。お金もかからないし、色に飽きたら、新しくつけようっと。
ベッドや布団に色を付け、フィギュアも元通りの色に戻し、全てものに色をつけ終わった。今までの部屋とは全然違う世界。うん、何か書けそう!
そう思った瞬間、また暗転する。
ゆっくりと文字が浮かんでくる。
「好きなもの、好きなこと、好きな言葉。『好き』の全て。色を付けるのはあなた」
最後まで読んでくださりありがとうございます。