86.無意味な告白と梅雨空。
どうしてフったはずの元カレが同じ学校に移って来て、どうして今、わたしの隣に座っているのだろう。いつもの席と違った場所で、思わず窓の外を眺めたくなった。
夏休みも近づいているけれど、空は梅雨空の色を出していた。今のわたしもまさにそんな気分だった。わたしの味方は近くにいないどころか、授業中ということもあって立ち上がって来てくれるといったことも期待出来そうにない。
「……なぜ?」
「ん? そりゃあ、綾希とヨリを戻したいからに決まってるだろ!」
「なにが?」
「いや、だから……」
話しかけたつもりはなくて、わたし自身に答えを聞いていた。つまりは独り言。だけど、半分はコイツに聞いていたのかもしれない。どうしてわたしなの? って感じで声を出していた。
「どこが好きで?」
「綾希と付き合ってたし、やっぱお前、可愛いし」
「そう……」
かろうじて声だけは出していた。でも、窓の外だけしか見えていなかった。それくらい、何の感情も表情も動かすことなく時間が過ぎて行くのを待っていた。
「やり直してくれないか? フラれた理由は後から聞いたけど、でも、好きなままなんだよ。悪いとことか直すから、だから俺ともう一度付き合ってくれ! 頼む。マジで好きなんだ、綾希」
確か今って、授業中だった気がする。でも、後ろの席だからか、大きい声でもない告白は他の誰にも聞こえていないみたいだった。もちろん、すぐ隣のわたしにも隣の元カレの告白は全然、届いて来なかった。
「いや、授業中にごめん。俺、待ってるから。だから、返事は放課後に聞かせて欲しいんだよ。玄関で待ってるから。だから、頼む。諦めたくないんだよ」
「……じゃあ、放課後」
「おっ! っしゃああ!!!」
「何ですか? 楪くん、質問ですか?」
「あ、いやっ、すみませんでした。なんでもないです」
何て言えば相手に届くのだろう? どうしてわたしなのだろう……どうか、忘れて欲しい。放課後に何をどう言えばいいというの? わたしの心にはもう、あなたの居場所は無いというのに。
「返事をしたら、その返事に対しての約束……出来る?」
「おう! 守るよ! その返事に期待してるし。約束する!」
「それならいい。きちんと返事する……」
「分かった、放課後な!」
わたしには彼しか見えていない。彼の近くにいられればそれだけでいい……彼のその手に触れたいだけ。




