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第5話

時期は少し遡って、合宿中のある日の夜のことであった。夕食が終わり、関監督の「マネージャー、先に風呂入っていいぞ」という指示があったため、あたしたち女子マネージャー陣は寮にある風呂場に入ることにした。ちなみに男子部員はこれからまた2時間ほど各自、練習をするらしい。




「うわ、萌絵ちゃん。胸大きいね……」




春香さんがマジマジと萌絵ちゃんの胸を見る。それに続いて、桃菜さんと結衣さんも萌絵ちゃんの方向に目を向ける。そういう春香さんだって胸大きいですよ……


桃菜さんと結衣さんはそこまで大きくないけど美乳。それに対してあたしは……ほとんど胸の膨らみがない。つるっぺただ。




「優ちゃん、泣かないで。高校生のうちに大きくなるから」




春香さんがあたしにこう声をかけたところで、風呂に入る。




「あいつらしばらく外で練習中だから、私たちはゆっくりと入れるね」




春香さんは風呂に入ると、早速そう言っている。そして、「もしあいつらが覗きにきたら、私たちで半殺しにしましょう」とまで言っている。


そしてあたしたち5人は、頭洗ったり、体を洗ったりした。


結局なんだかんだ1時間ほどが経ち、春香さんが、




「優ちゃん、まだ入るの?私たちもう出るから、男子が入る前に戻ってきなさいよ」




と言い風呂から出る。そして他の3人も春香さんの後に続いて出る。あたしはもう少し入ろうかな……






……と思っている間にあたしは少し寝入ってしまった。まあ仕方ないか……合宿中、ほとんど眠れてないからね。


しかし、私は脱衣場から聞こえる男の声を聞き、タオルで体を隠す暇もなく、慌てて出ようとする。そして……




「何だ野口、まだ風呂に入っていたのか……って、お前!?」




『全裸』で慌てて風呂から出るあたしの目に映ったのは、これから風呂に入る『全裸』の筒井先輩の姿であった。




◇ ◇ ◇




「いや悪かった。野口の……胸、真面目に見ちまって。しかしまぁ、貧乳はステータスだと思うぞ。気にするな」


「そういうあたしこそ、先輩の……アレ、真面目に見てしまいました。やっぱりあたしがイメージしてた通り、大きいですね……」


「お前、結構可愛いと思っていたのにな……俺の評価が下がったかと思ったらショックだわ」


「あたしこそ、筒井先輩に憧れを抱いていたのに……少しショックです」




筒井先輩が風呂から出ると、他のマネージャー達と一緒に、食堂で期末試験の勉強をしていたあたしに謝りに来た。ちなみに他の部員はまだ練習中か、入浴中である。




「まあ結局事故なんでしょ?」


「疲れて風呂で眠っていた優ちゃんが悪いよ!」


「そうだよ!下手したら優ちゃん、溺れてたよ!?」


「さすがの私も、これだけは擁護できないよ……」




マネージャー陣があたしに向かって一斉に糾弾しようとしている。先輩、弁護してくれないんですか。それに、萌絵ちゃんから擁護できないって言われると、あたしめっちゃ傷付くよ……




で、結局あたしはしばらくの間、筒井先輩の練習に付き合うことになった。




◇ ◇ ◇




筒井先輩はひたすら、あたしが投げたボールを打っていた。トスバッティングの練習である。あたしはふと、室内練習場の時計を見た。もう夜の10時を回っていた。そして、




「……そろそろ切り上げるか」




筒井先輩がこう言ったので、あたしは先輩とともに後片付けをする。




「野口、悪かったな。色々酷い目にあって」


「酷い目だなんて……あたしは先輩の練習に付き合うことができてよかったですよ?」


「そうか、安心したわ。お前の機嫌悪くなさそうで」


「先輩の練習の手伝いをしてたら、割とどうでも良くなりました……あんな姿見られたことなんて」


「俺も野口に嫌われたかな……って思っていたからな。この様子じゃ嫌われてなさそうだな」


「はい!だってあたし、4月に入部しようとしてた時、グラウンドでショートを守る先輩がめっちゃ格好良かったんですから」




あたしは筒井先輩に対して、今の気持ちをこう打ち明けた。告白するわけではないけど、少し緊張した。そして筒井先輩は少し、照れた表情をしている。




「そういえば野口の親父って、プロ野球選手だったんだっけ」




筒井先輩はあたしにこう言い出した。あたしは「何で知ってるんですか!?まだ何も言ってないのに……」と少し驚いた表情をする。


そう、私のお父さんはかつてプロ野球界を沸かせた天才ショート・野口優也(のぐちゆうや)その人である。まあ、引退した今はただのおっさんなんだけどね。




「俺、優也さんに憧れて野球を始めたんだ。小さい体なのに、誰よりも打って走って守る優也さんが格好良かった。俺がショートを守るきっかけも優也さんだった」




筒井先輩があたしのお父さんがどういう選手だったかという話をし始めた。結構詳しい。中にはあたしが今まで知らなかったことも話していた。そして、




「ありがと、野口。色々話してたらもう消灯の時間だな。いい加減帰るぞ」




という筒井先輩の合図とともに、あたしは筒井先輩の後を追いかけ、寮に戻ったのであった。

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