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第二話 蘇る神龍


「クルル……」


 封印されていたそれは息を吹き返し、鳴き声と共に周囲を見渡す。


<む? これは……>


 頭に直接届く声。念話というものだろうか。可愛らしい見た目とは裏腹に、低い、男の声に聞こえる。

 神龍はここに蘇った。




 クタ-ナがどうやって神龍を蘇らせたか。

 その経緯を説明するなら「直感」としか言いようがない。


「あ、この部屋から何か感じる」


 クタ-ナは幽閉されるといっても監視付きで敷地内を歩き回ることができ、そのときにクタ-ナの直感はある部屋に引き寄せられ、


「あ、この石像から何か感じる」


 中にあったいくつもの石像の中の一つから、どこにでもいる恐竜、エオラプトル・ルネンシスの石像を見つけ、これが生物が封じ込められているものだと直感し、


「あ、なんか封印の解き方が降臨した」


 また直感で封印を解いたのだ。

 蘇った、石像だった生物は可愛らしかった。この見た目で神龍など、誰がどう考えてもおかしいが、クターナは直感した。それは理性を超えて訴えるものだった。

 これこそが神龍だと確信した。


 もっとも、五百年間誰にも見つからず、破られなかった封印がこんなに簡単に解けていいのだろうか、とクタ-ナは思ったが自分が特別なのだと思うことにした。

 なおこのとき降臨した封印の解き方とは、「王女による封印の印へのキス」という、五百年前のものだけに時代錯誤も甚だしいものだった。

 封印の印も石像の両目に×印のようにして展開されており、バツ目に見せているという古くさい表現なのが時代を感じる。


「はあ、恥ずかしかった……」


 そしてクタ-ナは封印の解き方がわかってから実行するまで一時間を要した。

 キスの経験などあるはずもなく、石像相手にも怖じ気づいてしまった。

 そもそも直感として降臨するにしては下らなすぎる解き方だ。逆に誰もそんな解き方はしないだろうが。


<スベラ? よかった、無事だったんだね!? また顔が見られて嬉しい! もう会えないかと思った!>


「違う」


 スベラに間違えられた。封印される前はスベラと組んでいたのだし、一応そこは想定の範囲内である。

 しかし――、


「これは何の真似? 言っていることとやっていることが違うのだけれど」


 クターナは今、神龍から尻尾ではたかれている。それもかなり強く。「嬉しい」と言うにはずいぶんな挨拶ではないか。敵意のある攻撃なので尻尾を掴んで押し倒す。

 神龍の体自体はだいぶ小柄なので押さえつけるのは容易だ。


<またとぼけちゃって。これくらいのことはされて……本当にスベラじゃないのか?>


「だから違うって」


<うーん。パッと見る限り、膨大な魔力と私を完全に抑え込むほどの封印を解くセンス、可愛らしい声、育ちの良さが見えて綺麗な容姿……>


「え?」


 クタ-ナはいきなり褒められたことで戸惑った。褒められたことなど物心ついてからはなかったはずだ。いきなりな上に慣れない称賛のせいか、少し顔に熱が集まるのを感じる。


<にもかかわらず他人を絶対に信用してない目のせいで他人から好かれない顔。加えてどこか偉そうで周りから嫌われる雰囲気とか、スベラのはずなのに……>


「黙れ」


 少しときめいてしまった己を恥じる。あながち指摘が間違っていないのも腹立たしい。そんなにスベラと自分は似ているだろうか。


「そもそも今は新暦八百五十年。あんたが封印されてからだいたい五百年ってとこ。ただの魔族に過ぎないスベラが生きているわけないでしょ」


<え、そんなに経っているのか……。ふむ、確かによく見れば最後に見たスベラの姿よりも幼いな。五年くらい>


 そんなに経っている、とは。神龍にとって五百年はたいしたことない時間のはずだが。


<ああ、なんか懐かしいと思ったら初めて会った頃の彼女に似ているからか! あのときは大きく見えたけど、今見るとちんちくりんだな>


「あ?」


 今も組み敷かれているというのに口の減らない龍である。こうも人の感情を逆なでしておきながら、その自覚はないらしい。


<それに言葉遣いも語尾も、あのときはお嬢様みたいだったのが今は若者らしく……。まあ君が今のところスベラじゃないことはわかったよ>


 昔は男女で語尾が違うことも多かったらしいが、今はそんなことはない。比較的言葉の変化の浸透が遅い宮殿ですら口調はほとんど中性的になっている。

 その変化を神龍は指摘しているのだろうが、クターナは逆に、五百年前から蘇ったにしては神龍の言葉遣いが現代的なことに引っかかった。全く違和感がない。


「あんた、本当に神龍? 姿も行動も言葉も、どこにも神聖さがないし」


<私か? 私は……そう、カルネウス。一応神龍ってことになっている。神聖さがないのは認めるところだが、これが事実だ。スベラに似たお嬢さん>


「カルネウス、ね。私はクターナ・アービット。コルニアの王女にしてスベラの妹、アンティカの子孫。スベラに似たなんて呼び方はやめて」


<ふうん、アンティカのね……>


 アンティカの名前を出したが龍は少し気にする素振りを見せただけ。

 言い伝えだと神龍を封印したのはアンティカとされる。いわばカルネウスの仇敵である。

 その子孫を名乗ったのにもかかわらず、反応が薄すぎる。


「あのさ、改めて聞くけど、なんで私を攻撃したのかな?」


 最初からアンティカの子孫だと気づいていたのならその説明もつくが、この龍はあのとき、クタ-ナをスベラと誤認していたときに攻撃したのだ。そして今の反応の薄さ。おかしい。


<ああ、この体の主は私とは別の人格なんだ。というか竜格? 君を襲ったのはその子の意思ね>


 カルネウスは、自分と攻撃した意思は別だと言いたいようだ。

 二重人格のようなものだろうか。いや、表に出ている意識が体を全然制御していないから違う。


<私は元の体から分離させられてて、この子の体に邪魔させてもらってるだけ。この体は正真正銘この子のものだし、ちゃんとこの子の意識も表にある。あ、この子はアケラ。妹みたいなものだから傷つけたら怒るよ?>


「そう。それはそれとして、なんであなたの妹にまで嫌われるのさ」


 言葉と動きが違う理由はとりあえず理解したが、いきなり襲われる理由はない。エオラプトルは比較的大人しい竜種のはずだ。

 人間でもない存在にまで自分がいきなり嫌われ、襲われるのは少しだけ傷つく。

 まさか妹の方はクターナをアンティカの子孫だと看破していたわけではあるまい。


<そりゃあ、私とこの子を封印したのはスベラだから。この子にとってスベラは憎い存在だろうし、初見で君をスベラと認識するのは無理もないことだ>


「え?」


 言い伝えと違う。

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