87.カレカノたちの優しいコトバ
早く授業が終わって欲しい。そして何も考えずに家に帰りたい。そう思っていたら、もう何も考えられなくなって、誰からの声も聞こえて来なかった。
「おーい、あやきち~? ま、まさか、目を開けたまま寝てる!?」
「綾希さん? 聞こえてない……?」
気付いたら授業が終わってて、元の教室に戻らないといけないのにずっと窓の外を眺めていた。誰の声も聞こえて来ないくらいに憂鬱だった。どうして一度フッた相手にまた言わなきゃいけないのか理解出来なかった。
「泉、上城。綾希、どんな感じになってる?」
「七瀬くん! いいところに来たね。やっぱあやきちを起こすのは七瀬くんだけだ」
「綾希さん、上の空ってやつだと思う。俺らの声も聞こえてないし、見えてない。原因はあいつだよね」
教室を出なければ行けないことくらい頭の中では分かっているけれど、ずっと頬杖をつきながら空を眺め続けていた。このまま動かないでいられればいいな……なんて思いながらわたしなりに必死に抵抗し続けた。
「綾希」
「……」
「俺の声が聞こえてるか? それとも泉の言う通り、目を開けたまま寝てんの?」
「寝てない」
「お、ようやく返事したな」
「なに?」
「綾希、ごめんな。お前を独りにさせちまった。こっちまで聞こえて来なかったけど、俺らは分かってる。だから、綾希。お前は俺が必ず守るから。だから、教室に戻ろう?」
ずっと姿勢を崩すことなく頬杖をついていたわたしに、七瀬は優しい言葉をかけてくれた。由紀乃とヒロも心配そうな顔をしながら微笑んでた。
「友達?」
「当たり前だ。友達でもあるし、綾希が大事なんだ」
「うんうん、あやきちのダチなんだぜ~」
「俺も友達だよ。だから、元気出して」
「ん、分かった」
授業の間、一方的な告白と聞きたくも無い声から繰り出される話を、ひたすら遮断していたわたし。それに加えて、味方のみんなとも席を離されたことで自分自身を消してしまいたかった。
だけれど、いつの間にかわたしには大好きな七瀬がいて、優しくて面白い由紀乃と、気遣ってくれるヒロがいてくれたってことに気付かされた。こんなわたしでも友達が出来ていたんだ。
「綾希、行くぞ」
「行く」
放課後、わたしは元カレの了に、ハッキリと確かな言葉で伝えないと駄目なんだ。でも、七瀬や彼女たちがいてくれるってだけで、きっと大丈夫……そう思えた。
七瀬とわたしの恋の敵……もう、そんなのいらない。これから先の関係に、そんなのは必要ないのだから。




