81.意味も無く、予想外のコトを。
「あやきちはこれから何度も来るわけか~。しかし、心配だぞ」
「泉が考えてることなんて起こさないけどな」
「はっ!? や、そんなこと考えてませんよ?」
「七瀬、そうなの?」
「……綾希はどう思ってる?」
七瀬から答えを求められるとか予想外。七瀬の家。七瀬の部屋に何度も来ることになったら、どう思うかなんて、そんなのは分からない。だから、有り触れた言葉しか出て来ない。
「七瀬と座っていたい」
「あやきち、健全か!」
「泉、ちょっと大人しくしてろって。健全も何も、綾希から出てくる言葉ってこういうもんだって分かってる。俺は分かってるんだよ、コイツのことは」
「七瀬……?」
コイツって呼ばれた。なんか、七瀬の呼び方が変わったかも。七瀬はどう思ってるんだろ? 部屋にわたしとふたりだけで、学校とかであまり出来ない話とかいっぱいしてくれるのかな。それとも?
「――んん?」
わたしを見ながら何をするかと思えば、七瀬の手がわたしの頬に伸びて来て、そのまま頬を優しく撫でて来た。その手の行方が気になったけれど、頬から頭に上がって来て頭も撫でられた。
「こらこらこら、七瀬くん。わたし、いるんですよ?」
「あぁ。うん、でも、変なことしてないだろ」
「まぁ、そうだけど。あやきちが固まってるけど、急に何故そんなコトをしたのか説明よろ~」
狙って上目遣いなんてしてない。単にわたしの目線の上に七瀬の顔があるだけのこと。だけど、なんか七瀬が照れたのか、顔を赤らめて背けてた。照れながら撫でたとか、七瀬が可愛すぎる。
「いや、意味なんて無い。だけど、綾希の頬に触れて、そこから頭を撫でたのは……コイツが可愛かったから。だから撫でた。理解した?」
「お、おぉ。す、すまんな~あやきち。たぶん、私がいたからだわ。私がいなければ、あんなコトやそんなことをしたかったに違いない」
「……合ってる?」
「さぁな。でも、由紀乃がいなくてもそんなコトしないし。綾希が大事だから」
「わたしも七瀬が大事」
「ああ、同じだな」
由紀乃が一緒に来てなかったら、たぶんこのままキスしてたかもしれない。でも、今はこうして一緒の部屋にいて、すぐ傍にいてくれるってだけで凄く嬉しい。
「あ、あやきち……私、先に帰ろうかな~」
「んーん、わたしも帰る」
「だな、泉が帰るなら、綾希も一緒に行った方がいい」
由紀乃がいるのに、少なくとも七瀬は変なコトしないし。でも、何となくお預けをくらってるような七瀬の表情を見ていたら、ここにいられないって思えた。今度はふたりでいられればいい。それでいいって思う。
「じゃあな、泉」
「またね、七瀬くん」
「七瀬」
「綾希。期末対策の時、俺の部屋な。じゃ、また学校で」
「分かった」
軒先の所でわたしと由紀乃を見守りながら、軽く手を振ってた七瀬。また行くから待ってて欲しい。




