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第一話 少女の望み

「お前にはバックル塔に移ってもらう」


「……はい」


 少女は父親から伝えられた言葉を呑み込み、受け入れた。バックル塔への移送とは追放、幽閉を意味する。バックル塔は過去には学校にとして用いられたらしいが、今では要塞、監獄である。

 もちろん望んで受け入れるわけではない。不満ばかりだ。少女自身は何も悪いことはしていない。


「わかるだろう。お前のその姿……成長するにつれ、どんどん似てきているのが。スベラ・アービットに」


 スベラ・アービットとは、五百年前、妹と王座を争ってこの王国を荒廃させたことで歴史に名の残る存在だ。

 そんな伝われ方をされているように、戦いには妹の方が勝ち、今の王家に繋がっている。敗れたスベラは大罪人とされ、未だに王国では忌み嫌われる存在だ。

 そして少女の姿は肖像画、魔導記録に残るスベラのそれと非常に似ていた。


 父親も今日まで少女をスベラとしか見てこなかった。

 母親は妹を隠すように、少女に背中を向けている。その表情はよく見えないが、冷たい顔をしていることだろう。

 この場に誰一人として少女の味方はいない。


「そうですね。私の見た目は忌み嫌われるあの方の姿そのものだと自覚しております。……いつ、私は殺されるのですか? 裁判を経ての処刑か、暗殺か、自害を強要するか」


 バックル塔はスベラが処刑された場所でもある。移送と称して殺される可能性がある。

 故に少女は鎌をかけて殺される可能性があるか確かめてみた。


「む……。お前は謀反人とされたわけじゃない。ただ、その姿で表に出てこられたら」


「はい。これ以上は私も申し上げません。大人しくしていますからご安心を」


 大人しくしている限りは今のところ殺されることはない、そう少女は解釈した。

 もちろん、本当に殺されるとしても素直に殺されてやるつもりはない。今まで隠してきたが、王国屈指の魔力量を持つことを示し、戦うつもりだった。しかし、それでも及ばず負けるだろう。

 いずれにせよ、生き残るためには今、この城から退出し、素直に幽閉されるべきである。。


「そうか、すまないが今日にでも発ってくれ」


「……はい」

 

 既に塔の方へ荷物は運ばれているという。後は少女が護送されるだけだ。なおこの過程は今日知らされた。少女に準備をする時間は与えられなかった。


「姉様、またね」


 二つ下の妹。今年で十になる。この状況がどういったものか、わかっているかどうかは何とも言えない。

 少女自身は、今の妹くらいの年の頃にはとっくに情勢を悟っていたが、それは厳しい視線に晒されれば当然というものだろう。対して妹は優しく育てられた。


「……さようなら」


「クタ-ナ、せめてバックル塔で良い余生を」


 コルニア王国の第一王女、クタ-ナ・アービットは一礼して家族、すなわち国王と王妃、第二王女の前から立ち去る。

 大罪人と瓜二つの容姿。また同じくアービットという王家の名を背負う身の上を呪いはしない。死ななければ何とでもなる。

 まずは生き残り、時間をかけてでも自由を勝ち取るのだ。




「自由のためには何だってする。でも私一人ではどうにもならない。味方が欲しい……そうだ。神龍の封印」


 遠いバックル塔への道中、馬車の中でクタ-ナは一人呟く。

 神龍。五百年前にスベラと組み、敗れ、封印されたという最強の生物だ。封印されたそれがバックル塔に眠っているのではないかという噂は有名だ。


「なんて、こんな噂に縋るとは、我ながら笑える」


 あくまで噂。

 封印されたという記述の後、五百年間の記録には封印のふの字も出てこない。

 封印された後どこにいるのかはわかっていないのだが、スベラが拠点にし、処刑されたバックル塔がなんだかんだ噂になるのだ。古城に現れる幽霊のような扱いである。


「神龍、実際はどんなやつなんだろうね」


 スベラの側に神龍がいたことは間違いないとされているが、その姿、能力、目的はよくわかっていない。

 情報が少なすぎて、事件において一体どのような役割を果たしていたのかも不明なことに加え、五百年よりも前から信仰されていた存在だったこともあってそこまで神龍は嫌われていない。

 

 実際に手を下したとなれば記録にも残ろうものだが、それもなし。存在の特異性で話題になるだけで、事件における渦中の存在として関心を持たれることはほとんどない。


「ふう、なんかワクワクしてきたな」


 クターナは塔に近付くにつれ、噂程度の認識だった神龍の存在にどこか確信を持つようになっていった。そして封印を解くという意思が自然と固まりつつあった。


 神龍がいたとしても、封印を解くことのリスクは当然ある。いきなり襲われて殺されることもあるだろう。

 だがこれ以上失うものがない身。命は大事にしつつもギリギリを攻める覚悟は既にしている。そのときはそのときだ。そんなことはされないだろうという謎の確信もあるのだが。

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