2.彼の中に誰かがいる。(2)
「病院。逃げ出してきた」
病院の名を聞き出して携帯端末で検索すると、確かに実在している。
俺は納得した。
(ああ……なるほど。こいつ、頭の病院から逃げ出してきたのか)
連絡しようかと思ったが、俺がさらったと勘違いされても困るのでやめた。
宵人は涙を拭ってつぶやいた。
「家に帰りたい。ヒュー兄ちゃんがきっと探してるよ」
「兄ちゃんいんのか? しゃあないなあ、連れてってやるよ」
「ほんと?! ありがとう!」
嬉しそうに笑う彼に笑い返しながら、俺は自分のお節介に呆れてしまった。
明日の飯にも事欠く生活だってのに。
****
いとしの我が家、ボロアパートの一室に連れ帰った。
ジャージに着替えさせた宵人は、狭い部屋をきょろきょろと見回した。
本棚に置いたテレビアニメ『黒猫ニンジャ』のフィギュア(菓子の懸賞で当たったやつで、いずれネットで売ろうと思っていた)を見つけると、ぱっと笑顔になった。
「黒猫ニンジャ!」
フィギュアを手に取って目を輝かせる様子に、俺は顔をほころばせた。
本当に小さな子供みたいだ。
「あげるよ」
「わあ、ありがと」
「ちゃんとお礼が言えてエラいぞ。飯の前に風呂入るか」
浴室に行くと、宵人はあっという間に服を脱ぎ捨て、はしゃぎながら駆け込んでいった。
「あ、こら!」
彼の服を拾って籠に入れてから、俺も後に続いた。
宵人はこちらに背を向け、シャワーの湯を浴びている。
「服を脱ぎ散らかすんじゃない」
彼は髪をかき上げながら振り返った。
その冷たい眼で見られた瞬間、俺はびくっとして一歩下がった。
さっきまでとはまるで雰囲気が違う。
「宵人……」
「宵人? ああ……あいつが出てたか」
さっきまでの子供っぽい喋り方でなく、冷笑しているような言い方だった。
露になった裸身は研ぎ澄まされた刃物のような筋肉に包まれている。
俺が思わず浴室のドアを掴んだ瞬間、長い腕が伸びてきて、逃げ場を遮るようにドア板を突いた。
(壁ドン! 壁ドンだ!?)
自分がそれをされる日が来るとは思ってもみなかった。
「あ……えっと……」
「かわいいお兄さん、名前は?」
「し……知ってるだろ」
唇が触れそうなくらい近くに彼の美麗な顔がある。
俺は正直びびっていたが、同じくらいドキドキしていた。
だって、宵人の顔立ちは本当に……見とれてしまうくらいキレイなんだ。
ついさっきまでは子供っぽい仕草に隠れていたけど、今は剥き出しの欲望が美貌を際立たせている。
「キミの口からもう一度聞きたいな」
次の投稿は来週月曜日になります。ここまで読んでくださってありがとうございました。
ところでわたしは腐になってまだ日が浅く属性? とかシチュとかいうのがよくわかっていなくて、この作品にどういうタグをつけたらいいのかわかりません。
誰かおせーて! おせーてよォ!(スピードワゴン)