9.七瀬は優しさで出来ていた。
「じゃあまたな、綾希」
「また」
大した話をしてなかったけど、気付けば夕方になっててその時点で解散。七瀬は「送るか?」なんてことを言うかと思ってたけど、言ってこなかった。
そういう関係じゃないから断られるのがオチ。たぶんそれが見えていたんだと思う。当たってたけど。つくづく面倒すぎる女。これは自覚済み。やはりダークな部分は直ってない。
もっと柔らかく優しく話すべきなんだろうけど、好きが芽生えたらたぶん、そうなるはず。
「おはよ、おやすみ」
「っておい! 早えな。ま、邪魔はしない」
「ありがと」
翌朝、教室に入ってすぐにやることと言えば寝ること。お隣さんの七瀬は、だいぶわたしのことが分かって来たらしい。
「……って、あ!」
「お? 目覚めがいいな」
「じゃなくて、なんか課題出てた気がする。七瀬は、やってる……わけないか。忘れていいから。んー誰かに借りるしか」
「課題って昨日の奴だろ」
あぁ、しまったなぁ。寝すぎてやってなかった。こういうときに、仲がいい友達がいないのが辛い。自分から積極的に話すタイプじゃないし、いきなりは変われないから困る。
「って、聞いてた?」
「え、何が?」
「貸すから」
やってきてないこと前提で、周りを見渡しながら悩んでいたら、目の前にノートを差し出されていた。意外過ぎて、言葉が出なかった。
「でも、すぐ提出だしいいよ」
「名前を綾希に変えて出せばいい」
「そしたら七瀬が怒られるし」
「気にしない」
借りるかどうかは別にして、中身を見たら字がわたしより綺麗で、きちんとしてた。やばい、真面目だ。
「字、ヤバイね」
「悪ぃ、読みづらいか?」
「や、じゃなくて、綺麗過ぎてひく。ウソ、ちょっと意外すぎて驚いた」
「そ、そか。サンキュな」
……で、結局七瀬に甘えた。昼前に彼が先生に呼ばれていた。罪深すぎる。そう思って正直に言おうとして、先生の所に近付こうとしたら、七瀬は片目を閉じながら「いいって」なんてことを口にしてた。
今度こそ、奢ろう。今日、誘って奢る。そしたら、少しは罪が薄れるかもしれない。