第4話
季節は6月に入った。我が鎌倉大学附属高校野球部は春の神奈川県大会を優勝。そして、その後の関東大会でも優勝を果たし、甲子園出場の最有力候補に躍り出た。
チームの中心は昨年、春夏連続で甲子園を経験した、3番ショートの筒井健斗先輩と4番サードの葛西景輝先輩。お互い全国区の選手で、今秋のドラフトでも上位指名が有力視されている。
一方の投手陣は、昨年秋の大会では絶対的エースの不在が響き、選抜出場を逃したが、春の大会では背番号11の左腕・小坂雄造先輩と、背番号18の右腕・中井駿太先輩の両2年生が成長。チームの関東大会優勝に貢献した。
6月の半ばには、1週間の強化合宿が行われ、あたしたちマネージャー陣も野球部の寮に泊まり込み、朝5時から授業を挟んで、夜11時までひたすら部員の過酷な練習に付き合うというこっちも過酷になりそうな内容だった。こっちは、期末テストの勉強しなきゃいけないのに……
そして合宿の最終日、ついに夏の大会の登録メンバーが発表された。
◇ ◇ ◇
鎌倉大学附属高等学校
部長 井上和正
副部長 柳沢俊
監督 関敬一郎
コーチ 堀俊介・高塚英一・長谷川雄平
ベンチ入りメンバー
1 投 上田和也 左左 3年
2 捕 新井哲也 右右 3年
3 一 伊藤直輝 右右 3年
4 二 鈴木正樹 右左 3年
5 三 葛西景輝 右右 3年 主将
6 遊 筒井健斗 右右 3年
7 左 高橋誠司 右左 3年
8 中 松村祐児 右左 2年
9 右 北川健太 左左 2年
10 投 梅本啓二 右右 3年
11 投 小坂雄造 左左 2年
12 捕 前田敏明 右右 2年
13 捕 芹澤雄馬 右右 3年
14 内 岡本優斗 右右 3年
15 内 山下一真 右右 3年
16 外 大井敬介 右右 3年
17 外 岡田雄作 右左 3年
18 投 中井駿太 右右 2年
19 内 小沢翔太 右右 1年
20 内 西野一誠 右左 1年
記録員 大石智章(3年)
◇ ◇ ◇
1年生からは、小沢くんと西野くんが選ばれた。小沢くんは千葉のシニアリーグで全国制覇したチームの4番打者だったし、西野くんは大阪のボーイズリーグで走攻守三拍子揃った大型ショートとして名を馳せ、全国各地の強豪からスカウトされた逸材である。
そして、ベンチ入りメンバーから外れた3年生はこれで引退。来週にはメンバーから外れた3年生同士による引退試合(ちなみに対戦相手は同じ神奈川県内の藤沢学園高校。かれこれ20年近くやっている)を行い、夏の大会中はメンバーに選ばれた部員のサポートをすることになる。
◇ ◇ ◇
抽選会の結果、我が鎌大附属は第1シードとして3回戦から登場。初戦は横浜実業高校と横浜工科大学高校のどちらかになるであろう公算だ。
長らく神奈川県内のライバル校であり、ともにこの春の甲子園に出場した東西大相模原高校と南横浜高校は、順当に勝ち進めば準決勝で対戦し、我が鎌大附属とは決勝で対戦する構図となった。
ちなみに、シード校は我が鎌大附属・東西大相模原・南横浜の他に、春の大会ベスト8まで勝ち残った、桐望学園・松蔭学園・慶洋高校・横浜光学館高校・目大藤沢高校である。
さて、今夏の神奈川県大会の展望に入る。やはり例年通り、鎌大附属・東西大相模原・南横浜の『私学三強』が群を抜いている。
東西大相模原は、この春の選抜甲子園で準優勝に輝いたチーム。投手陣は最速148km/hを計測した左腕エース・藤江さんを中心に4投手がマウンドに立つ。打線も3番酒井さん・4番寺田さんを中心に、どこからでも点が入る伝統の強力打線は健在だ。
南横浜もこの春の選抜甲子園ではベスト8まで勝ち上がった。投手陣は何と言っても、背番号1を背負う身長193cmの長身左腕・岡村さんと、背番号10で最速150km/hの右腕・松岡さんの2人が絶対的エースとして君臨している。打線の方も、俊足の1番打者・内田さんを筆頭に、走攻守三拍子揃った選手が揃い踏みだ。
そして我が鎌大附属。投手陣にやや不安は残るものの、エースの上田さんは課題のコントロールが改善され、背番号10の梅本さんも昨秋より球速が5km/h以上伸びた。そして春の県大会・関東大会で小坂さんと中井さんの両2年生が急成長。打線の方も3番の筒井さんと4番の葛西さんが中心となり得点を重ね、選抜出場組の東西大相模原・南横浜と互角の布陣だ。
……というのは、雑誌やネットの予選展望をあたしがそのまままとめたものである。ちなみに春香さんから、「これ全部1人でまとめたの!?すごい……」とビックリした表情で言われたのも書き足しておこう。
◇ ◇ ◇
週末の練習試合では、KFBFCのお姉さま方が毎週のように駆けつけてきた。一軍が遠征中で、鎌大のグラウンドでは下級生で構成されている二軍の試合が行われている時だって容赦なし。ネット裏の観客席からは若いお姉様方の声が試合中、常に鳴り響いていた。……部員たちはKFBFCについて、どう思っているんだろう。
そして、夏大のメンバー発表と抽選会が終わり、6月末の練習試合が終わるといよいよ夏の甲子園の神奈川県大会まで、あとわずかとなる。一度でも負けたら終わりの一発勝負。1ヶ月後、神奈川の頂点に立ち、甲子園のその姿を表すことができるのはたった1校のみ。そして2ヶ月後、敗戦の経験を知ることがなく、全国の頂点に立てるのは全国約4000校のうち1校。
夏への扉は、あたしたちの眼の前で音を立てて開いたばかりであった。