第一話 本格化
こっちの話はほのぼの系でいきます。
話の内容的にも平行して書いてるやつの方がシリアスには合ってますし。
思いつくままに書いた短編に「○○愛(歪)」タグ入れてるような人間がほのぼのを書けるかは別として。
まあリゼロもほのぼのタグ入ってるしへーき。
「お助けいただき、感謝いたします!」
クターナたちはこの夜、盗賊に襲われていた商人を救出した。この辺りで指折りの大商人。ヘンリー・デヴォルストーンを。
気配消しの魔法を利用したファルコンの調査によってヘンリー、盗賊双方の正確な情報を得ていた。全て準備を整えた上での計画的な救出だ。
「あなたは噂に名高い『黒魔導師』様ですね? 是非お礼をさせていただきたく」
この三ヶ月、夜間にクターナたちはあちこちで「正義の味方ごっこ」を展開。住民たちから「黒魔導師」と噂されるくらいには知名度を得ていた。黒というのはカルネウスから渡された黒ローブのことで、もちろん顔は見せていない。
「礼には及ばない。私もあなたに頼みたいことがあるから。ヘンリー・デヴォルストーン」
「え、ええ」
「私の噂は知っているみたいだからさっさと本題に入るよ。私の活動を本格化させるためにあなたの支援が欲しい。資金、人員、拠点。具体的にはこれくらい」
事前に用意していた要求のリストを提示する。
住民たちに「黒魔導師」の良い噂が広まってきた今、組織的な活動を開始するときだ。そのためには資本がいる。しかしクターナたちは資本を持たない。
「こ、これは……なかなか厳しく……」
「そう、ダメなら仕方がない。あなたの密輸行為を通報するだけだから」
「な!?」
資本を得るために、わざわざ深夜、治安の悪い道を使わざるを得ない訳ありの商人あるいは有力者を狙って救出作戦をとれ。とはカルネウスの提案。まさかの大商人が引っかかった。
コルニアと戦争中の二国への物資運搬。成功すれば大きな富となるがバレれば死罪は免れない。
安全な道を確保し、護衛も十分に集めてから行うべきなのだが、コルニアの侵攻が予想よりも速く、急ぎだったらしい。
「そこまでして敵国を支援するのは何故?」
「それは……密輸の富を得ることももちろんですが、私はこの侵略戦争には反対です。我が家の繁栄は文治政治あってこそ。戦争を主導する武断派を勝たせるわけにはいかないのです」
「そう。私もこの戦争には反対だ。勢力を拡大させるのも政治的立場を得るためだ」
「……そうですか。なるほど……」
戦争に反対しているのは正確にはカルネウス。神龍が人間の諍いに関心を持つのも意外な話だが、コルニアが百年前から侵略戦争を開始したことを知り、すぐに止めなければと飛び出しかけたほどの勢いだった。
なんとかクターナが戦争に反対の立場を取るということで落ち着いたが、クターナとしては政治の表舞台に立つことを決意させられた瞬間だった。
政治に関わりたくないのが本音だが、自由になるためには政治に関わるしかない。もし仮にスベラの悪評がなければクターナは次期女王という立場だったことだろう。
籠の中か、政治闘争の場に出るか、結局どちらかしか道はなかった。それをカルネウスに教えられ、クターナは政治闘争を選んだのだ。
「決められないか? ではこうしよう。この護衛では不安だろう。私の右腕をつけるから成功の暁にはあなたは私の支援を……いや、投資してほしい。私に。私が立場を得れば何倍にもなって返ってくるぞ」
商人に対価を提示する。ここで下手に出てはならない。相手は脇の甘さを見せたとはいえ、大商人だ。自信のなさを見せればすぐに見込みなしと判断される。自信満々に、対等の目線で、双方が儲かる話を提示しなければならない。
「右腕を紹介しよう。カルネウスだ。見た目はただのエオラプトルだが、高い知性と戦闘能力を持つ。戦闘能力に関してはさっき見てもらったとおりだ」
アケラ及び神龍のことはややこしいので言わないでおく。ファルコンにも納得のいくように説明するのはだいぶ苦労したので話すとしてもだいぶ後だ。
<よろしく>
「な!? 喋った? しかも、これは、念話?」
小型の竜はそれなりに知能が高い。しかし言葉は通じない。
アケラも知能は同種族たちと比べても相当高いのは間違いないが、カルネウスを通さないと完全な意思疎通はできない。
喋る竜など前例がない。
「さて、こっちの戦力は提示したよ。乗る? 乗らない? ああ、協力しないなら当然通報という選択肢もあるからね。あまり積極的にしたいとは思わないけど」
「……いいでしょう、わかりました。勝算は何とも言えませんが、乗る価値はありそうです。十日以内には戻れるでしょう。カルネウス殿、お借りします」
「ありがとう、契約は戻ってからでいいよ。まさか裏切るとも思えないし。カルネウス、頼んだよ」
<ああ。クターナも私がいない間、くれぐれも気をつけて>
ヘンリー救出を決定し、おそらくすることになると想定された密輸の護衛はカルネウスがやりたいと願い出ていた。戦争に反対の彼にしてみれば、戦地を見ておきたいという思いもあったことだろう。
そこまで関心を寄せる理由は何か、それは教えようとはしなかったが。
カルネウスは相変わらず行動基準を過去に置いている。封印されていた彼にとって、五百年前はついこの間のようなものだからそれは致し方ない。そこに大きな後悔があればなおのこと。
とはいえ三ヶ月前に交わした約束は守っているのでこの点は何も言わない。
「さて、カルネウスがいない間は私は外に出られないから……詰めるところを詰めよう。最近はこの辺りの盗賊も大人しくなってきたし」
盗賊たちにとってはクターナは厄介な相手だろう。盗賊相手に神出鬼没。そして実力は己を遙かに上回る相手なのだから。
クターナが今までバックル塔を拠点にしていたのもよかった。まさか監獄の住人がこんな活動をしているとは思うまい。
絶対にバレず、安全。皮肉にも塔は拠点として最適な場所であった。こんな拠点であればこそ、麻薬を流すような危険な犯罪組織を相手取った戦いもできた。
「まあ犯罪組織については上々。今回の計画が成功し、組織を設立するとしても、私はまだ表には出られない。しばらくはヘンリーを顧問において、夜警団的な運用になると思われる。私は組織の長に収まるけど、一応この塔に囚われの身なのでいられるのは僅かな時間だけ。……ファルコン、ヘンリーやカルネウスたちと一緒に私がいない間の組織は任せていいね?」
「私は大丈夫ですよ。子どもと小型の竜では舐められそうですがヘンリーさんがいるなら」
計画を詰めるといっても、カルネウスがいないのでこの場にいるのはファルコンとクターナだけ。見通しを述べつつ、適宜ファルコンに指示をしていく場だ。
ファルコンは気配消しの魔法を駆使して塔に出入りしている。普通塔内で魔法を使えば魔力探知に引っかかってしまうのだが、彼の気配消しは魔力探知にすら隠密の効果を発揮した。これはクターナにもできないことだ。
この隠密能力で効率的に救出作戦を展開できた。まさに得がたい、幸運な拾いものだった。
「よし。問題ないね。問題は私。表に出るために、政治的な結びつきを得る必要がある。一つはこの一帯を治めるバエルナ県知事デロス。もう一つはこの監獄の現場トップであるペルサディア隊長エンゲルブレクト」
デロスに関しては問題ない。この一帯を治めているといっても、あちこちで犯罪組織がのさばっているような場所だ。その政治手腕は記録を見る限り無能だ。
勝手に治安維持を担ってくれる夜警団なら大歓迎と、安易に手を取ってくるだろう。ファルコンが忍び込めば弱みの一つや二つ、簡単に出てくるであろう。
だがエンゲルブレクトは一筋縄ではいくまい。誇り高き近衛騎士団出身で、清廉潔白なことでも知られる。生粋の軍人気質で政治的な立ち位置を明らかにはしていないが、王家の命令には忠実である。
クターナの監視が徹底されている(カルネウスによって簡単に突破されているが相手が悪い)のもこの男の手腕と見て間違いない。
「なんとかエンゲルブレクトを味方につけたいけど、弱みなんかなさそうだしなあ」
「これからの課題はこの方ですか。私もできる限りやってみます」
順調に計画を進めていたクターナに厄介な相手が立ちはだかる。
平行して書いている連載は、書く時間が確保できないのでベイスターズが勝った日に書きます。
今勝率が六分の一だから週一で丁度いいね(フラグになってもいいよ)
いや、本当に……。大貫さん……あんたまで燃えるんかと……。