ハッキング
<進行>
キースはこの間のニュースがとても気になっていた。
——少し、AIロボのバグをチェックしてみよう——
キースはそう考えて行動に出た。
この国のAIは国民のIDナンバーや
国中に張り巡らされた監視カメラにて全て管理しており、
もちろん総人口の数も全て記録されている。
よって、今まで行方不明となってもすぐに探し出すことが出来た。
しかし、今回は見つけることが出来ない。
バグの可能性があると考え、キースはAIロボの中央システムを確認した。
だが、特にバグやエラーは見つからなかった。
「おかしいな。何も問題が無いのに。AIロボのパトロールにも問題は無い」
不思議に思ったキースは、オッドテクノロジー社の中枢であるコントロール室に向かった。
コントロール室に入ると中にはノウェルがいた。
部屋には四角い箱が数えきれないくらい設置されている。
一つの大きさは冷蔵庫くらいの大きさだ。
その敷き詰められた箱と箱とで作り出された道を
真っすぐ中心に歩いていくとそこにはエメラルドグリーンの丸い水晶がある。
これは、この国の全てを管理している全AIをコントロールする神のような存在だ。
キースが中に入ると、ノウェルは何やら不思議そうに話しかけてきた。
「こんな所に何か用でも?」
キースは表情を変えずに、
「いや、特別なことではないよ。最近の研究で新しい商品開発をしているんだが、このコントロール室がその容量に耐えることが出来るか、その確認さ。いつものルーチンだよ」
「そうですか」
キースはこの時の微妙な表情を見逃さなかった。
ノウェルが何かを隠そうしているのを感じた。
そして、一つの箱に自身でプログラムしたハッキングシステムを
ノウェルに気づかれないように“意識転送”した。
これは、キースが意識を集中するだけで
あらゆるコンピューターに意識を転送出来るプログラムであり、
他人に気づかれることは無い。
彼が秘密裏に開発したものだ。
「それでは戻るとするよ。邪魔したね」
「いえいえ、お互い国民をさらに喜ばせる為に全力を尽くしましょう」
ノウェルは太った狸顔に笑顔を膨らませて言った。
「うん、また新しい商品を作り出し、多くの人々を喜ばせてみせる」
そう言って、キースはコントロール室をあとにした。
<ハッキング>
自室に戻ったキースはさっそく、
コントロール室でシステムに意識転送し、
獲得したデータをさらに自身のコンピューターに移動してチェックした。
「さすがに、ハッキングシステムが入らないようにあらゆる仕掛けが何層にも渡ってなされているな。
しかし、これは痕跡を残さずに、ハッキング出来る!」
こんなことが出来るのはキースただ一人だ。
システムの奥深くまで入っていくと、沢山の情報が出てきた。
その中にシェリーと書かれた情報があった。
「名前かな? 他のファイルにあまり無いネームだ。この情報が何かくさいな」
そうキースがつぶやくとシステムにロックがかかってしまった。
「しまった……これはノウェルのハッキングフォローシステムだ、
あいつなかなかやるじゃないか」
しかし、このプログラムは、三年前にキース自身が既に開発して解除方法も知っている。
「このケースはこのプログラムを打ち込んで……」
そうつぶやきながらキースは全てのロックを解除した。
そうするとそこには、『選別』と表示があった。
キースはそのプログラムを開いたことで、驚愕の事実を知ることとなった。
「な、な、なんだよ……これは……」
そこからしばらくの間、彼は何も考えられなくなっていた。